某月某日、ということで、「飯喰いに来いやー」と息子を呼び出したら、のこのことやってきた。
おお、いい男になった。真っ黒のロングコートを羽織り、髪の毛を映画スターのように後ろになびかせ、すっとした顔、切れ長の目、ほえー。
息子がドアをあけると、遠くにいた三四郎が猛ダッシュでやってきて、足に飛びつく。何度も何度も、それは、彼の親しい人への愛情の隆起なのである。
「サンシー、サンシー」
息子も三四郎の頭を撫でる。そして抱きかかえて、ぎゅっとする。いい光景である。
家族の絵がそこにあった。
うっとりな、父ちゃん。
今日は月曜日なので、肉屋も魚屋もしまっているから、料理が出来ず、行きつけのレストランを19時半に予約した。
「あのね、ちょっと手伝ったほしいことがある。力仕事」
「いいよ」
ということで、新宿伊勢丹に送る絵の梱包を手伝わせた。
「パパ、これ、新作？」
「うん、ノルマンディ情景という作品なんだけど、どう？」
「いいね」
そこから一時間かかって、段ボールとか、絵を固定するゴムとか、プチプチとか、ガムテープとか、フィルムなどを使って、画廊の人みたいに頑張った二人だった。
いやー、大仕事であった。
汗だくになって、なんとか一時間で、梱包を仕上げた二人であった。
「パパは、ほんとうに全部の表現をしているね」
「あはは。それがパパだから」

その後、三四郎と3人（？）で、行きつけのレストランに行った。
彼はピザとか、ステーキとか、いろいろ注文していた。
普段、自炊だから、レストランで食べるのが嬉しい、と言った。
「いつでも外食したくなったら、来ればいいじゃん」
「うん。でも、今は甘えたくないんだよ」
「ほえー」
「3年の時に、成績が良ければ留学できるんだ。トップになりたいんだ」
「ほえー」
自分の目標をずっと食事中語っていた息子くんであった。
そこまでストイックにならないでもいいのに、と思った父ちゃん。なぜなら、父ちゃんが大学生の頃はどれだけ楽が出来るか、ばかり考えていたのだから、あはは。
「将来、何になるわけ？　そんなに頑張って」
「さぁ、でも、静かに幸せに、暮らしていくことが出来たら、それが一番かな」
おお、ぜんぜん、自分の若い頃とは考え方が違う今時の青年であった。
「戦争がね」
「うん」
暗い顔をした息子くん。大変な時代なのだ。
「欧州もどうなるかわからないよね」
「でも、次は、もしかすると、台湾とかで戦争になると、みんな言ってる。アジアが次の火薬庫になるんだ。そうやって、世界は新しい秩序や古い秩序を維持しようともの凄いことがおこりはじめている。欧州も日本もこのままですむわけがない」
「・・・」
「でも、ぼくはこんな世界だからこそ、人のために仕事がしたい。誰かのためになる仕事がちゃんとできるように、頑張って勉強をしたいんだ、今は」
「ほえー」
涙ぐむ父ちゃんであった。
世界の平和を・・・。

※、三四郎の愛おしい足跡・・・。笑。

大学のこと、将来の留学のこと、これからの自分の人生について、息子はよく考え、よく悩んでいた。
友だちはみんな来年留学をするのだそうだ。
大学編入をした息子くんは、1年、仲間たちから出遅れている。でも、焦ってない、と言った。
「ぼくは、ぼくの生き方を見つけて実践していきたい」
食事をして、三四郎と息子とぼくとで駅まで歩いた。
「じゃあね、またね」
ぼくは洋服を買いなさい、と1万円ほどを握らせた。
「冬が過ごせる服を買うよ」
「ああ、そうしてほしい」
「じゃあね。パパ、無理しないでね」
そう言い残すと、黒コートを着た、背の高い青年は道を渡って、階段を昇って行った。
その後ろ姿を、三四郎と見送った父ちゃんであった。
いつも彼が視界から消えるまで撮影をしている父ちゃんなのである。老後の楽しみに・・・。
消える間際、息子がぼくらを振り返った。ぼくは手を振った。
息子も振った。
青年よ、大志を抱け！

つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
午前中、今日は帝京大の辻ゼミの授業がありました。思えば、生徒たち、みんな息子と同じ歳なのです。かなり、立派な生徒たちで、ぼくは先生として実に恵まれている、と思いました。今時の子はみんな、よく考えていますよ。
さて、お知らせです。
「パリごはん２０２３ＳＰ」再放送について、ＮＨＫホームページに情報が上がりました。
https://www.nhk.jp/p/ts/6XW8NZ748V/episode/te/GJLWG4Q2QY/

そして、一時間に及ぶ、熱血パパさんの、貴重なライブ映像！！！！
こちらのURLをクリックしてね。
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https://youtu.be/YIi9N-6kt5g?si=l3SPg4Wt-jpOqToS