JINSEI STORIES
退屈日記「我が家の健康大臣、外出制限期間、辻家に運動を義務付ける」 Posted on 2020/03/18 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、まだ、外出制限が二日目だというのに、ぼくはもうめっちゃ退屈している。フランス全土が隔離のような日々にあるが、家から出られない人の中には離婚申請中の家庭、或いは家族が物凄く多い家もあるだろうし、どうやってこの人たちが今後、外出制限を耐えていくのか、想像するだけで心配になる。日本人はカフェの奥の席に座りたがるけど、フランス人は雨でも雪でもテラス席に座りたがる。この真冬の時期でさえも、テラス席でビールを飲んでいるような人たちで、春が近づいてきたパリで、外に出られないのはあまりに酷な話なのだ。なので、コロナに感染するよりも前に、家から出られないことで精神的にまいってしまう人が続出するのじゃないか、と気を揉んでいる。(昨日、午前中はパリを脱出する人たちで各TGVの駅に殺到していた。外出制限が出る前に田舎に行こうと誰もが考えて当然だったが、そのせいで、駅は大混雑、TGVも満席、このせいで、感染がちょっと拡大したかもしれない。人間の心理というのは、みんな一緒なのだ。そういう時にこそ、冷静になり、我慢をしたり、違う方法で身を守ることをしないとならない)
そんなことを考えていると、我が家の健康大臣がやって来て、
「パパ、運動を義務付けることにした。辻家は毎日、午前中、運動時間をもうけます。パパは高齢者なのでヨガを、ぼくは若いのでもっと軽快なスポーツをやります」
ということで、わけのわからないヨガ・インストラクターのYouTube動画を見せられた。でも、何にもやらないで、このままずるずると過ごすのはやばい。たしかに、うちの健康大臣の言うとおりかもしれない。そこで、テーブルや椅子をどかし、サロンにマットを持ってきて、運動スペースを作った。そして、ぼくは生まれてはじめてヨガに挑んだのだ。まずは見た目からヨガっぽくやってみた。
しかし、このなんちゃってヨガが気持ちよかった。家中の窓を開け放ち、外気をいれて、心を開いた。イメージとしては、インドの浜辺での悟り。深呼吸をし、手を伸ばしたり、寝転がったり、適当なヨガだったけれど、何もしないよりは百倍、千倍、心がのびやかになった。人間、身体を動かすことは大事である。
「お前もやれ、気持ちいいぞ」
と言ったら、息子は、
「パパ、ぼくは踊る」
と言い出して、大音響で激しい音楽をかけはじめた。なんと、ズンバだ! 息子が不思議なおどりをはじめた。ああ、でも、楽しそう。ということで、ぼくも息子の横で一緒に踊ってみた。ズンバ、ズンズン、ズンバ―。ストレス解消になる。16歳の息子と並んでズンバ。こういう経験、なかなかできない。いい汗をかいたので、リフレッシュができた。外出制限は残り12日間、息子の休校は残り4週間とちょっと。まだまだ長い戦いの日々だが、辻家はいろいろな隔離イベントを編みだして、楽しくこの日々を、乗り切っていきたいと思う。