JINSEI STORIES

滞仏日記「さんちゃん、空港で大脱走!おおお、おめーどこへ行くだァ~」 Posted on 2023/12/26 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、ついに、パリから飛行機で出かけることになった、父ちゃん&三四郎であった。
それにしても、クリスマス(25日)のパリは人がいなーいのだ。
カトリック教徒が多いフランス、朝、散歩に出たが、この日だけは、通りを歩く人がいないし、ほんとうに見かけないのであーる。
いるのは、やはり犬連れだけ。
犬を飼っている人に休みも祭日もクリスマスもない、ということである。
なんとなく、仲間がいてうれしい、父ちゃんであった。
ということで今日は飛行機に乗るので、三四郎をいつもより早く、散歩に連れ出し、おしっこもうんちもさせた。
そして、予約の時間にタクシーがやってきた。
フランスの場合、前もって、「犬がいます」と伝えておかないと、嫌がる人もいる。車が汚れるから、匂いがつくから、ということのでようである。
犬好きな運転手さんだったので、空港までは何も問題なく、到着することができた。おしっこもうんちも終えているので、夕方までは、問題はないはずだ。
ところが、今日は、とんだハプニングがあった。
と、その前に・・・。
犬は、バックにいれて8キロ以内であれば、機内持ち込みがOKなのだ。
チケットに「PET」と表記される。
「ワクチン、打ってますか?」
と必ずカウンターで聞かれるので、用意しておいたパスポートを取りだし、見せた。
「え、パスポートがあるの?」
たまに、係員でも、フランスの犬にはパスポートが発行されていることを知らない人がいる、みたい。(冗談だったのかも、今となっては・・・)
パスポートの中に、ワクチン接種欄があり、
「おお、ほんとだ。問題ないですな、出国を許可します」
だって。笑。

滞仏日記「さんちゃん、空港で大脱走!おおお、おめーどこへ行くだァ~」

※ 人っこ一人いない、パリ・・・。

滞仏日記「さんちゃん、空港で大脱走!おおお、おめーどこへ行くだァ~」



ここまでは、にこやかに通過できた父ちゃんであった。しかし、そのあとの手荷物保安検査場で、事件が起きた。
トレーにリュックや手荷物をのせた。
「この子はどうしましょう」
と、聞いた。
「あ、わんちゃんがいるのね。じゃあ、犬バックをここにのせて、犬は抱えて」
ぼくは言われた通りにした。
「あ、ムッシュ、リードは外して、ここに置いて。その子は先に行かせて」
「え? そのエックス線ゲートの中を歩かせるんですか?」
「ええ、そうよ。で、あなたは、そのあとを追いかけるの」
シチリアの時は抱えて一緒に通った。空港によって違うのかもしれない。言われた通りにやろうと思うが、ちょっと、不安~・・・。
「さんちゃん、その門をくぐって、向こうに行けるかい?」
不意にバックから出された三四郎、自由を満喫~。
テクテクとゲートをくぐった。すると、その向こうにいた検査官が、
「その犬、チケット持っているの?」
といまさら、のような質問をした。しかも、三四郎を驚かすような大声で。(これはあとでわかることだけれど、冗談なのだった。でも、こういうこと言われて、真に受け動揺してしまう、父ちゃん)
「わわわ、ありますよー」
すると、ゲート手前の検査官が、
「その犬は通行許可出てるから、大丈夫、行かせて、行かせて~」
と大騒ぎ、うううん、冗談だか、なんだか、ぼくはよくわからないから、動けないでいると、この二人のやり取りにちょっと驚いた三四郎が、走って、先へいちゃった。おい、
「あああ、ダメよ」
と検査官が言ったが、仏語通じるわけもなく、大脱走の、三四郎なのであった~。
おい、

滞仏日記「さんちゃん、空港で大脱走!おおお、おめーどこへ行くだァ~」

滞仏日記「さんちゃん、空港で大脱走!おおお、おめーどこへ行くだァ~」



しかし、ぼくはまだ、ゲートの手前で、許可待ちしているのだ。追いかけたいけれど、できない。
「早く、入って!」
冗談を言っていた検査官が、大きな声で言った。どうやら、これは冗談ではない、らしい。
三四郎が遠くに消えかかっていた。行き交う旅行者の中に紛れ込みつつ、ある。わお!
「サンシー」
控え目に呼んだが、振り返らない。
ぼくは、赤いライトがついて、呼び止められるし、三四郎はテクテク歩いていくし、
「どなたか、その犬、とめて」
と検査官は騒ぐし、ぼくはポケットに入っていた携帯がひっかかって、ゲート出たところで、再検査中だし、ああ、さんちゃんの運命やいかに!
なんとなく、騒然となった検査場、笑っている人もいるが、その先は、飛行機に乗る長い通路へとつながっている。地下もあるし、遠くへ行くことはめったにないが、いつもとは違う場所で、何が起きるか、予想がつかない!!!
慌てた、父ちゃんであった。
そこで、最後の手段をとった父ちゃんであった。
一応、歌手なので、人よりも、大きな声が出せる!
「サンシー、おやつ~!!!!」
遠ざかっていた三四郎が、ぴたっと、とまり、くるっと、ぼくを振り返った。
ぐーした手の中に、何か持ってる仕草で、手を高く掲げたら、それを見たさんちゃん、やや、おやつか、と走って戻ってきたのだった。あはは。
そこで、捕獲。検査機から出てきたトレーの中のリードをつかんで、首輪と連結~。
三四郎、座って、ぼくを見上げている。
おやつ、あげないわけにはいかないので、
「ちょっと待ってね。検査終わったら、あげるから」
となった。
検査官のマダムと目が合い、ふー、と、ウインクされた。やれやれ。
先が思いやられる、出国劇でありました。

滞仏日記「さんちゃん、空港で大脱走!おおお、おめーどこへ行くだァ~」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
ということで、今、この日記は離陸した飛行機の中で書いております。三四郎はバックの中から、絶対出してはいけないとCAさんに忠告され、今、ぼくの足元に。この慌ただしい年末の小さな旅のはじまりです。落ち着きましたら、また、ご報告させて頂きますね。さて、ぼくと三四郎はいったい、どこの都市へ向かっているのかしら・・・。ふふふ。

滞仏日記「さんちゃん、空港で大脱走!おおお、おめーどこへ行くだァ~」



自分流×帝京大学