JINSEI STORIES
退屈日記「古き良き時代のパッサージュを歩き、靴を修理に出した、ハイカラ父ちゃん」 Posted on 2024/02/04 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、パリに百貨店が乱立する前、およそ、18世紀の終わりから、19世紀にかけて、おしゃれな人々は、パッサージュを闊歩していたのであーるぬーぼー。
パッサージュ?
聞きなれない言葉だが、ガラスの天井、美しい装飾、シックなタイルの小道がそろった高級商店街のことをパッサージュという。
デパートが最盛期を迎える前は、このパッサージュに人々は足繫く通って、高級品を眺めていたようである。
今日、父ちゃんはお靴を修理に出すために、ルーブル美術館から徒歩五分の場所にある、パッサージュ「ギャルリー・ヴェロ・ドダ」に行ったのだった。
ま、日本風にいうならば、アーケード商店街、でも、フランスの古い時代のパッサージュは、実に、素晴らしい。
御覧いただきたい、この美しさ!
かつては100か所ほどあったパッサージュだが、今は、十数か所しか残ってない。
その中でも、ここ、「ギャルリー・ヴェロ・ドダ」はもっともエレガントなパッサージュの一つといって過言ではないのであーる。
長さ、80メートル、と、ちょっと短いけれど、装飾品、それからネオ・クラシック様式の内装、装飾、ううむ、父ちゃんの想像力を駆り立てる美しさなのだった。
時代の移り変わりとともに、店舗が減って、今は高級店も、2,3店舗程度だけれど、ここにギターの修理会社があって、そこがね、うお、実に、覗くのが楽しいのである。
このビンテージギター、どうよ!
ということで、靴は2週間後くらいでなおっていますよ、と修理のおにいさんに、言われたのであった。だこー。
気をよくして、家路についた三四郎と父ちゃんなのだった。
事務所に戻ると、中島君ことエリックが掃除をしてくれていた。コーヒーを淹れたら、壁にかかっている絵をじっと見つめ、
「ムッシュの新しい絵ですね」
と言った。
彼は絵が好きなのだ。
ぼくの事務所は美術館みたいに絵が壁にかかっている。今は、ちょうど次の個展用の絵が出番を待って、壁にひしめくようにかかっている。油絵具を、そうやって、一つ一つ、乾かしているのであーる。
「うん、どう?」
「不思議な気持ちになります」
しばらく、並んで絵を見ていたが、
「あ、ムッシュ、トイレのドアノブ、壊れていたので、修理しておきました」
とエリックが笑顔で言った。
まじか、嬉しい。
人の出入りがあるのだが、トイレのドアノブが壊れてると、中から鍵がかけられないので、ちょっと困っていたのだった。メルシー、エリック。
心地よい時間が流れていた。
ぼくは木箱にしまってある、アトリエの鍵を取り出し、裏口から別の建物へと中庭を通って進み、裏階段をあがった。
※ このドアノブ、エリックがなおしてくれた、嬉しい。
古いらせん階段を、こつこつ、と上るのだ。エレベーターもあるけれど、ここは、アールデコ様式の建物なので、裏階段もそれなりに雰囲気があって、素晴らしい。
途中階で立ち止まり、中庭を見下ろした。
様々な時代の建築様式とともに、ゆっくりと時間が流れているパリを感じた、今日なのであった。
ちなみに、今、ぼくが描いているのは、パリの印象画なのである。
お楽しみに。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
小説「十年後の恋」はノルマンディを舞台に書いたので、建物はパリのとはちょっと違って、ノルマンディ様式の家が多く登場するのです。伊勢丹の個展に出している絵も、そういう建物を描いたのでした。どの時代の建築様式も、うっとりします。ぼく、なんで、パリで生きるようになったのか、わかります? それは、フランスの色が大好きなのです。壁とか、天井の色が、落ち着くから。ふふふ。
※ パレットナイフで主に絵を描くので、カンバスの下に突き刺しているのじゃ。あはは。今、下書き、ベースをつくっているところ・・・。
はい、さて、今年の父ちゃんのスケジュールのお知らせです。
●小説「十年後の恋」集英社文庫版が1月19日全国発売。重版出来!
●小説「東京デシベル」がイタリア、Rizzoli社から刊行されました。
●2月28日から、新宿伊勢丹のアートギャラリーで個展。
☟☟☟ (詳細)
https://www.mistore.jp/store/shinjuku/shops/art/artgallery/shopnews_list/shopnews0467.html
●3月3日、両国国技館、ギタージャンボリー出演。(検索ください)
●3月6日、ツジビル・ライブ(SOLD OUT)
●4月19日、ロンドン、ザ・ウオーター・ラッツでのライブ。詳細はこちらから☟
https://www.eventbrite.co.uk/e/2gz-tsuji-and-hide-live-japanese-music-in-london-tickets-790578039197?aff=oddtdtcreator
●6月30日、パリ・ライブ決定(詳細、待って)
●7月3日、リヨンでライブ!!!
以上です。