JINSEI STORIES
滞仏日記「今日、辻が三人集まった。父と子の生き方に感動したのであーる」 Posted on 2023/10/15 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、ということで、日本のラグビーはアルゼンチンに敗れてしまったが、その試合を知り合いの辻ちゃん父子が観戦(ナント市)にやって来ていたので、帰国する直前に、事務所の近くのカフェで、会うことに。
辻ちゃんはダウンタウンDXという番組のディレクターで、ぼくが何度かあの番組に出演させてもらった時の担当で、同じ「辻」姓だったことから、「辻会」を結成、時々、飲んだりするようになった。
ぼくがバラエティ番組をちょっと控えるようになって、(忙しくてね)、辻ちゃんと会うことが少なくなっていたので、嬉しい再会となった。
しかも、辻ちゃんは、息子くん(13)を連れて来ていたのだ。
息子君は未成年なので、T君と呼ぶことにしたいが、これが、実にかしこい少年で、ううむ、今日は、実は辻ちゃんの話じゃなく、このT君の話になるのであーる。
T君はなんとラグビー選手なのだ。だから、ワールドカップを観戦にフランスまでやって来たのである。
中学生のラグビークラブに入っている。
ディレクターの辻ちゃんの息子とは思えないくらい、ハンサムで、聡明だが、笑、なんとなく、自分の息子の幼い頃を思い出し、比べてしまった。(体形が似ている)
うちの子は、離婚後、人と話さなくなり、笑わなくなった。
10歳の離婚直後の時は、それまでが明るかっただけに、腫れ物に触るような毎日となった。ぼくら父子の暗黒時代であった。あはは。
それに比べ、T君はスポーツ選手で、賢いが、何よりも社交性がある。
「わ、フランス語、喋ってる。あの、どうやってフランス語を喋れるようになったんですか?」
これが第一声だったが、その後も、業界人のお父さんよりも、好奇心にあふれた質問をぼくに次々、投げつけてきたのだった。
※ これがディレクターの辻ちゃんなのだ。横にいるのが、T君、13歳であーる。二子玉川で雑貨屋をやっているママは、お留守番だそうだ。仲良し、三人家族なのである。T君「ママは凄いし、やばい」とめちゃ自慢していた、仲良し家族。ママの目はごまかせないらしい。テストの採点もお母さんの大事な仕事らしい。ほォ~。いいね~。
「ぼく、ラグビーで生きていこうとは思ってないっていうか、無理なんです。やっぱり現実を見て、将来はスポーツのサポートをするような仕事につきたい。だから、英語だけじゃなく、スペイン語も勉強しはじめました」
自発的に、自分でテーマを見つけ、そのことを語る。
押し付けるようじゃなく、でも、子供らしく、悩んでいるような感じも多少滲ませながら、すると、お父さんが横から、
「でも、それでいいんじゃないか。いいと思うな」
となんかこっちが照れ臭くなるような絵に描いた父子を演じるのだった。あはは。
ぼくはじっと、T君を見た。
息子がこの年齢の時、彼は将来のビジョンも何もなかった。
中学でも見つけられず、高校も受験ギリギリまで悩んで、志望校には合格したが、そこが思っていた大学とは違ったようで、大学を受け直し、今は違う大学で勉強している。
ぼくは辻ちゃんのようないいお父さんにはなれなかった。
「でも、辻さんは息子さんにバレーボールのコーチしてたじゃないですか?」
と辻ちゃんが言うと、T君は、へー、そうなんですか、凄いな、と言った。
心を閉ざした息子のその心を開くために、ぼくは、ロン毛の小さなオヤジなのだが、放課後、近くの公園で息子のバレーボールのコーチをつとめた。
言葉がないなら、行動しかない。
バレーボールをやっている時、息子は笑顔になった。
だから、バレーを通して、(ぼくはネットでコーチの仕方を勉強したのだ)、なんとなく、ぎくしゃくしていた離婚の最初の1,2年を乗り切ることが出来たのだった。
もちろん、そういうことはT君には関係ないので言わなかったが、賢い子なので、なんとなく、ぼくと息子の置かれた状況を理解していたようだ。
「でね、息子が高校生の時に、やっと金メダルをとったんだ」
「金?」
「ああ、最初は銅メダル、次が銀メダル、最後に金メダル。その時、幸せそうだった」
「どんな試合で金メダルをとったんですか?」
気になるのだろうね、彼もラグビー選手だから、笑。
すると、横から辻ちゃんが、パリの大会でだよ、と口を挟んだ。
T君、素直に、感動してくれたのだ。いい子だった。
だから、ぼくはT君とたくさん話をした。世界のことについて。
「パパと北駅を歩いていたら、つばを吐きかけられて、あっちへ行けみたいな差別を受けました」
ありゃ、・・・。すると、T君がこう付け足したのだ。
「でも、ぼくはその人を見て、フランス人が全部そうだとは思いません」
「うんうん」
※ 修学旅行からのパリ入りだったので、ぼくへのお土産は、これでした! めるしー!!!!
