JINSEI STORIES
滞伊日記「短いローマ滞在中、かなり自分好みだなと思って二度通った店があった」 Posted on 2023/12/30 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、ローマは一日して成らず、なので、この短い滞在中で、ローマ1、2を争うパスタはこれだ、と言い切れる自信はないが、でも、わずか数日の滞在期間中、2度、通った店があった。
しかも、そこのロブスターのトマトパスタを二度注文した、父ちゃんであった。
テベレ川沿いにある、「アルト」という店だ。
6階がカクテルバーなので、間違わないように、5階にあるのがレストラン「アルト」であーる。
なぜ、ここを発見したのか、というと、滞在したホテルが推薦してくれたことが大きい。
カルボナーラはおいてなかったが、給仕さんに推薦され、食べたタリオリーニが、マジで、驚くべきほどにおいしかったので、悩んだが、ご紹介させていただく。
ただ、このレストラン、問題がある。
まずは、魚介専門のレストランであり、どちらかというと上階でやっているカクテルバーが有名らしい。
そして、高級ホテルの最上階にあり、つまり、ちょっと高い、のである。
ぼくが頼んだロブスターのタリオリーニが32ユーロした。
ロブスターがだいたい半身ほど入っているので、同じものをフランスで食べると、70ユーロくらいするのじゃないか、と思う。(ロブスターだけならば、50ユーロくらいかな)
新鮮な魚を直接仕入れている魚介専門店だからこそ、できるこの価格だが、円安なので、32ユーロを円換算すると、げげげ、5000円もしてしまう。
ちなみに、父ちゃんがカルボナーラ一点主義で滞在したこのローマで、一番安い店のカルボナーラは、なんと10ユーロ、1600円であった。
日本人観光客にはつらい円安なので、正直、おすすめできないが、伊勢海老とならぶ欧州の高級ロブスターが半分入って、32ユーロは、パリでは破格な値段なのである。
そして、このタリオリーニ、正直、申し上げるが、はじめて経験した「おいしさ」であった。
※ あわせた白ワインは、ピノ・グリージョ!!!
※いつまでも続く感動が、・・・すばらしい。
まず、このタリオリーニなるものを説明したい。
手打ちの平内ち麺で、幅が2~3ミリという細さ、タリアッテレの半分以下、という印象だが、ここの手打ちが、さぬきうどんをタリオリーニにしたら、こうなるんじゃないか、というくらいのものすごい弾力、歯ごたえ!
と書いたが、硬いのではなく、噛み応えがあるのに、最高の讃岐うどんのしこしこに匹敵する感動なのであーる。
手打ち麺だが、トマトソースとの相性が抜群で、火を入れる時に、麺の周辺が焦がされたようになるのか、炭焼き風というか、嚙みながら、香ばしく、おおお、と何度も唸った。
先日、ローマ1のカルボナーラとご紹介したルチアーノの手打ちスパゲッティでさえも、後半にはちょっと飽きたりした父ちゃん、しかーし、アルトのタリオリーニは、口に頬張る度に、ぐぐぐ、なんやこれ、と勝手に唸り声が飛び出してしまう、うまさ、であった。
で、ぼくはロブスターというか甲殻エビ系があまり好きじゃない。
むしろ、嫌いなの。
とくにロブスターが苦手なのだ、あはは。珍しい出会いでしょ???
伊勢海老は好きなのだけれど、ロブスターはどこか水っぽい、というか、ねー。
しかし、あまりに給仕長が、推薦をするので、清水の舞台から飛び降りる勢いで、注文したら、はまった。
昨夜も二回目の訪問とあいなった。
うまい。
悔しいけれど、ノルマンディが霞むほどに、うまいのだ。
なぜ、給仕長のことを信じたかというと、ワインと何かつまみたい、とお任せで、注文したら出てきたのが、ほたてのサルティンボッカ、なのだった。
ホタテのサルティンボッカ??? は~???
聞いたことないでしょ?
サルティンボッカとは、孔子肉に生ハムを巻き、そこにハーブの「セージ」をのせて(爪楊枝で刺しているところが多い)、マサラ酒などで焼いた料理で、当然、肉料理、になる。
時々、鶏肉とか豚肉のサルティンボッカを食べることもあるが、ほたて!?
ほたてー、は、はじめてだった。
ま、いいか、と口に入れたとたん、信じられないことに、ふわ~、なんじゃこれ、とうなってしまった。
白ワイン、マサラ種、バターでソースをつくり、マリネされたホタテ(いや、ほぼほぼ生に近い状態)にセージがちょっと置かれただけのもので、しかし、これが、父ちゃん的には、ワインのおつまみに、最高なのだった。
次への期待をさせる前菜だ。
ローマでしか食べられない、この季節の青野菜、プンタレッラ(チコリ)の辛み炒めと一緒に食べたのだけれど、これも、ローマで食べたチコリの中で一番だった。
※ チコリのソテー、唐辛子が入っている!
そこからのタリオリーニなのであーる。
三四郎は足元で爆睡し、(絨毯が心地よさそうで)、父ちゃんはいきなり、鼻から火を噴きだしておったのであーる。
(ちなみに、ロブスターが入ってないトマトソースだけのものであれば22ユーロで食べることができる。
で、でも、10ユーロの違いで、ロブスターが半分も入ってくる、というのは、シェフの計算能力を疑う大胆さであった。
とにかく、もしも、また、ローマに来ることがあれば、アルトに行き、ロブスターのタリオリーニを間違いなく注文するであろう。
その翌日、ルチアーノに行って、シグネチャー・カルボナーラ、ということになるだろう。
今日までに、10皿のスパゲッティを食べたが、残念ながら、一等賞は、スパゲッティではなく、タリオリーニ(手打ち麺)だった、というオチ。
さすが、ローマは一日にして成らず、やね~。
ぜったい、また、訪問してやる、と誓った父ちゃんであった。
※ デザートのティラミス!!!
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
世界は広いですな。そして、いろいろな食べ物がありますね。今回の旅は、カルボナーラを食する旅だったので、おなかはかなりへばっております。パリに帰ったら、おにぎり定食にするんだ、とおいしいスパゲッティを食べながらミシュランの秘密審査員のようなこと考えている、父ちゃんなのでした。えへへ。