JINSEI STORIES

滞ボルドー日記「生涯初のワインのブラインドテストを本場のワイン学校で経験した」 Posted on 2024/03/26 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、ということで、ぼくはボルドーワイン学校に入学したのであった。ぱちぱち、めでたし~。
ぼくの指導教授は、メドックでワイナリーを経営する、ワイン生産者のうちだおさむさん(47)であった。
この人、知れば知るほど、面白い経歴の持ち主であった。
十代の終わりに、なぜか世界を知りたい、と人生の勝負に出たうちださん、しかも、なぜか、アメリカじゃなく、フランスにやって来た。
そして、実家が酒屋さんだったこともあり、なぜか、ボルドーワインだと思い込んで、ワイナリーなどを転々としているうちに、自分も生産者になり素晴らしいボルドーワインを作ってみたい、と思うようになった。
で、自分の畑をボルドーで持てないか、と考えだす。フランスに小作制度のようなものがあり、畑は買わないでも、借りて生産できることを知ったのだとか・・・。
みんなに「それは大変だからやめとけ」と言われるが、なぜか、大変な道に入ってしまう。みんなに「じゃあ、メドックだけはやめとけ」と言われ、なぜか、ダメだと言われる方に進んでしまい、気が付いたらメドックで畑を借りていたのだとか・・・、あはは。
買うのは高かったから、借りることからはじめたのだ、という。
そして、「ミラクル」という有機ワインの生産をスタートさせた。13年くらい前のことらしいが、今は、ボルドーワイン協会の先生もやりながら、自分の畑でメドックワインを毎年、一万本くらい、生産しているというのであーる。
出会ったその瞬間、ここまで自己紹介ができた、うちだ先生を尊敬した父ちゃんであった。ぱちぱち、あるぱちーの!!!

滞ボルドー日記「生涯初のワインのブラインドテストを本場のワイン学校で経験した」

※ この人の熱血度、この写真から、伝わったであろうか?

滞ボルドー日記「生涯初のワインのブラインドテストを本場のワイン学校で経験した」

滞ボルドー日記「生涯初のワインのブラインドテストを本場のワイン学校で経験した」



さて、昼食後、ぼくはうっちーに連れられ、いよいよボルドーワイン学校に入学したのであーる。
いきなり、教室で、授業がスタートした。教室の中央に、グラスを洗う装置のついた、特殊なワイン学校の机があった。他の教室には、イタリア人のソムリエら、25人が授業をしていたのであーる。ぼくだけ、マンツーマン!
なんとなく、先入観から、苦手だなと思っていたが、これがとっても面白かった。
1000年前のボルドーワインのこと、英国との歴史的関係、フランス最大のAOCワイン生産地であることの意味、ボルドーワインの市場について、ボルドーワインの生産地について、などなどを事細かに学習したのだった。
そして、そして、長い授業が終わった後、ついに、ブラインドテストが行われたのであった~。
うまれたはじめてのブラインドテストであーる。
ぼくの目の前に、7本の隠されたワインがずらりと並んだ。
「辻さん、じゃあ、ブラインドテストをします。銘柄をあてる必要はありませんが、呑んだワインについて、細かく意見をいっしゃってください。実は、ぼくもこのワインが何か、知らされていないんです」
「ほえー、了解です」
「じゃあ、最初のワインです」
注がれたのは、赤ワインであった。舐めてみた。
「おおおお」