「いろんな人がいるので、もっと世界を知りたいです」
だいたいこういうことを言ったのだ。さすが、ラグビーで鍛えた精神である。
今、世界的にあちこちで戦争が起こっているので、人間関係が不穏になっている。学校の教師がまた刺されて殺された。
イスラエルとパレスチナの問題が、フランスだけじゃなく、世界中に暗い影をおとしている。ウクライナとロシアの問題もある。
つばを吐いた人が、どういう人か、どういう思想を持っているのか、わからない。駅周辺というのは、悲しい人間ドラマの終着点でもある。
憎しみや恨みや敵対心が寄り集まっているのだ。
その坩堝なようなものの中を通過するとき、思いがけない出来事も起こる。
その一面で、傷つくのではなく、そこから社会を見つめようとしたT君のこのスポーツマンシップに感動をした。将来が愉しみなやつだ。
「20年後、君と再会するのが楽しみだな」
とぼくが言ったら、笑顔で、はい、と頷いていた。
13歳のT君を見ている限り、まだまだ日本は大丈夫だ、と思った。
「今の日本は、でも、ちょっとよくないです。だから、ぼくは外に出て、自分を試したいんです。世界で!」
こんなようなことを、言ったのだった。うんうん。
少し前に、ニュージーランドの代表チームと試合をしたのだそうだ。相手の子たちは180センチもあった。彼は小柄だった。(でも、フォワードなのである!!!)
「やべー、殺されるかも、・・・。びびっちゃいました」
「負けたの?」
「はい、70対0だったんです」
少年は大笑いをした。お父さんも笑っていた。
でも、いつか、勝てる。試合にじゃなく、人生に君は勝てる。ぼくは、そう思ったのだった。
T君と別れた直後、息子からメッセージが飛び込んで来た。
「パパのロンドンのライブ、観に行きたい!!!」
あはは、なんて、タイミングのいい子であろう。実にいい息子なのである。
この子たちの20年後が楽しみだ。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
ということで、ロンドンに気持ちはすでに向かっています。ぼくはまもなく、ジョルジュたちとロンドンを目指します。体調はばっちり、英語のMCも多分、ばっちりでしょう! 笑。息子には、ロンドン諦めさせました。アウェイでのライブなので、彼の世話まで出来ませんからね、あはは。今は、ひたすら、集中あるのみ。待ってろよ、ロンドンっ!!!!
10月23日のロンドンライブですが、18時半からの回はソールドアウト。これからチケット買うぞ、という皆さん、20時45分からの回でお願いします。
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https://www.universe.com/events/tsuji-mon-23rd-october-2023-at-qt-covent-garden-2045pm-extra-concert-tickets-JBSF3D
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そして、日本から行くぞ、という皆さん、引き続き、JALパックロンドンの上口さんがお手伝いをさせていただきます。上口さん、ありがとう。こちらから、どうぞ!!!
https://www.jalpak.fr/optionaltour/tsujiconcert/
ラジオ・ツジビルは、毎週、オンライン村、ツジビルで放送されています。こちらへ、どうぞ!!!
↓こちらURLになります
https://www.tsujiville.com
そして、一時間に及ぶ、熱血パパさんの、貴重なライブ映像!!!!
こちらのURLをクリックしてね。
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https://youtu.be/YIi9N-6kt5g?si=l3SPg4Wt-jpOqToS