JINSEI STORIES
滞英日記最終回「英仏を繋ぐユーロスター内で英仏の違いを愉快な乗務員さんから学ぶ」 Posted on 2023/10/26 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、全ての英国行事が終わり、一安心して、今、ぼくはフランスに戻る道すがら、これをユーロスター車内で書いているところだ。
世界各地で紛争や戦争が絶えないこの時代だが、ぼくの移動は続く。
そして、今回もたくさんの人たち(英国人、在英日本人)と出会い、交流の場を持つことが出来た。ぼくの視野もまた少しだけ広がったような気がする。めでたし。
さて、そのユーロスターの中で、愉快な出会いがあった。
ぼくはスタッフと機材やギターを抱えてユーロスターに乗り込んだのだった。
暫くすると、ユーロスターの男性乗務員さんがいきなり目の前にやって来て、あなたは日本人ですか、と訊いてきた。
英語で、だからぼくは仏語で、
「ウイ。日本人ですよ」
と答えた。
「でも、日本からじゃなく、パリに住んでいるんです」
昨日の日記にも書いたことだが、英国人にはいないタイプの、まさにちょっと陽気で、人懐っこく、人間にかかわりたくてしょうがないタイプの人だった。(ここね、人それぞれだから、説明が難しいけれど、ぼそぼそ独り言を言う感じの、何か言いたげな感じがある愉快な乗務員さんなのだった)
時々、ぼくの横を通過するとき、聞き覚えのある言葉をつぶやいていくのだ(わざとぼくに聞こえるように)。「すいませーん」とか「どうも」とか、え、日本語?
車内サービスが始まり、そこでまた、やりとりがあって、だんだん、じわじわっと、ぼくの方へ攻め入って来るムッシュ・乗務員さんであった。
「あなたは、みのもんたさんより、有名ですか?」
と、ワインをぼくのグラスに注ぎながら、驚くべきことを、いきなり言ったのだった。
心の中で、ええええ、と耳を疑った父ちゃん。み、み、みのもんた、と言った???
「あの、今、みのもんた、と言いましたか?」
「ウイー」
「なんで? 」
ぼくが日本人だから、言ったのだろうが、かなりディープなところを突いてきた乗務員さんであった。
でも、なんで「みのもんた」さんのこと、知ってるの???
乗客と私語はしちゃいけないのかもしれない。ムッシュ・乗務員さんは、周囲をちょっと気にしながら、さっと現れたり、いなくなったりを繰り返しながら、ちゃちゃっと会話をしていくのだった。とにかく、忍者のように身が軽い方なのである。
そして、まもなく、なぜか、なぜか、携帯を持ってやって来て、モノクロの美しい雰囲気のある日本人女性の写真を見せられたのである。
最初、昭和の女優さんかな、と思ったくらい綺麗な方であった。
「えへへ、妻が日本人なんです。これがうちのかないです」
げええええ、そういう展開!!!???
そうか、なるほど、だから、日本語をちょっと喋るのか。
「で、みのもんたさんのこと、どうしてご存じなんです?」
「妻の世田谷の実家に帰ると、テレビを観ます」
あああ、そういうことか。
「妻は大阪出身です。堺」
周囲を見回し、長話にならない程度ですっと消える愉快なムッシュ・乗務員さんであった。
奥さんの実家は世田谷にあるらしい。堺の出身らしい。なんで、ぼくにそのことを言いに来たのか、それはわからない。これがフランス人男性の特徴ではない。
昨日の日記に書いた、サイモンとは真逆な感じであるが、でも、この乗務員さんのようなフランス人はけっこうぼくの周りにはいる。います。
しかし、乗務員さん、何かもっと言いたげではあったが、忙しいので、ぼくとばかりは話していられない。
「シャンパン、いかがですか?」
「あ、いいえ、結構です。コーヒーください」
結局、美しい奥さんの写真を、5,6枚ほど、見せられた。角度は一緒の写真だったけれど、琵琶湖のほとりの旅館で撮影したような昭和な写真であった。もしかしたら、ムッシュが撮影したのかもしれない。なるほど、それはありうることだ。
自分の妻の自慢を、日本人だからといって、見知らぬ乗客にできる、この人、ぼくは好きだな、と思った。
なんて、人間味があるのだろう・・・。なんて、変なおっさんなんだろう、かわいいねー。
こういう経験はなかなかできるものじゃないし、昨日の日記で書いた「英国人とフランス人の違い」にも通じる話だけれど、たぶん、英国人はこういうことはしないな。笑。
フランス人はたまに、好奇心が勝ってしまう人がいるのは、認めよう。(人によります)
でも、優しい感じのおじさまだった。あ、ちょっとMrビーンのような機敏な動きをする。顔は似てないけれど、雰囲気や身のこなしがそっくり。
待てよ、Mr・ビーンみたいな英国人にはあったことがないが、Mrビーンのようなフランス人って、けっこういるかもしれない、と気が付いた父ちゃんであった。
しかし、ムッシュの素性を掘り下げるには、時間がなかった。まもなく、ユーロスターはパリ、北駅に到着してしまうのであーる。
荷物を抱えて、スタッフと下車すると、遠くにフランスのビーンさんが立っていたので、
「ムッシュ~」
と大きく声をかけた。
すると、気が付き、満面の笑みで、手を振ってくれたのだ。いい人だ。嬉しいなぁ。
なんか、表情が全身から滲みだしている。彼にはロックには似合わない。やっぱり、シャンソンが似合う。
ということで、ただいま~パリよ、なのであった。
さて、次のぼくの電柱作戦だが、大きいところで言えば、来年、2月28日からの伊勢丹アートギャラリーでの個展ということになるが、その前に、東京拠点計画のギャラリーTの試運転もついにスタートする。
パリに戻ってからも、その準備などで、ぼくに休みはない。
それから、12月6日に、とある発表をすることになるのだけれど、これもフランスの地方都市と組んでやる、あっと驚く面白いプロジェクトになりそうなので、ご期待あれ。
パリに着く直前、モンマルトルが見え、タクシーに乗ると、ムーランルージュの前を通った。
ああ、街並みも人の流れも気配も何もかも、やっぱり、ぜんぜんロンドンと違うことを思い知らされた父ちゃんなのでした。ちゃんちゃん。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
明日、三四郎をジュリアの家まで迎えに行きますね。また、暫く、三四郎との二人三脚(一人一匹六脚)生活に戻ります。
日常、大好きです。毎日の三四郎の散歩、自分のご飯、絵を描いて、たまに掃除をして、そういう生活こそ、電柱作戦の大切な通過点なのですね。
さて、父ちゃん、今回のロンドン滞在中に、2回、オンライン・コミュニティ向けにロンドン市内から動画生配信に成功しました。残念ながらジャズクラブからの配信は、ネット環境が悪くてできませんでした。フランスに戻ったので、セーヌ川周辺や、ノルマンディの田舎からも動画配信をやりたいと思います。次回、生ラジオは29日、予定。オンライン・コミュニティに参加ご希望の皆さんは、こちらのURLをクリックくださいませ。
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https://www.tsujiville.com
そして、一時間に及ぶ、熱血パパさんの、貴重なライブ映像!!!!
こちらのURLをクリックしてね。
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https://youtu.be/YIi9N-6kt5g?si=l3SPg4Wt-jpOqToS