滞ボルドー日記「生涯初のワインのブラインドテストを本場のワイン学校で経験した」

滞ボルドー日記「生涯初のワインのブラインドテストを本場のワイン学校で経験した」

滞ボルドー日記「生涯初のワインのブラインドテストを本場のワイン学校で経験した」



「なんか、残念ですが、ぼく、これ、苦手でして、自分から頼むことはないです。酸味が必要以上に強く、バランスがあまりよくない。でも、個性があって、すっきりとしていて、そうですね、自己主張の強いマダムのようだ。別れたいけれど、ちょっと尾を引く感じですが、でも、別れると決まったら、すっと去っていくような方ですね。そういう意味では後ろ髪を引かれるかもしれないです。ぼくじゃなければ、この人と気の合う人はたくさんいると思います。残念だけれど、ぼくじゃないんです」
「ほー、面白い、そういう回答した人がいないので、さすが、小説家、勉強になります。じゃあ、次です」
ぼくは次を舐めた。
「ああ、この人もちょっとぼくとは気が合わない可能性があります。ちょっと、待って。ふむふむ、酸味があるし、鉄分も強い、硬質ですね。硬い感じが付きまとう。さっきのマダムより、難しい。別れたら、泥沼になるタイプです。近づき難いオーラがあって、そうですね、友だちでも難しいかもしれないです。でも、力強さがあって、頼りがいはあります。残念ですが、ぼくはこの人を選ばないでしょうね」
「なるほど。へー、面白い。次のは、どうですか?」
舐めた瞬間、あ、これは、と思った。
「これ、オーメドック、きましたね。これはメドックだ。ぼく、好きです。何か、友だちでもうまくやれると思うけれど、もっと芯の部分で、つながりのあるマダムです。末永く、ワイン関係を続けたいマダムです。これは、もっと呑みたい」
「・・・・」
こんな感じで、7本のワインのブラインドテストが終わって、
「じゃあ、ブラインドを外しますね」
と全部のエチケットが公開されたのであった。すると、オーメドックと言ったワインは、ほんとうに、オーメドックだったのだ。やった~。
「あ、やっぱり、オーメドックだ」
「そう、その通り、ずばり当たってました」
「でも、どの生産者も知らないですよ」
「あはは」
ということで、なんとか、本国に送還されないですんだ父ちゃんなのであった。
ボルドーワイン、ブラインドテスト、意外と楽しかったです。
またやりたいなァ~。

滞ボルドー日記「生涯初のワインのブラインドテストを本場のワイン学校で経験した」

※ うちだ先生の熱血はつづく。ちなみに、うちださん、日本語は穏やかなのだけれど、仏語になると饒舌になるのであーる。



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
ぼくはボルドーワイン、くわしくなかったのですが、歴史などを学んだことで、興味が沸いてきました。ボルドーワイン大使になった以上、もっともっと詳しくなってみたい、と思わせる、ボルドーワイン学校でした。うちだ先生、ありがとうございます。あはは。
さて、そんな熱血ワイン父ちゃんからのおしらせですが、
フランスツアーが6月に行われます。パリは、ベルビルにある老舗の劇場「Le Zebre」にて行われます。チケットが発売になりました。在仏、在欧の皆さん、お時間があれば、ぜひに。
☟☟☟☟☟
●6月30日、パリ、Le Zebre チケットはこちらから、どうぞ!
☟☟☟
https://billetterie.seetickets.fr/tsuji-in-paris-concert-le-zebre-30-juin-2024-css5-envolproduction-pg101-ri10301135.html

そして、7月3日、リヨン、La Marquise
チケットはこちらから、どうぞ!
☟☟☟
https://billetterie.seetickets.fr/tsuji-in-lyon-concert-la-marquise-peniche-03-juillet-2024-css5-envolproduction-pg101-ri10301835.html

●7月20日から7月28日まで青山・新生堂画廊にて、個展!
●7月後半から8月前半にかけて、日本ツアー、まもなく発表!
●9月後半、コルシカ、アジャクシオ、ライブ。(詳細、待って)
●4月19日、ロンドン、ライブ。詳細はこちらから☟

https://www.eventbrite.co.uk/e/2gz-tsuji-and-hide-live-japanese-music-in-london-tickets-790578039197?aff=oddtdtcreator

滞ボルドー日記「生涯初のワインのブラインドテストを本場のワイン学校で経験した」

自分流×帝京大学

滞ボルドー日記「生涯初のワインのブラインドテストを本場のワイン学校で経験した」