JINSEI STORIES
滞仏日記「最近の星付きレストランは、まるで、オンステージのような絢爛豪華さ。まさに今が旬のフレンチ料理!」 Posted on 2023/11/30 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、昨日のことではないが、先日、不意にノルマンディの友人、チャールズから電話があり、ランチしようぜ、と誘われたのだった。
「いや、今、パリなんだ。いろいろと年末だから忙しくて、残念」
「あ、ぼくらもパリなんだよ。知り合いのシェフがミシュランの星を獲得したので、小一時間付き合ってもらえないか」
ということで、小一時間ならいいだろう、と思って、三四郎を家において、8区にあるレストランに行ったのだが、まず、驚いたのは、レストランなのに、メニューに値段がついてないのであった。
値段がついてない、おお、ビビった。
軽い気持ちでやってきたのに、なんか、いくら払わされるのだろうと、小心者の父ちゃんは、重たくなったのであーる。
「チャールズ、値段が書かれてない」
「ま、お任せでいいか」
そこにシェフがやってきて、挨拶をされた。シェフ同士、いい感じで会話をしている。まだ、若いシェフがこちらを向いて、
「何か適当に出していいですか? 苦手なものとかあります?」
と訊いてきた。
「いいや、大丈夫。苦手なものはとくにないです」
ということでランチがスタートしたのだけれど、結論から言うと、小一時間どころか、そこから食べ終わるまでに、正味4時間半もかかってしまったのであったァ。あはは。
途中で、三四郎が心配になり、帰りたくなったが、シェフのチャールズは研究熱心だし、奥さんのミハーもパティシエールだから、もう、二人の目が真剣そのもの。
帰るに帰れなかった・・・。
チャールズ曰く、どうやら、今、パリで話題のシェフらしい。イタリア人なのだそうだ。
「じゃあ、パスタもやるの?」
「いりますか? もちろんです。じゃあ、途中で混ぜましょう」
余計なことを言ったがために、パスタが追加されてしまったのであーる。
ということで、今日は話題のレストラン、「MAISON RUGGIERI」で食べたものたちについて、紙上試食会を開催したいと思うのであーる。
まずは、値段のついてないメニューから、笑。怖いでしょ?
最後まで眺めて、このお昼のコースの金額をあててみて、くださいね。
※ これが、値段のついてないメニューなのだ。あとでわかったのだけれど、お金を払う人の前に値段がついてるメニューが出される仕組みで、結局、予約をいれたチャールズのメニューにだけ、金額がかかれてあったのであった~。笑。怖っ。
※こちらは、アミューズ。つまり、突き出しのようなものである。右側のグレープフルーツっぽい酸味と何かの出汁のようなものでできたジュレをまず、半分食べ、それから左の小さな筒状のカンノーリ?を食べて、もう一度、ジュレに戻ると、味が変わって、面白いよ、と給仕さんが言うのだった。筒状のものの中にはウナギのクレームが入っていて、出口と入り口には小さな食用の花が飾られてあった。芸が細かすぎる・・・。
※ 花がかわいかったが、味が変化したか、ぼくにはよくわからなかった。あはは。南イタリア、シラクーサの焼き菓子、カンノーリの形状にそっくり。イタリアンなお菓子かなと思って口にいれたら、ウナギであった。
※ 前菜だと思うが、たくさん、お皿が出てきて、これを目の前で、シェフと給仕たちが組み立てるのである。一番底にあるのは、紫蘇の天ぷらで、その上に忘れたが、二種のソースがかかっており、右のぶつぶつはキャビアじゃなく、カワカマスの魚卵の燻製なのであった。複雑すぎて、シェフの頭脳明晰さに、降参な父ちゃんでありました。
※ こちらがシェフです。先輩のチャールズのところにやってきて、説明をしているところ。なんでチャールズが頭を抱えているのか、父ちゃんにはわかんにゃい。
※これはレタスの餃子(ラビオリ)ですね。ここにガラスの急須の液体をかけるのだが、土瓶蒸しのような、いや、それは違う、フレンチだよね、やっぱり。
