某月某日、めっちゃ晴天の日曜日となった。全仏でレストラン、カフェ。娯楽施設が閉鎖になった初日である。しかし、結構、人が出ている。子供たちが親御さんと自転車などに乘って楽しんでいる。というのも、イタリアのような外出制限は出ていない、今のところ。みんな太陽を浴びている。で、息子と話し合い、俺たちもなんかやろうよ、ということになった。で、検討の結果、この５週間、毎日、一緒にランチ作ろう、ということに。いいね、いいね、こういう時だからこそ、楽しくやろう。前向きな父子である。で、何を食べたい、という話しになって、第一弾は息子のリクエストで「カフェよりうまいハンバーガー」と決定。父ちゃん、賛成！

で、日曜日は通常、午前中、スーパーは営業している。昨日のフランス政府の発表でも命に関わる店舗の営業は続けるということなので、本当かどうか、様子を見に行った。日本でも展開している有機系スーパーのビオセボン、お馴染みのカルフールやモノプリも開いていた。オペラ地区の日本食材店もやってるらしい。(DSスタッフ情報)

買い占めの客でゲキ込みだろうと思って覗くと、いや、そうでもない。通常の日曜日と客の入りはそれほど変わらない。いつ仕入れたのだろうというくらい、肉、野菜、ハムなどが陳列されてあった。これにはちょっとびっくり。昨日の午後には消えていたのに…。企業努力というやつかな。とにかく、父ちゃんは材料に必要な牛肉の生食用ひき肉(残ねながらフランスでは豚と鶏のひき肉は売ってない)、チーズ、サラミ、野菜(生食用のホウレンソウ)、冷凍のフライドポテト、おっと、ハンバーガーのパンズなどを買った。
「ムッシュ、昼めしはハンバーガーですね」
と馴染みのレジの青年が言った。
「フランスがついにレストランとかカフェとか閉めたからね、これから５週間息子のために昼飯を拵えなきゃならないんだよ」
少し前の日記で、『手袋をはめるのはあんたたちアジア人が来るからさ』ときわどいジョークを言い放った若造である。今日も手袋をしていた。かなり汚れている。かえてくれよ。
「手袋してくれてありがとう。今の時期、フランス人と接触しないで済むから助かるよ」
と冗談返しをしておいた。若造が大笑いをした。ムッシュ、さすが！

さて、フランス人の場合、ハンバーガーは通常のハンバーガーサイズにカットされた肉を、レアで焼いてパンズに挟んで食べるだけ。しかし、これじゃ芸がない。そこで息子とぼくはいろいろとアイデアを出し合って、日本のハンバーグに近いものを作り、それをパンズで挟むことにした。でも焼き加減はレアがいいので、食材を厳選した。まず、牛ひき肉はバルサミコ、ケチャップ、タコ焼きソース(これしかなかった)塩胡椒をして下味をつけておき、それに、卵の黄身、玉ねぎの代わりにエシャロットをしんなりと炒めて入れたもの、パンと牛乳は使わず、かわりにギリシャヨーグルト、を少し入れた。これだと生肉っぽい状態で食べられる。表面だけサッと焼いて中はレアな状態で、(片面を焼いてひっくり返したらチーズを載せる、その温度でチーズがとろけます)パンズに挟んだ。完成である。盛り付けは息子に任せた。なかなかうまそうじゃないか。パンはオーブンで焼き、サクサクで、中がしっとりに仕上げてある。お皿を抱えて二人で小躍りしながら、食堂へ運び、試食会となった。

「勉強ちゃんとやれよ」
「あのね、パパ。休校だけど、毎日学校から宿題メールが届くんだよ。先生とやりとりもしている。毎日やらないとならない課題が満載なんだ。言っとくけど、遊んでいる暇なんかないんだよ。ぼくには」
「っていうか、朝からハッピーな音楽が流れてきてたけど、君の部屋から」
「気分転換だよ。ぼくの部屋は暗いし、散らかっているし、環境がいまいちだからね、音楽で明るい気分を演出している。それくらいいいでしょ？」
「別に、部屋を掃除して、勉強をすれば何してもいいよ」
(相変わらず、会話は噛み合ってない」
「あのね、ぼくはバカンスだとは思ってないよ。毎日、学校に行くように机に向かい、ちゃんといつもと同じ時間に勉強をしているんだ」
「そうか、ならば安心をした。さあ、食え」
「おお、美味い」
息子がハンバーガーにかじりついて、一言、そう唸った。ぼくも真似をしてくらいついてみた。
「おお、美味すぎる！」
初日は快調だが、それにしても、５週間は長すぎる。でも、先のことを考えてもしょうがない。息子との思い出をたくさん作るチャンスだと思って、日々を明るく乗り越えて行きたい。それが人生というものだ。
「夜は麻婆豆腐にするからな。賛成の人」
「はーい」