JINSEI STORIES
滞仏外反母趾日記「足の病院に行き、レントゲンとって、診断が出た。来年は治療に専念だ」 Posted on 2024/04/12 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、今日は外反母趾父ちゃんの左足の問題を、専門医に相談してきた。
パリ郊外にある足や手など、とくに関節に関する専門医の門をたたいた父ちゃんであった。
呼び鈴をならすと、しばらくして、無精ひげの巨体の先生が顔を出した。
眉根がぎゅっと寄っており、なんか、柔道部顧問という感じの強面だったが、実際は、違った。
「こんにちは、か、ニンハオか?」
いきなり、こう聞かれたので、こんにちは、と言った。
待合室に案内され、待つこと15分、前の患者さんに何か指導をしているようで、ばたんばたん、いろいろな物音がした。おお、とか、ぎゃああ、とか聞こえる。
なんか、やばい治療をしている感じであった。
「おおおおお、いたー」
と悲鳴のような声がして、静まり返った。まもなく、年配のマダムが足を引きずりながら出てきた。
「先生、ありがとう。よくなった気がします」
するとマダムは珍しいことに、ドクターに握手を求めたのだった。その瞬間、鬼瓦みたいな顔の先生、満面の笑みに戻り、お大事に、と言ったのだった。
この人、悪くないかもしれない、と思った父ちゃんに鬼瓦が向き直り、
「次は、こんにちは、だね」
と言った。
ぼくは先生のあとについていった。
「そこに座りなさい」
鬼瓦先生は、机に向かい、ぼくの予約表を覗き込んだ。
「つじひとなり」
気の早いぼくは靴と靴下を脱いでいた。
「oui」
「ouiは日本語でなんというのかね」
「はい」
「はい、はい、はい」
もう、わかったから・・・、はよ、診察せーや。笑。
※ 待合室にあった、このわけのわからないマネキン、迫力あった。これでしょ、と思って、写真。
そこから診察がはじまったのだった。
足を掴まれ、いろいろといじくりまわされた。
なんか、不思議な機械にも足をいれたのだった。
「うううむ」
「外反母趾ですよね? 先生」
「さよう、外反母趾だが、原因は遺伝だ」
「遺伝」
「ぼくはロッカーだから、昔からブーツをよく履いてました。原因、それじゃないんですか?」
「遺伝だよ。立ってご覧、鏡の前に。じゃあ、裸になって、写真を撮るから。上、脱いで。それから、ズボンも脱いで」
下着になり、撮影となった。ほぼ全裸に近かった。
先生、背後にまわり、携帯で、盗撮をした。うわ、なんか、気になるわ。いやん。
しかし、その写真を見せられて、ひっくり返りそうになった、父ちゃん。
「ごらん、右肩が、5センチ下がっている」
「5センチ?」
「それだけじゃない、背骨の中心、ほら、ここ、ぐにゃっと曲がっている。この背骨、生まれつきなんだ。右足は左足より5センチ長い。君、歌手なんだろ。この状態で、よく歌えるの?」
「はい、一応、4オクターブ出ます」
「ならば、問題はないな」
「遺伝、治せるんですか?」
「いや、遺伝にさからっちゃだめだ。遺伝のおかげで、君は歌手になることができたのかもしれない。誰も遺伝には逆らえない。その特殊な声も、きっと遺伝の影響があるのだろう。肩、背骨、顎、喉、歪んでいる。声帯も歪んでこの声になったのかもしれない。はい、はい、はい。しかしだ、今後の人生に問題はない。だから、足だけ治そう」
「はい。どうやって?」
「はい、の反対は?」
「いいえ」
「いいえ。オッケー。どうかくの?」
「iieです」
それをメモするちょっと変わった鬼瓦だった。はよー、治療してよ。
「先生、手術をしないとダメでしょうか?」
しばらく、考え込んだ先生、手術をしたいかね? と訊かれた。
「いいえ」
「おお、いいえ、ここで使うんだね。いいえ、はい、いいえ」
どうでもええやろ、と思ったけれど、この人、言語フェチなのかもしれない。
「時間はかかるけれど、少しずつ、足を矯正していくやり方があるので、それでやろう。君の足にあうハンドメイドのサポーター装具を作る。それから、靴底も作る。いいかい、足を貸してごらん」
ぼくは再び、先生に左足を渡した。
