JINSEI STORIES
滞仏日記「サボテンだって、綺麗な花を咲かせられるんですよ」 Posted on 2020/03/16 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、サボテンが昔から好きでね、なんか自分を見ているようなところもあって、一時期、サボテンばかり家に置いてたのだけど、つまり、サボテンってあまり水をあげなくても、育つというイメージがあったし、砂漠の植物だから、ほっといてもいい、みたいな。ところが、そのサボテンを枯らした日に、ぼくは衝撃を受けた。ぼくはサボテンを枯らすような人間なんだ、って落ち込んだ。それから植物を家で育てたことがない。今は、枯らさないように、子育てで必死。子育てを放棄したくなると、枯れたサボテンのことを思い出して頑張っている。
サボテンはいつも棘を生やしている。それは外敵から身を守るためなのだけど、でも、その棘のせいで人を近づけないわけである。ある時、そのことに気が付いて、ぼくはサボテン好きになった。ああ、これ自分じゃないか、って思った。それでサボテンを育てるように、というか、ベッドの横に置くようになったのだけど、とげとげしているサボテンが、都会の砂漠の中で歯を食いしばっている自分みたいだな、と思って。で、ある日、目が覚めたら、そのサボテンが赤い花を咲かせていて、驚いたことがあった。え? サボテンくん、君、こんなに可愛い花を咲かせることが出来るんだね、すごいじゃん!!!
それで、ぼくはますますサボテンが好きになった。ああ、これは自分だな、と思った。ぼくもがんばって花を咲かせなきゃって。棘で身を守り過ぎると、誰も近づかないよって。でも、そしたら花を咲かせてごらん、そしたら、きっと誰かが君に声をかけてくるはずだからって。30歳の時に、それに気が付いて、「サボテンの心」という歌が出来た。30年も前のことだ。今、世界は酷い状態になり、この先、世界がどうなってしまうのか、誰にもわからない。こんな時代になると、人々は不安に苛まれてしまう。だから、棘を生やしてもしょうがないとは思うのだけど、花も咲かせられたらいいよねって、思う。
フランスがこんな状態になる前にね、パリの小さなうどん屋で歌った映像があるので、よかったらこっそりと和んでみてください。いつかまたいつもの日常が戻ってくるとサボテンおじさんのぼくは信じているよ。
「サボテンの心」をあなたに、届けます。
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「サボテンの心 | JINSEI TSUJI AT 国虎 PARIS」