JINSEI STORIES
滞仏日記「またまた意識が飛んでぶったおれた、かよわき父ちゃん。先が思いやられます」 Posted on 2023/11/14 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、ま、ぼくは結婚していた時から、たまに倒れて、周囲に心配をかけ、たぶん、不安にさせた。
どうやら、突発性難聴だろうと言われているが、原因はわからない。
ツジビルのラジオでは少し話したが、ちょっと前のこと、三四郎の餌を溢して、それを拾おうと屈んだ時、テーブルで強く頭を打った。
その辺から、嫌な予感はしていたのだけれど、翌日、長くパソコンと向き合って集中して仕事をしていたせいもあるが、立ちあがったら、意識がなくなって、倒れてしまった。
操り人形の糸が切断されるみたいに、不意に、すとんと、倒れるのだ。
なので、自分の身体を維持できなくなる。
これが厄介で、12年ほど前、頭をうち、硬膜下血種になって、頭の中の毛細血管が切れ、3か月後、血がたまり、手が痺れ、ろれつが回らなくなり、血を抜く手術をやった。
その後の検査は問題なく、でも、数年に一度、ふらっとして、少女漫画のように倒れたりしていた。もっともその回数はここ数年、コロナ禍以降、減っていたのだけれど・・・。
久々、それの凄いのが訪れ、倒れる時に、また、壁に頭を打ってしまった。手で支える間もないし、足から崩れるので、自分を支えるものがなく、激突する。これは怖い。
で、床に倒れて、しばらく、動けなかった。
息子に連絡をしようと思ったが、携帯がそばになく、不安でみじめな時間を過ごした。
老後は、かなり悲惨かもしれないなぁ。いろいろとありますね。
でも、ライブの時とか、人前で熱血に行動している時には、これが不思議なことに、ならないのであーる。
何か、大仕事が終わって、ぼう~っとしている時とかに、起こる。もしかすると、ぼくはぼう~っとしちゃいけないのだろうか。
「パパ、何かあれば、駆けつけるから」と息子に言われているが、携帯を持ってないとどうにもならない。首からぶら下げておけって? 笑。
奥さんもいないし、パリの事務所で倒れたのだけれど、スタッフさんはいなかった。(ぼくがパリにいるときは基本、テレワークになる)
1時間くらい、動けなかった。
キーン、という回転するような耳鳴りが凄く、これはプレドニンを飲んだ方がいいな、と思った。医師に処方してもらっている、ステロイド剤で、突発性難聴に効く。
目を閉じ、快復するのを待った。
すると、頬が濡れた。
目を開けると、愛犬が、ぺろぺろ。心配そうな顔でぼくを見ている。
くう~ん。
とないた。
「大丈夫、あっちに行ってなさい」
でも、三四郎は動かなかった。
ぼくは一人だけれど、この子がいるなぁ、と思った。
快復後、マネージャーに電話をし、誰かが(覚えてない)駆けつけてくれた。
人生は綱渡りの連続で、こういうぶっ倒れ方を、今まで数回、経験した。
夜中に、トイレで起き上がる時が危険なのだ。
急速な貧血になって、そのまま、床に崩れ落ちるのだから・・・。
最近は回数が減ったので安心していたが、こういう持病というのか、持っていると、なかなか、周囲に対して、申し訳ない。
1時間くらいして、ソファまで這っていき、主治医にメールを打った。状況を説明したが、その時はだいたいもとに戻っていたのだ。何度も検査をやっている。
「とにかく、原因がわからないので、気を付けるしかない」のだそうだ。ぼくは絵を描く時も、小説も、ギターの練習も、集中すると何時間でも、同じ姿勢で、やっちゃうので、それもよくないらしい。
というようなことが、実は数日前にあった、という後日談。
頭を打ったので、どうなるかなぁ、と思っていたが、大丈夫そうである。今は、すっかり元気になった。次は数年後だろう・・・。
奥さんがいたら、心配をかけていたところだが、今は、独身なので、その点は、気が楽だ。とはいえ、何かあれば、マネージャー、スタッフ、友人、とくに息子に迷惑がかかるので、倒れないように、気を付けて生きなければならない。
原因がわからないのと、不意にくるので、(健康診断をすると100点なのである)、誠に厄介で謎な持病?である。
まぁ、父ちゃんは生まれながらに天使なので、しょうがないよね、あはは。
自分のそういう手に負えない場所をも、大事に見つめて、今日を楽しくのりきっていくことだけを今は考えているのであーる。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
ほんと、嘘のように、今はもう超元気なので、ご安心ください。読者の皆さんにしか、言えないことなので、こうやって、書いておくと、安心できます。皆さんも、健康には感謝をしてください。健康だけは、なかなか手に入れにくいものでもありますからね、焦らず、じっくり、覚悟をもって生きてまいりましょう。まずは、日々を楽しくやり過ごすことが大事ですね。