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滞仏日記「JALのCAさんたち、ありがとう。仏人の友人たちが称賛してますよ」 Posted on 2024/01/04 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、ここ数年、とくに、JALで日仏の行き来をしているせいもあり、今回の羽田空港での大事故からの生還劇を知れば知るほど、CAさんの判断力が、素晴らしかったのだな、ということを再認識させられた。(普段は機長からの指示で動かないとならないが、機内アナウンスシステムが不能になっており、CAが判断しないとならない状況下にあった)
時系列で、その当時の模様をニュース記事などで知ったのだけれど、最後は、自分たちの判断で、少ないドアを開き、乗客を誘導した、ことは、間違いなく、人命救出の大きなポイントだった、と思わざるをえない。
その上、これが、日本じゃなく、他の国で起こった場合、乗客は、CAさんの指示をどこまで聞き従った、だろうか? 
たぶん、ほとんどの人が荷物を持って外に出ようとしたのじゃないか・・・、そうなった場合、多くの犠牲者が出ていても不思議ではない。

滞仏日記「JALのCAさんたち、ありがとう。仏人の友人たちが称賛してますよ」

※ 世界中の航空会社が乗り入れるパリのシャルルドゴール空港でも、JALの地上係員の皆さんが、こうやって、旅の安全を願って送り出してくれるのだ。これは世界的にみても、かなーり、珍しいことで、乗客としては安心ができる。



さらに、集団統率力を持った乗客一人一人の的確な判断にも救われた。
「今は荷物を降ろしている場合じゃない。まず、脱出だ」という意識が働いた、と想像ができる。
もしかすると、誰かが、その場その場で、CAに代わり、荷物を持たず、脱出しよう、と乗客にうながした可能性もある。
日本人的な集団統率力が、功を奏した結果、ではないだろうか。
誰かが強い我を出し、それも複数人が荷物を降ろそうとしたならば、後部の乗客は身動きがとれなくなった、だろう。
日仏を頻繁に行き来するぼくが日本の航空会社(ANAさんも、素晴らしいですよ)を必ず選ぶのは、この安全性ゆえである。
飛行機に乗る、ということは、命を預ける、ということなので、BBCが言ったように「教科書通りの脱出劇」ではあったが、それができるとできない、では結果がまるで違ってくるのだ。普通は、できない。
つねに、訓練をし、いざという時に備える、これは簡単なことではない。
それでも、荷物室に預けられてペットが命を失っている。
同じ、犬の飼い主としては、胸がかなり痛む。そこに三四郎がいたら、と思うと、涙がとまらなくなった。なんとも、言葉が出てこない。
今日は、そんなことを考えながら、一日を過ごした。

滞仏日記「JALのCAさんたち、ありがとう。仏人の友人たちが称賛してますよ」



行きつけのカフェに顔を出すと、ギャルソンのアレックスが、
「日本は正月早々にあまりに大変で、胸が痛むね」
と言って、痛む心を、慰めてくれた。
しかし、彼は、こうも言った。
「ジャパンエアーラインの完璧な仕事、ぼくはあらためて日本人を尊敬したよ」
ぼくはJALの人でもないが、ありがとう、と言っておいた。
この話は、周辺のお客さんを巻き込んで、みんなが、日本だから、できたことだろう、と言っていた。
90秒以内に脱出させないとならない、という航空世界のルールをきちんと実践できたCAさんたち、一人ひとりの行動力、判断力のたまものであったのであろう。
ぼくは、いつも、離陸する飛行機に、手を振るJALの方々を撮影してきた。
福岡空港でも、パリ・シャルルドゴール空港であっても、・・・。
みんなで力をあわせて日本の空を守っているのだな、と思えるので、安心して、乗客でいられるのであるー。
メルシー。

滞仏日記「JALのCAさんたち、ありがとう。仏人の友人たちが称賛してますよ」



さて、ずっと雨だったが、晴れ間が見えたので、絵の具を買うために文房具屋さんまで、三四郎の散歩もかねて、出かけたのだけれど、何日も雨が続いていたこともあり、晴れ間と同時に、すべての犬たちが散歩に出て、そこら中で、わんちゃんと遭遇することになった。
それはいいのだけれど、三四郎は小犬が怖いのである。
もちろん、大きな犬はもっと怖いのだけれど、小犬、しかも、自分よりもうんと小さな犬とすれ違うだけで、父ちゃんの後ろに隠れて、小さな声で、ううう、と唸っている。
小犬とはいえ、犬なので、ビビっている三四郎を見て、吠えてくる犬もいて、そうなるともう、リードを引っ張って、逃走しはじめるのだ。
「おい、待て」
と、その時、新しい首輪が大きすぎてすぽんと抜けて、不意には走りだした三四郎・・・。
遠ざかる愛犬を縛らく眺めた後、仕方なく、
「三四郎! おやつ!!!!」
と大きな声で叫ぶと、逃走愛犬はふと立ち止まり、こちらを振り返ったのだった。
「おやつ」
ポケットからビスケットを取り出すと、おとなしく戻ってきて、再び首輪におさまった、我が子であった。
あはは。
訓練がもっと必要なのは、さんちゃん、かもしれないですね。
自分だけ脱出しちゃいかんのだよ!

滞仏日記「JALのCAさんたち、ありがとう。仏人の友人たちが称賛してますよ」

滞仏日記「JALのCAさんたち、ありがとう。仏人の友人たちが称賛してますよ」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
ということで、ぼくもまた近々、個展もあるし、ライブもあるので、日本に戻ることになりますが、安心して、空の旅を機長とCAさんらにゆだねたいですね。
さて、父ちゃんの個展ですが、2月28日から新宿・伊勢丹デパート、本館6Fにある伊勢丹アートギャラリーにて、開催されます。3月5日の18時までですから、お見逃しなく。
そして、3月3日は、ギタージャンボリーに出演、30分くらい弾き語りをします。ええと、両国国技館です。
3月6日は、ツジビルの桜祭り、一部、二部、あわせると4時間に及ぶイベントです。(チケットは、売り切れています。でも、また、すぐ開催します。次回も!)
日本でお会いしましょうね。伊勢丹にはできる限り、毎日、短くても、顔を出す予定でいます。38作品、じっくりご鑑賞ください。

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