JINSEI STORIES
退屈日記「三四郎には行きつけのカフェがあり、ギャルソンたちの寵愛を受ける」 Posted on 2024/01/15 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、とにかく、三四郎と散歩に出ると、困ったことがあるのだ。
彼はカフェが大好きで、「行かないよ、今日は行かないんだよ」と言っても、自分から身を乗り出すようにカフェの入り口をめがけて、ぐんぐん、突進するのだった。
カフェのギャルソンたちも三四郎が好きだから、見つけると飛んできて、ドアを内側から、あけて、「お帰りエリック」などと言うのである。
カフェでは「エリック」と名付けられ、すっかり、エリックになりきっているさんちゃんなのであった。
もちろん、カフェに入っても、椅子には上がることができないので、犬たちは、テーブルの下でまるくなる。
でも、三四郎お気に入りのカフェはギャルソンたちがとっかえひっかえやって来て、やあ、と三四郎の頭をさすっていくのだ。
「わんちゃんに、水を出していいですか?」
「ありがとう」
ということで、パリのカフェ、気の利いているカフェ(三四郎お気に入りのカフェ)では、必ず、犬にも、水が出される。
そこもさんちゃんにとって、点数の高いところである。
しかも、水だけではない。
「ちょっと待ってるんだよ」
と言って、みんな犬用のクッキーを奥から持ってくる。最初は一応、「あげてもいいですか」と訊かれたが、今や、クッキーは毎回のご挨拶となった。
三四郎の心をめっちゃ射止めたフランスの給仕たち、ほぼ、犬が嫌いな人に会ったことがない。
大変いいことではあるが、毎回、カフェに引きずり込まれる父ちゃんにとっては、ちょっと大変なのである。
呑みたくもないビールやワインを注文しないとならないので・・・。
呑みたくないのに・・・。ほんと、いやなんです。
※ さんちゃん、これが、目当て!!!!
ところで、ここのカフェ、グーグルマップの評価点数(?)が、ほぼ高得点なのだけれど、ひとつ、「2」というのがあった。
ぼくは「5」を付けたい、それくらい、実に居心地のいいカフェなのである。
で、「2」を付けた人は「犬がいっぱいいて、ちょっといやだった」とコメントをしていたのだった。
するとここのオーナーが「犬たちは当カフェの一番の友だちです」とめっちゃ粋なコメントを返していて、客に媚びないフランス人気質、にスカッとした。
こういう切り返しが、嫌味にならずさらっと返せるフランスの自分流、とってもいいね。たぶん、周辺の常連たちのあいだで、さらに点数があがっていること、間違いなし。
これには、動物好きの父ちゃん、笑みがあふれた。
フランス人は犬猫好きが圧倒的に多く、犬で嫌な顔をする人はそもそもカフェには来ない。欧州でも、イタリアに負けないくらいフランスは犬天国なのである。
でも、犬には責任がないが、犬のうんちの片づけをやらない飼い主がいることも事実で、とくに大型犬とかのを放置されると、犬を飼っているぼくでさえも、腹が立つ。
ペットを飼うのなら、社会に迷惑をかけないよう、親がきちんと管理すべきであろう。
ま、硬い話はここまで。
今日も、エリックこと三四郎は、カフェのギャルソンたち全員に愛され、まるで映画スターのような顔で、店をさっそうと出ていくのだった。
ちなみに、ギャルソンたちが与えるクッキー、骨の形をしていた。あはは。
さんちゃん、今日も絶好調なのであーる。
※ さんちゃんと友人のルルちゃんは、お揃いの服なんですよー。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
ぼくが犬好きな理由・・・・、まず、犬は余計なことは言わない、でも、飼い主が元気がないと、寄り添い、ぬくもりを与えてくれる。めんどうくさい人間が多い世の中で、犬はまじ、友だちなのであーる。
さて、今年の父ちゃんのスケジュールのお知らせです。
●小説「十年後の恋」集英社文庫版が1月19日全国発売。
●小説「東京デシベル」がイタリア、Rittoli社から刊行されました。
●2月28日から、新宿伊勢丹のアートギャラリーで個展(詳しくまたご報告します)
●3月3日、両国国技館、ギタージャンボリー出演。(検索ください)
●3月6日、ツジビル・ライブ(SOLD OUT)
●4月19日、ロンドン、ライブ。詳細はこちらから☟
https://www.eventbrite.co.uk/e/2gz-tsuji-and-hide-live-japanese-music-in-london-tickets-790578039197?aff=oddtdtcreator
●6月30日、パリ・ライブ決定(詳細、待って)
●7月3日、リヨンでもやります!!!
以上です。