JINSEI STORIES
滞仏日記「エッフェル塔を見上げて22年、幸せな時も不幸な時もあらゆる時代を共に」 Posted on 2024/02/12 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、あまりに稚拙なアイデアだと笑われることを覚悟で言うが、今、父ちゃん画家は、エッフェル塔をモチーフに絵を描いているのであーる指定~。
エッフェル塔だと~?
エッフェル塔だなんてイラストみたいじゃないか、と思われるのも当然だが、父ちゃんが描いているのは、エッフェル塔の鉄塔の錆びたネジだとか、電波塔の電線だとか、焦げ茶色になった鉄製支柱とか、もちろん、エッフェル塔そのものは描いてなくて、そのマテリアルに興味があって、今日もどしゃぶりの中、エッフェル塔まで行って、真下から見上げたのだった。あはは。☜ちょー暇人?
エッフェル塔って、1887年の1月に起工式があって、基礎工事が開始され、1889年3月30日に竣工しているのだ。
19世紀、後半に、すでに今我々が見ている鉄塔がパリの中心部に聳えていたことになる。で、ご存じのように世界中の方々がそれ撮影にやって来て、エッフェル塔の周辺ではお土産用のエッフェル塔キーホルダーが売られている。
古今東西のイラストにもたくさん登場するのだけれど、エッフェル塔の鉄製支柱とか、錆びたネジとかは誰も関心を示していない。
ぼくは老朽化したエッフェル塔が見てきたパリを描きたいと思って、エッフェル塔を介して、パリを描いているのであーるちゅーるらんぼー。
次の個展のために、鉄製支柱とかを描いているのであーるつーでぃーつー。
ここのところ雨が降り続いて、水たまりができ、そこに反射するエッフェル塔も美しかった。
雨の日にしか見ることができない反射エッフェル塔には観光客の皆さん気づかない。それも面白かった。美しいのに、の~。
ぼくは、思えばいつもエッフェル塔を見上げて、この22年、この地で生きてきたのだ。結婚をして笑顔でやってきた直後も、子供が生まれてドキドキしていた時期も、離婚をして落ち込んだ時にも、子育てをしながらも、息子と一緒に元旦の花火を眺めに来たことも何度かあるし、今は、三四郎と散歩のついでに足を延ばしてスケッチをしに・・・。
でも、22年間、思えばいつもエッフェル塔がそこに在った。
ぼくは信仰がないので、祈る対象がなく、なので、いつも大切なチャレンジが迫ってくると、エッフェル塔のたもとに出かけ、「よろしくお願いいたします」とお願いをしてきたのである。
エッフェル塔信仰みたいなものだろうか、あはは。
でも、老朽化甚だしく、本当は、危険なのだそうだ。
失礼ではあるが、そこに関心がある。
特に好きなのが、鉄柱である。
貴婦人のスカートのような鉄柱の装飾は実に素晴らしいし、展望台の下とか横とかの焦げ茶色の鉄の壁も、何度も色を上塗りしてきたのだろう、その化粧を落とせば、ぼろぼろの皮膚が隠されているに違いないのだけれど、そこが、そこが、またまた大好きなのだ。
19世紀、エッフェル塔が完成した後、その展望台にレストランができた。
エッフェル塔建設に反対する連中がそこに集まり、食事をした。
「エッフェル塔建設に反対していたくせに、なんで?」と質問をされ、その連中は、「ここで食事をするとこの建築物を見ないで済むからだ」と言ったのだとか。なんともフランス人らしい、皮肉、である。
でも、そういうものを全部、ひっくるめて、よく、1880年代にこんなものを建てたし、いまだ、保っているのがすごい。
ここには数えきれないほどの人間ドラマがある。
最近もテロがあったが、治安のために、現在は、エッフェル塔の真下に入ることができない。
入場券を買って、検査を受けないとならないのだ。
ちょっと前まではふつうに真下まで行くことができ、見上げることができたのに。
真下からの眺めも、悪くない。
鉄骨ファンにはたまらない、錆びた世界のスカートの中が一望できるのだ。
ということで、ぼくはパリのアトリエで、今、このエッフェル塔シリーズを制作している最中なのである。
パリのアトリエからも、遠くにエッフェル塔を見ることができる。2階に事務所があり、(正確に言うと、4階にぼくと三四郎が寝る小さな小さなスタジオがあり)、建物は隣になるけれど、9階にアトリエがあるのだ。
小さなアトリエだけれど、見晴らしがいいので、疲れた日には、エッフェル塔を眺めている。
22年もここで生きてしまった、そのことをカンバスに叩きつけてやるのである。
次回の個展については、内容も含め、伊勢丹アートギャラリーでの初個展が終わった後に、お知らせしますでござーる。
※、今日、エッフェル塔のたもとで描いたスケッチです・・・、こんな世界観なりー。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
ということで、新宿・伊勢丹デパートの6階にあるアートギャラリーでの初個展まで2週間ほどになってしまいました。焦る~、ほんと、大丈夫なのかなァ、と不安な父ちゃん。人が来るのか、どうかも、心配だけれど、絵がどういう風に飾られるのか、とか、照明とか、全部ひっくるめて、不安なのであります。あまり、噂を聞かないので、ま、もう、どうにでもなれー、という感じですかね。えへへ。熱血~。
はい、それでは、お知らせをまとめて!
●小説「十年後の恋」集英社文庫版が1月19日全国発売。
●小説「東京デシベル」がイタリア、Rizzoli社から刊行されました。
●2月28日から、新宿伊勢丹のアートギャラリーで個展、詳細はこちら☟
https://www.mistore.jp/store/shinjuku/shops/art/artgallery/shopnews_list/shopnews0467.html
●3月3日、両国国技館、ギタージャンボリー出演。(検索ください)
●3月6日、ツジビル・ライブ(SOLD OUT)
●4月19日、ロンドン、ライブ。詳細はこちらから☟
https://www.eventbrite.co.uk/e/2gz-tsuji-and-hide-live-japanese-music-in-london-tickets-790578039197?aff=oddtdtcreator
●6月30日、パリ・ライブ決定(詳細、待って)
●7月3日、リヨンでライブ!!!
・ジャパンストーリーズのインスタ、はじまりました。
https://www.instagram.com/japan.stories?igsh=MTA2dWFjODdsZnNrZA%3D%3D&utm_source=qr
新しいデザインストーリーズのインスタも再始動しています!
https://www.instagram.com/designstories_paris?igsh=cHlpdGFvdWkyYmdj&utm_source=qr
・それから、ぼくのなりすましが、ファイスブックで暗躍していて、問題が起きている、というので、皆さん、フェイスブック、ぼくのなりすましには、近づかないように、友だち申請とかしないでくださいね。要注意です。
以上です。