JINSEI STORIES
滞仏日記「日本とこんなに違う。フランスの歯医者さ~ん。あはは」 Posted on 2023/12/05 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、このひと月間、ぼくは超憂鬱だった。歯医者が怖い、父ちゃんだからだ。
皆さん、覚えていらっしゃるだろうか?
2022年の11月に、ぼくは東京の三田にある国際福祉医療大学病院で親知らずを抜歯した。
ぼくの親知らずは、ふつう一つしかない根が三つもあり、あごの骨と親知らずの横の葉にくっついていた。大変な手術だったのだ。思い出すだけで、震える・・・。
親知らずは虫歯でぼろぼろだったのを、大学病院の矢郷先生が、5時間かけて、抜いてくれたのだった。先生、ありがとうございました。
その壮絶な記録がこちらになるので、まだ読んでいない皆さん、あの激闘の日の記録をまずは、おさらいしてみてほしい。人の不幸は笑えるのだァー。あはは。☜そこか!
しかし、そこから今日の物語ははじまるのであーる
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https://www.designstoriesinc.com/jinsei/daily-3304/
※ パリの歯医者さんの待合室! 広い!!!
※、歯医者さんの受付なのだ。
実は、手術後、順調に回復をしていたはずだったが、数か月後、抜いた親知らずのすぐ隣の歯が虫歯のような知覚過敏のような、痛みを訴えだした。
前回、東京にいたとき、大学病院を紹介してくださった麻布のクリニックに行き、診てもらったら、「抜いた奥歯の横が虫歯です」という結論になった。
しかし、ぼくの日本滞在期間では短すぎて治療ができない、ということになった。
ぼくはノルマンディで暮らしいたので、東京にもなかなか行けないし、ノルマンディの歯医者さんに行く勇気は、ない。(仏語の専門用語がさすがにわからないので。笑)
悩んでいたら、そういえば15年ほど前に、パリのインプラントの専門医、レミー・谷村先生に手術をしてもらったことがあったこと、を思い出した。
ぼくは一本だけ、インプラントの歯を持っている。
15年も経っているが、このインプラントはいまだに問題ない。日本のお医者さんたちもレントゲンで確認をしてくださり、これはすごい、と太鼓判をおしてくださった。
谷村先生はその道の権威なのだ。
しかし、虫歯を治してもらえるかわからなかったので、インプラントのその後の状態を一度確認してもらいがてら、先月、受診した。奥歯が痛むと告げると、
「虫歯ではないですね」
と言うではないか。
「何か、奥歯のセラミックが割れているみたいだから、多分、そこが染みるんでしょう」
ぼくは、思い出した。あの壮絶な5時間に及ぶ治療のことを。
抜いた親知らずは、奥歯とも根っこでつながっていたのだった。あるいは、あの時の唇が裂けそうなすごい手術がうっすら原因かもしれない。
でも、とりあえず、谷村先生には言わないでおいた。
とにかく、診察台に座ったのだから、あとは任せるしかない。
谷村さんは、ぼくを安心させるために、治療の合間に、日本語で丁寧に説明をしてくださる。助手さんとは、フランス語なのだ。昔はよくわからなかったが、最近は、ぼくの仏語力も上達したので、二人のやり取りは理解できた。楽しいことを話していた。
歯科衛生士さんは、大阪が好きだ、と言っていた。笑。大阪、ぼくも好きや。
「辻さん、原因はわかりませんが、奥歯の裏側が割れてぼろぼろになっています。それが原因でしょうね。でも、虫歯ではないです」
セラミックをまずは除去した。
「問題ないです。中はきれいです。奥歯の横の歯もちょっと割れているので、ここも、治しましょうね。二本やりますね」
谷村先生はお父さんが日本人で、お母さんがフランス人。
彼はフランスにおけるインプラントの第一人者で、日本や世界各国から彼のセミナーを受けにお医者さんたちがやってくる。さらに、世界中で講演活動もやっている。
昔、歯を全部失った人が、どうしても歯が欲しいというので、外科医と組んで、頭骨を摂取し、それで歯を作ったこともある、ということだった。☜想像できません。
ぼくのインプラントも神経のすぐそばだったので、超難しい手術だったが、成功した。
日本のクリニックの先生も、レントゲンを見て、すごいなァ、と漏らしていた。愉快な先生だけれど、熱血男で、毎回の治療に全精力を傾けている。楽しそうに、仕事をする先生なのである。なので、ちょっと安心できた。
「難しい治療ですけど、辻さん、大丈夫だから、安心してください」とおっしゃってくれた。
軽く麻酔をし、ちゃちゃっと治療し、次回のために型をとって、3,40分程度で終わった。
「終わったんですか?」
「難しかった。でも、ばっちりですよ」
「虫歯じゃなかった?」
「いいえ、次の回の時に、きれいにして終わりです」
「今日、ランチ、食べても平気?」
「もちろん」
ということで、あっけなく、終わったのだった。この「もちろん」という時にナイスガイのような、そぶりをやるのが、谷村さん流なのである。いつも笑顔だし。
そうそう、谷村さんの診察台には、日本の歯医者さんに必ずある、あの、くちゅくちゅぺっとする台がないのだ。
歯科衛生士さんが、付きっ切りで唾液を機械で吸ってくれる。治療の途中で、ぼくは2回、流し台のようなところでうがいを命じられた、だけ。
「なんで、日本みたいなうがい台がないんですか?」
「うーん、衛生的な面で、ぼくは使わないです」
こういう返答だった。詳しくは説明しなかった。なんか、理由があるのでしょうね。
二回のうがいは、砕けたセラミックを洗い流すためのものだった。15年前も、こうだったが、ほかのフランスの歯医者さんが同じかどうかは、わからない。
事務所のスタッフさんに聞いたら、その人が通う歯医者は、治療の途中で(その場で)うがい液を渡され、くちゅくちゅ、っとして、吐き出す容器にいれさせられた、ということだった。うーむ。☜これも想像ができにゃい。
ともかく、治療が怖くて、このひと月、憂鬱だったが、晴れ晴れとした気持ちで谷村さんのクリニックをあとにすることができた。
なにか、矢郷先生とレミー・谷村先生の日仏お二人の力で、ぼくの奥世界歯が完治した、という印象の、めでたい日となった。
日仏万歳。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
ぼくは、健康をかなり気にしていますが、とくに、歯に関しては異常に気を付けています。食後は必ず10分ほど歯を磨くし、歯磨き粉も、朝、昼、晩では変えています。リンスも必ずやります。それでも、歯肉は後退していくのですが、できるかぎり、自分の歯でがんばっていきたい人間なのです。レミー・谷村先生がパリにいたことを思い出せて、助かりました。(それもあって、今月はパリにる、というわけです)いろいろと次回、どうやって歯の健康を維持したらいいか、相談してみたいと思います。ちなみに、レミーさん、日本語は完璧です。