先生が、足裏を押した。足の甲のちょうど、真裏を握りこぶしで、ぐい、と。
おおお、ぼくの足が、アーチを描いて、沿った。
「君の足は偏平足なんだ。だから、ここを押して、足の甲をアーチ型にしないとならない。骨が全部、平らにべたっとなっている。いいかね、君の身体を、左右両足の裏側、四点だけで支えているんだ。これじゃあ、外反母趾はなおらない。外反母趾を治すだけじゃなく、足の骨の組み合わせも普通の人のように近づけないとならない。今日から、しばらく、私のところに通ってもらい、ただしい足に近づけていこう。手術はその様子をみてから、判断したらいい。長い闘いになるが、がんばれ」
「はい」
「はい、はい、はい」
鬼瓦のような先生の顔が満面の笑みになった。
ということで、今すぐ手術をしないでいいことになった。
ショックだったのは、ぼくの背骨や肩の位置や足などが驚くほどに歪んでいたことだった。
ドクターに従って、まずは、外反母趾を治す戦いが始まるのだった。
先生、お会いできて光栄でした。
「うん。それは、私もだよ。次の来院を待っている」
「はい!」
ぼくも、先生と握手をしてそこを離れることになった。いい先生だった~。
※ こうやって、正面から見ると、身体が歪んでいるように見えないんですけれど、・・・これが、後ろからとった背中の写真、歪んでいます。ひどい・・・。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
外反母趾との長い闘いがスタートしますが、原因は、遺伝、だそうです。身体はかなり歪んでいました。そして、来年中には、普通の人なみの足に戻してくださる、と先生が約束してくださいましたので、がんばって、治療に専念したいと思います。やっぱ、お医者さんに相談してよかったです。鬼瓦先生、ありがとうございました。
さて、日本公演は、これでしばらく、見納めになりそうです。
・東京3DAYS公演
7/30(火)ヒューリックホール東京
7/31(水)ヒューリックホール東京
8/5(月)ヒューリックホール東京
・大阪公演、ワールドツアー千秋楽!
open18:30/start19:00
8/7(水)フェスティバルホール大阪
open18:00/start19:00
Design Stories先行
受付期間:4/6(土)10:00~4/19(金)23:59・抽選
☟
https://w.pia.jp/s/jinsei24ds/
※デザインストーリーズ先行発売でーす。一般発売は5月です。
さらに、、、、
フランスツアーが6月に行われます。
パリは、ベルビルにある老舗の劇場「Le Zebre」にて行われます。チケットが発売になりました。在仏、在欧の皆さん、お時間があれば、ぜひに。
☟☟☟☟☟
●6月30日、パリ、Le Zebre チケットはこちらから、どうぞ!
☟☟☟
https://billetterie.seetickets.fr/tsuji-in-paris-concert-le-zebre-30-juin-2024-css5-envolproduction-pg101-ri10301135.html
そして、7月3日、リヨン、La Marquise
なぜか、パリの会場よりも、売れています。売り切れる前に、お早目に!笑。
チケットはこちらから、どうぞ!
☟☟☟
https://billetterie.seetickets.fr/tsuji-in-lyon-concert-la-marquise-peniche-03-juillet-2024-css5-envolproduction-pg101-ri10301835.html
●7月20日から7月28日まで青山・新生堂画廊にて、個展!
●9月後半、コルシカ、アジャクシオ、ライブ。(詳細、待って)
●4月19日、ロンドン、ライブ。詳細はこちらから☟
https://www.eventbrite.co.uk/e/2gz-tsuji-and-hide-live-japanese-music-in-london-tickets-790578039197?aff=oddtdtcreator