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退屈日記「三四郎を迎えに行ったら、大変なことになっていた。別犬・三四郎事件」 Posted on 2024/03/10 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、三四郎を迎えに、郊外にあるジュリアの家まで車を運転していった。
森に犬たちと出かけていたみたいで、ちょっと待たされることになった。
ジュリアの家の前に車を停めていると、まもなく、黒いヴァンが敷地に入っていった。その5分後、ジュリアが三四郎を抱えて、出てきたのだ。
ぼくは車を降り、道を渡った。
三四郎がぼくの顔を見つけて、尻尾を振りだした。よしよし、ジュリアに挨拶をして、謝礼を手渡し、その手で我が子を抱きかかえた瞬間、ええええ、と思わず息がとまった。
くちゃーい。
なんだ、この獣臭、鼻がもげそうだ。
今まで一度も嗅いだことがない強烈な匂い、これは三四郎の体臭ではない。
動物園のライオンとかトラとかゾウとかのオリに近づくと、すごい獣の匂いがするじゃないですか、まさに、あれなのだ。
5メートル範囲に近づけないくらいのくちゃさであった。
「う、」
と言ったきり、言葉が続かない。
ジュリアが笑顔で立ち去った後も、いつもだったら、抱きしめて、好き好きと頬ずりしてやるところだが、で、できにゃい。
くちゃすぎる。
ぼくが白い目で見下ろすので、三四郎も、なんか変だな、と思っている。ふっていた、尻尾が萎えた・・・。
ぼくが汚染物質を扱うみたいに、遠ざけて抱っこするものだから、三四郎も気が付いて、あれ、変だな、という顔をして、他人行儀になる二人(一人と一匹)。
とにかく、戻って、洗わないと・・・、たまらん。
車の後部席にのせて、息子の待つ自宅兼事務所を目指したが、まもなく、密閉された車の中なものだから、さらに、たまらないことになった。
うわあ、窓を開けたいが、雨、なのだ。
鼻が、もげる~。

退屈日記「三四郎を迎えに行ったら、大変なことになっていた。別犬・三四郎事件」

※ あまりに臭くて、洗っているところとか、写真一枚も撮れなかったので、かわいい頃のイメージカットです。(*`艸´)ウシシシ

退屈日記「三四郎を迎えに行ったら、大変なことになっていた。別犬・三四郎事件」

※ ジュリアが三四郎のために用意していたクリスマス・プレゼント。帰り際にとっておいたから、と渡されました。笑。



ということで、家に戻ると、息子君、「臭い臭い、なにこの匂い~」と騒ぎ出した。
三四郎が、ソファの上とかのぼっちゃまずいので、首輪を外さず、そのまま風呂場へと連行した。
「ちょっと手伝ってくれ」
「ええ、何を」
「洗うのだよ」
「でも、なんで、こんなに臭いの?」
「知らないけれど、今まで経験したことがない。いつもはいい匂いで帰ってくるんだけれど、今日は雨だったし、森から戻ってすぐだったから」
「他の犬の匂いでしょ?」
「だろうね、こんな匂いしないもの、普段」
ぼくはお風呂の中に、三四郎用のプラスティックのお風呂ボックスを入れ、そこお湯をためて、三四郎をとりあえず、いれた。
「臭すぎるよ、パパ。どうなってるの!?」
普段、おとなしい息子が大騒ぎをしている。でも、このまま、ほっておくわけにはいかない。どういう環境で、過ごしていたのか、心配になった。
ノミのワクチンを3か月前に打ったばかりなので、ちょうど、今、もっとも効いている頃だから、ノミ問題は大丈夫だと思うが、ともかく、匂いのもとを絶たないとならない。
犬用のシャンプーを使って、とりあえず、隅々まで、洗った。
「パパ、廊下までこの匂いが」
「まじか」
動物園の飼育かかりになったような気分であった。一度や二度洗いでは、匂いのもとが消えない、と思い、三回も四回も徹底的に洗ってやったのだった。
「もう、いいんじゃないの?」
「そうかな」
「だって、1時間、経ってるよ」
「ええええ」
ということで、三四郎にドライヤーをかけて、乾かしてやった。
ぼくと息子が三四郎のことを冷たい視線で見つめるものだから、三四郎も自分が全否定されているというのがわかるみたいで、ふう~ん、と項垂れている。
かわいそうだけれど、これは仕方がない。
家中の窓をあけ、動物臭を追い払った。
やれやれ。

退屈日記「三四郎を迎えに行ったら、大変なことになっていた。別犬・三四郎事件」



犬も生きているから、自分が何かダメなんだな、というのがわかるみたいで、ぼくから逃げるように、自分のベッドで丸くなるしかない三四郎・・・。
息子が、かわいそうだね、と言いながら、三四郎の頭をなでると、三四郎のしっぽがちょっとだけ、左右にふれて、ぼくらを和ませた。
夕飯を作るには遅い時間になったので、三四郎にご飯を食べさせた後、アレックスの店に行き、アジア飯を食べながら、大学のことや、息子の次の計画について話し合った、辻一家であった。(さんちゃんは、父ちゃんの足元の外出用バックの中で寝ていました。疲れ切っていたのでしょう・・・)
きっと、大きな犬たちにもまれて、匂いまでうつされて、やせ細って、過酷な2週間だったのじゃないか、と推測する。
今日は、ゆっくりね、自分だけの寝床で、誰にも邪魔されず、自分らしさを取り戻してね。
三四郎の大好きな、牛タンのおやつを、一つ、あげたのでした。

退屈日記「三四郎を迎えに行ったら、大変なことになっていた。別犬・三四郎事件」

退屈日記「三四郎を迎えに行ったら、大変なことになっていた。別犬・三四郎事件」



それでも、人生はつづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
いまだかつてない恐ろしい匂いでしたが、大丈夫そうです。神経質なので、隅々まで、チェックをしました。いつもの三四郎の匂いに戻っていたので、きっと、明日からまたいつものさんちゃんに戻っていることでしょう。お疲れさまでした、わん♪

父ちゃんの今後の・スケジュール

●小説「十年後の恋」集英社文庫版、重版!
●小説「東京デシベル」がイタリア、Rizzoli社から刊行されました。
●4月19日、ロンドン、ライブ。詳細はこちらから☟

https://www.eventbrite.co.uk/e/2gz-tsuji-and-hide-live-japanese-music-in-london-tickets-790578039197?aff=oddtdtcreator

●6月28日、ボルドー・ライブ、予定。(詳細待って)
●6月30日、パリ・ライブ決定(まもなく、チケット発売します!!!)
●7月3日、リヨンでライブ。(詳細、お待ちー)
●9月後半、コルシカ、アジャクシオ、ライブ。(詳細、待って)

https://www.instagram.com/japan.stories?igsh=MTA2dWFjODdsZnNrZA%3D%3D&utm_source=qr
新しいデザインストーリーズのインスタも再始動! 
https://www.instagram.com/designstories_paris?igsh=cHlpdGFvdWkyYmdj&utm_source=qr
お知らせ、以上です。

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