JINSEI STORIES

滞仏日記「個展をイメージするため、事務所の壁にがんがん釘を打ち絵を飾り、美術館にしてみた!」 Posted on 2023/10/29 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、火曜日に図録の撮影をするため、伊勢丹アートギャラリーに展示する全ての作品の最終調整に入った。
大きな絵が多いので、床に、全部広げると事務所はもう足の踏み場もない。当然、繊細な直しなので、三四郎が絵の上をスタスタと歩かれては、大変である。
その上、油絵具が彼のブーツのような脚先について、それがスタンプみたいになったら、オーマイガッ、大変なことになる!!!!
なので、三四郎には申し訳ないのだけれど、居住区に閉じ込めることに。え、でも、キッチンと廊下とお風呂場があるので、大丈夫。(寝室には入れない!)
大きなカギのついたドアが一枚あって、そこで事務所と居住区が区切られているのだ。(ただ、トイレは事務所側にしかない、あはは)
ごめんね、31日が撮影なので、それまで、我慢してね。わん♪
本当に細かい作業で、線を消したり、線のあいだに別の色を入れたり、ニスを塗ったり、ニスもいくつかのニスを重ね塗りしているし、ここで手から離れるので、全体のバランスを眺めながら注意深くやらないとならないので、まるで画家のように、笑、今日はこういう作業にあけくれた。
伊勢丹アートギャラリーに展示する作品は、最終的に、38作品になった。
残りの絵は7月の個展用になるが、伊勢丹の作品はすべてノルマンディで描かれたもので、7月のは(ほぼほぼ、一部を除き)パリで描かれたものなのだ。絵を見比べるとすぐに、どっちで描いたものか、だいたい、わかるのだ。
土地の空気感が、ぼくの筆にも、違う気分を与えている。

滞仏日記「個展をイメージするため、事務所の壁にがんがん釘を打ち絵を飾り、美術館にしてみた!」

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気が付くと、昼を過ぎていたので、昨日、東郷で買った蕎麦を茹でて、からすみを摺ってかけ、そばつゆではなく、日本酒に浸して、ずるずるとやった。(箱には本日中にお食べください、と書かれてあったが、疲れもひどく、昨夜は、食べずに寝ちゃった。あはは。松井シェフ、すまん)でも、めっちゃ美味しかったのでご報告であーる。
からすみ蕎麦には日本酒があう。
日本酒につけて、ずるずる、とやったあと、追い酒といって、おちょこの日本酒をぐいっと飲み干すのが、父ちゃん流。
くーっ、うみゃあぜよ。
口の中で蕎麦と日本酒とからすみの風味が見事に混ざり合って、絶品なのであーる。(父ちゃんは基本、蕎麦はそばつゆでは食べず、塩と、日本酒につけて食す)
ということで、食べたら、三四郎を散歩に連れ出した父ちゃん。
さすがに、一日中、狭い空間に閉じ込めておくわけにもいかないので、最低でも、一日、3回は、外で遊ばせてあげないとね。ポケットにおやつをしのばせて、出かけた一人一匹六脚組であった。
雨がふったりやんだりの変な空模様だけれど、家にこもって絵を描くのにはちょうどいいのかもしれない。ミュージシャンから絵描きにチェーンジ!!!

滞仏日記「個展をイメージするため、事務所の壁にがんがん釘を打ち絵を飾り、美術館にしてみた!」

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で、午後、作業を再開したら、え、ああああ、と思いついてしまった。
事務所をぐるりと見まわす。サロンが三つ繋がった広さなのだ。
家具をどけて、白い壁に、釘打ちつけて、38作品を全部かけてみたら、どうなる???
うわ、それ見て見たい!!!!
ということで、午後、いきなり、家具の移動からはじまったのだった。
そして、工具箱から釘とトンカチを持ち出し、借りている家なのに、がんがん、打ち付けてやったぜ、あはは、なのだった。
一つ、絵をかけてみた。
「おおおお、ピカソに負けてない!!!」☜さすがに嘘です。はったりで世渡りしてきた男なので、話は万分の一で、訊いてください。
「おおお、ルオーに負けとらんぞ、ルノワール先生にも勝った、あはは、おかしくなってきたぞ。もっと釘を打ってやれー」
ということで、途中から、楽し過ぎて人格崩壊した父ちゃんなのであった。
38点がずらりと並んだ。圧巻であった。まるで個展会場のようじゃないか。
白壁にばんばん釘を打ち、絵をどんどん飾った。もう、ただのおかしなおじさんになってしまった。大丈夫かな。(そもそも、こんなに釘を打っていいのか!?)
でも、やっぱ、壁に飾ると、ぜんぜん、違って見える。フランスの建物は壁が高いのだ。4メートルほどはある。60号の絵でも、小さく見える。
釘なんか気にするな、もっと打て~!!!!
釘は抜けばいい。出る釘は打たれるが、出過ぎた釘は抜かれるのだ。あはは。
しかーし、出過ぎない釘じゃないと、人生なんか、つまらない。引っこ抜かれるくらいの生き様で、とことん、アートしてやろうじゃないか、おっかさん。
ということで、気が付いたら、父ちゃんのパリ事務所、簡易美術館みたいになってしまったのであーる。(カメラマンの小田さんや、スタッフが来るのは、撮影日の火曜日なので、それまで、個展会場を満喫できる!)
そうだ、野本を呼ぼう。ピエールやアドリアンも呼ぼう。
辻美術館に絵を見に来ないか、とみんなにメッセージをいれたのだった。
出過ぎた釘で生きたロック!

滞仏日記「個展をイメージするため、事務所の壁にがんがん釘を打ち絵を飾り、美術館にしてみた!」

滞仏日記「個展をイメージするため、事務所の壁にがんがん釘を打ち絵を飾り、美術館にしてみた!」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
事務所が美術館になってしまい、何か、不思議な気分・・・。新宿の伊勢丹もこんな感じになるのかなぁ。いろいろと妄想しながら、絵の配置などを考えた一日でありました。伊勢丹のマネージャーさんに頂いた手書きの図面に絵を配置しながら、一人、ほくそ笑んでいる、中秋の父ちゃんなのです。あはは。まる。
さて、とくにお知らせはありませんが、個展の手作りフライヤーを貼っておきます。今、修正を依頼されているので、第二段では、更に進化したフライヤーをお届けしますね。開催まで10点ほどのフライヤーを作る予定です。お楽しみに!!!

滞仏日記「個展をイメージするため、事務所の壁にがんがん釘を打ち絵を飾り、美術館にしてみた!」



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