JINSEI STORIES
滞仏日記「誰も来ないと思う初個展なのに、初日だけ、入場制限があるらしい」 Posted on 2024/01/16 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、初個展が近づいてきたのだが、不安がないといえば、ウソになる。
そもそも、展覧会、ではなく、画廊での個展なので、絵を売る、ということが目的のひとつ、つまり、絵が売れなかったら、どうしよう、とか、ちょっとは考えだし、焦っている。
そもそも、ぼくのような風変わりな人間が描く絵なのだから、普通ではない。ルノアールのようなきれいな絵でもないし、むしろ、ルオーのように、暗いし、画廊の人には「絶叫の画家」と言われてしまった。絶叫・・・そんな絵、いらないよね。
たしかに、千住博画伯に認められて、開催が急遽決まったのだが、千住さんも考えてみれば、彼の描く世界は美しいが、風変わりなものが好きなぼくみたいな人なので、彼がいいと言ったからといって、絵が売れるとは到底、思えない。
そもそも、来場者がどのくらいいるのか、さえも、想像できない。ゼロはないだろうが、数十人ということもある。
小説家で、歌うたいのぼくが描く、なんだかわからない絵をあなた、見たいですか?
でも、伊勢丹さんには、問い合わせがあるようで、画廊サイドはちょっとだけ心配しているみたい・・・。
で、そんなことはありえません、と言い張るぼくと、伊勢丹の担当者さんでは、少し考え方が違って、初日だけ、とくに様子を見たい、と向こうの方が言い出した。
もしも、たくさん、おしかけたら、じっくりと絵を見て、買うことができない、絵は空間と距離が必要、とおっしゃるのだ。なので、絵と絵のあいだ、それなりの空域をとって、展示されるようである。
伊勢丹画廊の皆さんは、ぼくの絵を、じっくりと見せたい、と考えている。
というのは、伊勢丹アートギャラリーはミュージアムのような大きさではない。
メインビルディングの6階の片隅にある画廊で、(そんなに狭いとは思えないのだけれど)、確かに美術館規模ではないので、初日に一斉に押しかけられると、絵をゆっくり鑑賞する感じにはならない、かもしれない。
そこで、28日から行われる個展の初日、つまり、28日だけ、多少の入場制限をしたいという申し出を先ほど頂いたのだった。
しかし、翌日の29日から最終日の3月5日までは制限はなし、朝から終わりまでいつでも来て鑑賞することができる、から、ご安心いただきたい。
どうしても初日に見て、絵を買いたい、という人がいるかもしれない、と画廊側は考えているのだ。
なるほど、でも、誰も来ないかもしれないじゃないですか、とぼくは言ったのだけれど、問い合わせが多少あるようなので、安全策をとりたい、みたいね・・・。
で、1月の25日に、初日にどうしても見たいという方のためのパスを発行する、ということになった。何度か伊勢丹ではこのシステムで開催しているらしい。
詳しくは、25日に、発表されるので、この日記で、きちんとご報告をさせていただく。
ぼくは逆に、そのせいで、ますます、人が来なくなるのじゃないか、と心配が増えている。
名門伊勢丹画廊なのだから、ぼくがとやかく言うことじゃない、と事務所にもくぎを刺されてしまった。任せましょう、ここは・・・。
ということで、個展開催期間の初日、28日は、少ない人数でじっくりと見ることができる感じになり、29日からは予約なしで、自由参観、という感じらしい。
で、ぼくは初日と29日は顔を出す、予定で、といっても、裏に潜んでいる感じですが、3月1日以降は、他の仕事などの合間をぬって、ちらっと顔を出す程度になるのかなァ。ずっといたいけれど、ギタージャンボリーとかもあり、抜け出して見に来る感じかなァ。
しかし、だーれもいない、可能性もあるし、遠くから様子を見て、ドキドキしているにちがいない、父ちゃん画伯なのだった。えへへ。
作品は、38点となり、一番小さなサイズで、3号、一番大きなもので60号の絵となる。
一応、現代アートなので、額装はされていない。
描いた時の状態で、壁に展示される。(ぼくは描いた絵は、しばらく、自分の住居に展示して、眺めて過ごすのだ。どの絵も、一度は、壁にかかって、ぼくの生活の一部になっていた)
今回、初個展だけれど、作品の描かれた時期は、2018年くらいから2023年まで、かな。
実は、80年代、90年代、2000年以降、など、もっと古いものもあるが、それらは売ることができないものばかりで、展示はしない。
今回の作品は、一部を除いて、ほぼ、ノルマンディからインスピレーションを受けている。ノルマンディで描かれた絵が9割。(もっとも仕上げはパリのアトリエだったりもする)
パリで描かれた作品も存在するが、ノルマンディで描かれた絵たちは、力強く、生きる力に満ちているので、元気のない時代に、躍動感を楽しんでもらいたい。
しかし、それにしても、不安だ。
わかってもらえるのか、好きになってもらえるのか、ちっとも自信がないからである。
何せ、絵というのは受け取る人の好みで、どうにでもなる創作物。
万人に愛される絵とか、絶対に描きたくないので、かなーり風変わりな絵ばかりだ、と思って、見たい方は挑んでいただきたい。
ま、小説には多少の読者へ向けた意識というのが働くのだけれど、この絵というものは、それがゼロなので・・・。自分がいいと思うものしか、生まれてこない。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
どうなることか、不安でしょうがないのですが、そもそも、この絵というものは初期衝動のみで生まれてくるものだし、ユニークピース、つまりこの世に一つしかないぼくの分身なので、(同じものは描けませんし、量産できない)、ま、ガラガラでも、堂々としていればいいですね。
28日、初日の入場方法は、25日に、伊勢丹のサイトで発表になりますが、こちらでも、ご紹介いたします。先着順ではないようです。
お時間があれば、29日からは自由に鑑賞できます。はい。
さて、今年の父ちゃんのスケジュールのお知らせです。
●小説「十年後の恋」集英社文庫版が1月19日全国発売。
●小説「東京デシベル」がイタリア、Rittoli社から刊行されました。
●2月28日から、新宿伊勢丹のアートギャラリーで個展(詳しくまたご報告します)
●3月3日、両国国技館、ギタージャンボリー出演。(検索ください)
●3月6日、ツジビル・ライブ(SOLD OUT)
●4月19日、ロンドン、ライブ。詳細はこちらから☟
https://www.eventbrite.co.uk/e/2gz-tsuji-and-hide-live-japanese-music-in-london-tickets-790578039197?aff=oddtdtcreator
●6月30日、パリ・ライブ決定(詳細、待って)
●7月3日、リヨンでもやります!!!
以上です。