JINSEI STORIES
滞仏日記「頭が内出血しているみたいだ、とブリュノに言われ、結局、病院に行くことに」 Posted on 2023/12/09 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、「なんか、頭を打ったのかと思ったよ。内出血してるみたいに、見えなくもない。大丈夫かい?」
と昨夜、友人のブリュノに言われた。
「顔色が悪いわ」
と奥さんのアリスが心配そうに言うのである。
おとといマネージャーに額が青黒くなっている、と言われたばかりだったので、気になった。
ブリュノと奥さんのアリスが事務所にやってきたので、忘年会ではないのだが、みんなで軽く食事をしていると、不意に、その話になったのだ。
「え? かげがある?」
※二人の背後にある絵は、伊勢丹には間に合わないが、その次の個展に出品予定の巨大な作品であーる。制作中。
※ 鴨の煮込み料理を作った。あはは。
「なんかね、さっき、顔見たときに、額がちょっと、そこ、こめかみの上のところ」
ということで、この2,3日のあいだに、3人の人間に、医者に行け、と言われてしまった、父ちゃんなのであった。☜怖いね、こういうの、やだー。
一人だけだと、気にならないものだが、3人に言われると、もはや大勢に言われた感じになり、やっぱり、気になる~。この日記も今日が最後かもしれないので、しっかりと、読んでくださいね!!!
弱気になった父ちゃん、ぐんとお酒を飲む勢いが鈍った。(それでも、世界は面倒くさい出来事がいっぱい、今日も、そういう交通整理に追われた。無視します。今は身体が一番大事なので)
ブリュノとアリスが帰っていった後、主治医の近藤先生にSMSを送って、相談をしてみると、(もう20年も診てもらっているのだ。オランピアのライブにもお越しいただいた)ちょっと、明日、クリニックに来なさい、と言われた。
ということで、体調に異変はないのだけれど、みんなに「額が青い」と言われるので、原因をつきとめるためにも、今日、クリニックに行くことになった。
※ 待合室です。病院の待合室での静かに流れる時間、小説の世界ですね。
近藤先生のクリニックはモンパルナス駅のすぐ近くにあった。大通りは車の通行が多いが、一歩敷地内に入ると、とっても静かな空間が広がる。
先生の診察所もシャーロックホームズ探偵事務所のような佇まいで、とっても、落ち着くのだ。
先生は物静かな方で、余計なことは一切言わない。
ぼくの日常生活のこと、食生活とか睡眠とか貧血とか何か異変があるか、など、優しい問診が続いた。
「何もないんです。ちょっと左目が神経痛みたいなのがありますが、これはよくあることなんです。ただ、みんなが内出血しているように見える、というので。だんだん、心配になってきまして」
近藤先生に、診察ベッドに横になるように言われた。
脈をはかり、眼球や、肺の具合や、体のあちこち触診してもらった。脈に関しては、立ち上がった時の脈もとった。
貧血があって、最近、倒れたこともちゃんと伝えた。
「うーむ、でも、異常はないですね。健康です」
「やはり」
「脈の数値も普通です。でも、一応、血液検査だけはしときましょう」
フランスは、主治医制になっており、まず、主治医の診察を受け、そこから、問題が疑われた場合、その専門の病院を主治医から紹介される仕組みなのである。
同じように、血液検査や、CT検査なども、先生のレターで受けることになる。
とりあえず、今のところは問題がない、ということで落ち着いたが、血液検査を明日、受けて、最終的判断、ということになりそうだ。
ぼくは元気なので、心配はしてないが、年齢が年齢だけに、若い頃のように、なんとかなる、で片づけるのはちょっと危険かもしれない。
まだ、息子も大学生だし、元気に働いて、すくなくとも、息子を世に送り出すまでは気を抜くことができない。
でも、不安を抱えて毎日生きていくのも精神的によくないので、明日は、血液検査で決着をつけてやる、と思った父ちゃんなのであった。あはは。
ということで、今月はレミー先生の歯医者と近藤先生のクリニックにお世話になり、ま、なんというか、体調管理の月になってしまった。今年は忙しかったから、ここで、ちゃんと健康を再確認しておかないと、来年、戦えなくなってしまう。
明日の血液検査で、決着をつけてやる、と気合を入れた父ちゃんであった。
皆さんも、過信しないで、時々、自分の体のチェックをお願いします。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
近藤クリニックの帰り、モンパルナスの画材屋さんで、次の個展用に真っ白なカンバスを買った、父ちゃん。画家になるつもりはなかったのだけれど、今は絵を描いている時間が一番落ち着くので、フランスとか英国で個展をやりたいな、と思い出している父ちゃんなのであった。(日本は、輸送費がかかりすぎて、赤字になってしまうのだから、パリとかロンドンあたりで、個展をやりたい)小説はどうするのだ、と編集者さんにも言われているのだけれど、100冊も描いたのだから10年休んでも怒られないでしょう。ぼくの人生なんだから。あはは。
めるし。