JINSEI STORIES

滞仏日記「引退について。一ミュージシャンの決意」 Posted on 2024/04/15 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、プチ引退を決めた。
この夏の、東京と大阪のライブを最後に、しばらくぼくは日本での公式な音楽活動をやめようと思った。
話は、2019年のオーチャードホールでの還暦ライブに遡る。
コンサート当日、台風が上陸し、不可抗力で中止になった。
その翌年、コロナが世界的に大流行をし、二回目のオーチャードホールでのライブも中止になった。
その翌年、コロナが長引き、三回目のオーチャードホールのコンサートが中止になった。
その会場の中止にともなう莫大なキャンセル費用、支払いだけが残った。
プロモーターさんが赤字をどうするか、と言ってきた。聞いたら、とんでもない額だった。
そこでぼくは、コロナ禍だったが、知恵を絞って、フランスのミュージシャンを集めて、(相当に大変だったが、何せ、ロックダウンの最中だったので)セーヌ川の船の上から配信ライブを行い、数千人のお客さんを集客したのだ。
その売り上げで、オーチャードホールの公演中止キャンセル料を返済することができた。
しかし、ぼくは頑張ったが、そのライブに日本側から、誰一人来なかった。
これは、アーティストが担うことだろうか?
スポーティファイとかが出て、CDも意味をなさなくなり、ミュージシャンはどうやって、生きていけばいいのか、わからない時代になった。
ずっと、このことが、疑問だった。
台風やコロナは、自然災害であり、ぼくに責任はない。
でも、仲間のプロモーターが苦しい、というので、ぼくは頑張った。これが事実である。知恵を絞った。
フランスのミュージシャンたち、スタッフの熱意に感謝をした。
素晴らしいライブができたのは、背水の陣だったからであろう。
しかし、そのライブのあと、結束が生まれた。そこで親しくなったフランスのミュージシャンたち、現地プロモーターたちとオランピア劇場を目指すことになったのだ。
熱意とガッツでこれを成功させた。
これは相当な体力と執念がないとできないことなのだ。ぼくの歴史の中で、もっとも辻仁成らしい前進だった。
オランピア劇場でのライブ審査は受験より難しいのだ。誰もできない。
しかし、フランス音楽シーンの聖地で、ラヴィアンローズを歌うことができた。
感無量であった。
その凱旋帰国のコンサートを先の日本のプロモーター、イベンターさんが仕切って、去年、EXシアターや京都劇場で、日本の仲間のミュージシャンたちと行った。
いいライブができたので、今年へとつながるのだけれど、ぼくはもう、この場当たり的なルーティンを繰り返す気力が残っていなかった。
ぼくが思うような音楽活動ではない気がする。
内容についての協議というか、ZOOM会議さえもなかった。
そこで、64歳になったぼくは、憧れのコンサートホール、大阪フェスティバルホールが決まったのを一つのきっかけに、これを最後の自分の節目にしようと思ったのだ。

ま、誰かが悪いというのじゃなく、このままじゃ、自分の音楽ができなくなる、と思ったわけですよ。負のループはいかんのです。

滞仏日記「引退について。一ミュージシャンの決意」

※ この船を貸切りました。周囲に船がいないのは、コロナ禍だからです。決死のライブでした。

滞仏日記「引退について。一ミュージシャンの決意」

※ 誰もいない、コロナ禍の中でのセーヌ川船上ライブ。最高でした。そして、オランピア劇場ライブの最後の曲をおえて、全員で手を握り合った、最高でした。常に最高を目指したいです! 最高はつねに、ぎりぎりの中から生まれるのです。

滞仏日記「引退について。一ミュージシャンの決意」



今回も、ぼくはスポンサーを探し、宣伝をやりはじめるのだけれど、これも、釈然としなかった。
そこで、この4回の日本ライブを、自分のものとするために、またファンの方々の期待を裏切らないため、ぼくは、ここで、公式ライブは最後にする、と決めたのである。
これは、我が音楽人生における、背水の陣、だ。
自分の退路を断ち、ここで完全燃焼するためのライブにする、ということで、ファンを裏切らない道を選ぶことができる。
誰にも相談しないで、決めた。
ぼくは、渡仏後、路上で歌いだした。
その延長線上に、オランピア劇場でのライブの成功があった。
ギタージャンボリーで演奏できたのも、オランピアがあったからだと思う。
一方で、ぼくは、両国国技館のライブ(ギタージャンボリー)を心底楽しんだ。あれは、宣伝も券売も支払いも、何も考えないでよかった。音楽に集中できた。
こういうライブをやりたい。
19日、ロンドンでライブだけれど、もちろん、赤字だが、満席で、このライブのために、半年間、ぼくは英国の仲間たちとかなりしっかりと話し合い(毎日のように議論をした。メッセージは即座に戻って来る)、セトリを決め、パリでリハもやり、それが口コミで、人を集めて、何かが起きる予感で現在はじけそうになっている。マジ、盛り上がっているのだ。熱量がある。
こういうライブをやりたい。
こういうライブを日本のファンの皆さんに見せないとならない。これがぼくの責任なのである。
それは音楽の本来の姿でもある。
東京、ヒューリックホールの3デイズ、大阪フェスティバルホール、この4公演をただの通過点にしちゃいかん!
当然のことだ。じゃあ、どうする!?
今のままでは、この4つのライブが、おざなりになってしまう、とぼくは恥じた。
なぜなら、このライブの公演日はばたばたと決まり、内容に関する熱心な議論があるわけでもなく、タイトルもチケット発売直前にばたばた決まって、いつの間にか、出来上がったからだった。もちろん、イベンターさんはいつも一生懸命会場と交渉してくださっている。なので、素晴らしい会場が出た。
でも、何をやるか、どういうライブをやるのか、話し合いができる前に、また、なんとなく、箱が決まった。
いいコンサートホールが少ないので、日にちも、いい日が選べないらしい。いつも、バタバタなのだ。
これは、誰のせいでもない。会場が少ない、日本の、問題でもある。でも、これじゃあ、いいライブはできない。
オランピアの場合、審査に、一年もかかって、協力者がスポンサーになってくれて、みんなで盛り上げる方向で動いた。パリだって、いい会場は少ない。
ライブ日程が決まってからは、ぼくはポスターを貼るためにパリ中を走り回った。コツコツとチケットを売った。
汗だくになった。未来のない、本当の勝負だった。
だから、オランピアの舞台はイキイキとしていた。後がないことで、一過性のライブではなかった。ドラマがあった。

