JINSEI STORIES
滞仏日記「初めての仏人新型肺炎死者が出て、パニック始まる?」 Posted on 2020/02/27 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、オワーズ県(パリ近郊)の60歳の中学教師が肺炎で入院していたが、不意に容体が悪化しパリの専門病院に運ばれ「新型肺炎」と診断されたがその日に死亡した。ついにフランス人の死者が出たことで、フランスでの流れが一気に変わり、新型肺炎に対する人々の関心が、不意に高まった。まず、亡くなられた中学の教師は感染源が全く特定出来ていない。しかも中学の先生なのである。生徒たちはもちろん、彼が入院した病院関係者なども追跡し、調査が続いてる。これまでの感染者は全て感染源が特定できたが、この教師は市中感染した可能性が出てきた。このことで、フランス政府は今日から毎晩19時に、健康省(日本の厚労省)のオリビエ・ベラン氏が国民に向けて状況説明をすることになった。フランス政府の真剣度が伝わってくる。
オリビエは「今、流行にブレーキをかける時期で、我々政治家は専門家の意見に従って決定を出していくので、パニックを避けるために国民は注意してほしい」と前置きした。「国は1500万枚のマスクを持っているので、これを薬局に一斉に配布する。けれども一番大事なことは手を洗うこと。手を洗うことです」とオリビエは強い口調で繰り返した。
日本でも、イベントの自粛の要請が政府からあったが、フランスでは今日、リヨンでイタリア(ユベントス・トリノ)とフランス(オリンピック・リヨネ)のサッカーの試合がある。トリノは新型肺炎が流行している北部イタリアに位置する。これが波紋を呼んでおり、メディアは「何故この時期にトリノとの試合をやるのだ」と放送している。なぜなら、この試合を観戦するために3千人のサポーターが北部イタリアからフランスに渡って来ている。イタリア北部では300人を越える感染者が出て、12人の死亡者が出ている。もの凄い勢いで感染が拡大しており、フランス人はこのことに戦々恐々としているのが現実だ。イタリアのサポーターたちは、「俺たちはウイルスじゃない」と反発をしている。中止というアナウンスが流れたり、やっぱり開催するとなったり、情報が錯そうしている。(結局、試合はやることになった)
このように、フランスは隣国イタリアの感染拡大に加え、はじめてのフランス人の死者が出たことで、市中感染の恐怖が広まりはじめた。フランスのニュースチャンネルBFMが行ったアンケートでフランス人の半分くらいがコロナを脅威と感じるようになったとしているが、4割を超える人々は関心が薄い。日本に比べるとまだパニックとまではいってないが、これまでにない速度でフランスでも緊張が走りはじめた。フランスとイタリアは地続きであり、物凄い数のイタリア人が住んでいる。フランス政府は一刻も早くコロナを抑え込みたい計画だが…。