いちいち、目の前で給仕さんたちが二人がかりで、やるのである。
※ レタスのラビオリの中に何が入っていたのか、思い出せないが、そこに、このガラス容器から何やら、ハービーなスープが注がれて、これが、おいしかった。レタスはグミみたいな触感で、シンプルなラビオリであったが、スープは、野菜で作られた、実に巧妙なもので、シェフの野心を感じた。
※ これは前菜なのか、メインなのかわからないが、牡蠣が出てきた。デザインがとにかく、絵画のようで、おなか一杯になった。実は、もう、ぼくはこれ以上、食べることができない感じだったし、この時点で、2時間半は過ぎていた・・・。あ、思い出した。ジビエのソースがちょっとかかっていた。なんで、牡蠣にジビエなのか、え? シェフにきいてください。
※、と、ついにパスタの登場である。シェフはイタリア南部、プーリアの出身なのだとか、なるほど、ラビオリといい、カンノーリといい、イタリア人であることを最大限演出した作品たちであった。こちらは、ホワイトバターと何かのハーブ野菜のソースだったと思う。このパスタは、父ちゃん的に、生まれてはじめて食べた味であった。白いバターの濃厚な深みが、いつまでも心に残った。麺は手打ちの、真四角の平麺で、うーん、創造するものよりも軽くやわらかく、でも、歯ごたえがある、不思議な麺であった。
※ 添えられた、ブリオッシュ。フランスで食べたブリオッシュの中では、一番おいしかった。これを、パスタのソースにこっそりとつけて食べてみてほしい、と言われた。いわれた通りにしたら、マジで、これはうまかった。はしたない感じにならないように、こっそり、つけてね、と給仕さんがウインクしながらいうのだった。その人はぼくと同じ村に住んでいるということで、全員、ノルマンディーの人間となった。あはは。
※ これは、なんだったか、忘れてしまった・・・。
※ で、やっとメインの野生の鴨の登場であった。もう、苦しいのに、シェフが出てきて、ハンバーガー食べませんか、と言うのだ。ハンバーガー???
※ 小さなハンバーガーですから、大丈夫です、と言って出された、ミニミニ鴨バーガー、いや、これはおいしかった。無理なのに、するっと食べてしまった。逃げ出したいが、逃げ出せない。
※ で、ここでチーズはいかがですか、と言われたので、一同で、いや、ノンメルシー、と笑顔で首を左右に振ったのであーる。無理だァ。
※ やはり南イタリア出身だからこその、デザートはピスタチオのクレーム! 完食。
※ チャールズが、ここで刺身が出てきた、と言い出した。わ、ほんとうだ、と思ったら、これ、デザートの二つ目、アロエベラであった。アロエは、さすがに、ぼくにはきつかったので、残しちゃった。あはは。
ということで、4時間半のランチ、店を出て、家に帰ると、17時半であった。彼らは19時半から夜の部をスタートするのだ、という。ひゃああ、体力あるよねー。
さて、気になるお値段ですが、安いわけはありません。アルコール抜きの金額で、一人、200ユーロなのでした。アルコールを飲む人だったら、その倍でしょうか? ワイン一杯がだいたい25ユーロという勘定になります。はい、
夜は寝る前に、お茶漬けを食べた父ちゃん。30年ぶりくらいに食べたお茶漬けでした。あはは。これが、本当においしくて、日本人でよかったァ~。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
でも、今回はたいへん、社会勉強になりました。このレストランにシェフ仲間と一緒に行ったのが、面白かったです。そして、ここ最近のフレンチは、まるでライブですね。エンターテインメント性がたっぷりで、料理を味わうというより、いちいち拍手をしている感じで、ふふふ、遊べました。また来てね、とシェフと握手をして別れたのですが、毎日食べるものじゃないですね。たまに行くから、とっても楽しいというライブ感覚のランチでございました。チャールズが何を思ったのかは、わかりません。でも、つねに、勉強家のチャールズのことだから、何らか、刺激を受けたことでしょう。
めるしー。