で、今回だが、ぼくが最終的に日本のライブ公演に関して許可したので、悪いのはぼくだ。
でも、引き受けないと次がない、という焦りが、アーティスト側には常にある。
次? 大事なのは今なのに?
ああ、そうじゃないのに。
とまれ、ぼくが一番年上だし、ぼくに責任がある。
しかし、ぼくの本当の責任は、お客さんを裏切らないことだ。集まってくださる皆さんに、本当の感動を届けることじゃないか。
そこで悩んで、考えつくした結果、辻仁成らしい最後を見つけた。
それが、引退、である。

滞仏日記「引退について。一ミュージシャンの決意」

※ 歴史的劇場に、TSUJI、の名が・・・。涙。



この4つのコンサートで、日本での公式ライブは終わりにする、と決めた。
ぼくは退路を断ち、日本での最後のコンサートホールで有終の美をかざりたい。
チケットを手に取ってくださった方に、最高だった、何で引退するんだ、と思わせる生涯最高の思い出を手渡したい。
あるいは、将来、どこかのフェスや、プライベート・ライブ、友だちの結婚式、とかで喜んで歌わせてもらうかもしれないが、もう、JINSEI TSUJI、公式ライブは、ここで終わりにしよう。
プチ・引退というのはそういうことだ。
最後だから、これまでにない最高を見せたい。
大阪で燃え尽きたい。
懐かしい、エコーズのナンバーも歌わせてもらう。昔の仲間を思って・・・。
よければ、骨を拾いに来てほしい。

滞仏日記「引退について。一ミュージシャンの決意」



※ オランピア劇場ライブの動画である。御覧いただきたい。

それでも、人生はつづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。


さて、その日本公演ツアー、これで当面、見納めになりそうですね。生涯、最高のライブにしますので、お付き合いください。
・東京3DAYS公演
7/30(火)ヒューリックホール東京
7/31(水)ヒューリックホール東京
8/5(月)ヒューリックホール東京
・大阪公演、ワールドツアー千秋楽!
open18:30/start19:00
8/7(水)フェスティバルホール大阪
open18:00/start19:00

Design Stories先行
受付期間:4/6(土)10:00~4/19(金)23:59・抽選

https://w.pia.jp/s/jinsei24ds/
※デザインストーリーズ先行発売でーす。一般発売は5月です。

さらに、、、、
フランスツアーが6月に行われます。
パリは、ベルビルにある老舗の劇場「Le Zebre」にて行われます。チケットが発売になりました。在仏、在欧の皆さん、お時間があれば、ぜひに。
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●6月30日、パリ、Le Zebre チケットはこちらから、どうぞ!
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https://billetterie.seetickets.fr/tsuji-in-paris-concert-le-zebre-30-juin-2024-css5-envolproduction-pg101-ri10301135.html

そして、7月3日、リヨン、La Marquise
なぜか、パリの会場よりも、売れています。売り切れる前に、お早目に!笑。
チケットはこちらから、どうぞ!
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https://billetterie.seetickets.fr/tsuji-in-lyon-concert-la-marquise-peniche-03-juillet-2024-css5-envolproduction-pg101-ri10301835.html

●7月20日から7月28日まで青山・新生堂画廊にて、個展!
●9月後半、コルシカ、アジャクシオ、ライブ。(こういう世界各地のフェスは今後もやります。これも決まっているので、やります)
●4月19日、ロンドン、ライブ。詳細はこちらから☟

https://www.eventbrite.co.uk/e/2gz-tsuji-and-hide-live-japanese-music-in-london-tickets-790578039197?aff=oddtdtcreator


ロンドン公演、間近です!!!

滞仏日記「引退について。一ミュージシャンの決意」

※ ロンドン、パリ、リヨン、ライブも全力でやりきります。ご期待ください。こちらは、すでに、全曲、セトリも、仕上がっています。英語、仏語、日本語、均等に、歌います。

滞仏日記「引退について。一ミュージシャンの決意」

※ いよいよ、4月19日、ボブディランの聖地、ザ・ウオーターラッツに立ちます!



自分流×帝京大学