JINSEI STORIES
退屈日記「極度に疲れがたまって家事が出来ない人へのささやかなアドバイス」 Posted on 2023/11/02 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、シングルファザー10年選手の父ちゃんだが、息子は巣立ち、今は愛犬と暮らす日々、なんとなく、言いたくないが、老後も視野に入って来た。
自分を可哀想と思うと、これは絶対によくないから、いろいろな活動を通して、老若男女問わず様々な人たちと出会い、仕事や創作をすることで、人生の維持につとめている。
「毎日を丁寧に生きる」を目標に生きているが、さすがに、ちょっと体調が崩れると、ぼろぼろになる悪い癖がある。☜人間だもの。
マッサージに行き、若いお姉さんに揉み解され、一瞬は元気になったが、それがきっかけで、何か、逆に、心の中に人生の秋風が吹き抜けた、父ちゃん・・・。
しかも、缶詰めを開けようとして、小指を切ってしまい、出血。これがなかなか止まらず、大変だった。
「あなたがー噛んだー小指が痛い~」
伊東ゆかりの大ヒット曲、「小指の想い出」の冒頭歌詞を思い出しながら、人生の最終コーナーに自分がいるような切ない気持ちになった。
「いかんいかん、まだ、負けちゃだめだ、頑張れ、父ちゃん」
と心の中で叫ぶも、小指に巻いた絆創膏が痛々しく、そのせいで、洗い物が出来なくなり、キッチンが荒れて、大変なことになってしまっている。
どんどん、たまる食器、小指の出血が止まらず、やる気もじわじわと失せて困った。
外食をする気にもなれず、食料棚を漁ったら、インスタントラーメンがあったので、茹でて、卵の黄身をおとして、すすっていたら、涙が出そうになって、これじゃあ、いかん、となった。
お酒も飲みたくない、心も弱まっている、どうした、おい、大丈夫か!
ライブが終わって、すっかり、元気がなくなった。
イベンターの中原しゃんに、次のライブを決めてよ、とお願いしているが、ライン、既読になっても返事が戻ってこない。マジで、返事がない。
本当に、自分が必要な時はすぐ返事が戻るが、来ない時は、いっこうに来ない。(でも、娘さんはいい子だったし、子煩悩でいい父親だから、許しまーす。笑)
こういう優柔不断なやりとりも実に疲れる。
日本のライブ、やりたくても、先が見えない。実に残念である。
こういう残念が積み重なると、ベッドに行って、ふて寝をする性質(タチ)なのだ。
いかんいかん。
同じような悪循環に苦しんでいる読者の皆さんも多いはず。
仕方がないので、近くのカンボジア人の食材店に行き、何もしなくてもおいしい中華生麺を買って帰り、45秒茹で、鳥ハム、ザーサイ、ネギ、目玉焼き、高菜を載せて、ごま油とあら塩とポン酢で食べた。
今、自分に出来る、最低限の力で作ることのできる料理と言えよう。それでも、美味しそうに見える。それが大事だ。こういう辛い時こそ、美味しいを目指すのじゃ。
※、食べたごはんを丁寧に記録していくことも、父ちゃんは好きなんです。こういうことで、ちょっと元気が出ます。
力が出ない時は、長い昼寝がとくに有効であろう。
必ず、人間、目が覚める。
それが大事だ。
目が覚めたら、少しは元気になっているものである。
今は、パリから始まった初の世界ツアー(たった7本のライブだけど、そう思うことが大事)をやり切ったので、頭の中が真空状態なのである。
絵の搬送準備も整い、すべての作品がパッキングされて、汚かったアトリエもがらんとしてしまった、こともあり、出し切り、虚無感にとらえられているのである。
こんなことじゃいけない。
そこで、今日は、ちょっと無理をして、三四郎と、田舎の海を見に行くことにした。
何があるわけじゃないが、田舎に行き、向こうの家の掃除などをして、次の人生の目標を探してきたい、と思った父ちゃんであった。
チャールズや田舎の仲間たちに囲まれ、美味しいものでも食べて、バカなことを言い合って笑い、英気を養って、再びパリに戻ろうじゃないか。
行動することでしか、やる気など出ないものだ。
夢を追うのじゃなく、まず、行動である。自分が動けば、夢や目標はついてくる。
夢や目標が来るのを待っていても、天から降って来ることはない。
とにかく、どこかへ行く、向かう、始めるのが大事だ。
よし、こうやって、書いていたら、なんか、それがいいような気がしてきた。日記は、自分を発揚させるためのもっともお金のかからない奮闘マシーンでもある。
思い込み、大事だぁ。
老境なんて言葉は使っちゃいけない。世界一セクシーな90代を目指して、ここから、第二の人生を生きはじめてやるぞ、と決意した、還暦越えの青二才なのでありました。
えへへ。
※ そういえば、この間つくったビーフのシチューは、こうなりました。あはは。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
自分を移動させることで、行動することで、必死に考えることで、いつも父ちゃんは前進をしてきました。まず、行動です。その時に、夢や目標がついてきます。とにかく、出発をする。やみくもに、とにかく、何かをはじめる。それが人生を飽きさせない、輝かせる最初の一撃なのです。戻ってきつつあります、おらの熱血、が・・・。
お知らせです。
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「ボンジュール!辻仁成のパリごはん2023SP」
【BSP/4K】11月11日(土)後10:30~11:59
※初回放送 2023年9月16日
※BSP・4K同時
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