JINSEI STORIES
滞仏日記、2「息子の高校生ブランドをやめさせた理由」 Posted on 2020/02/25 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、息子君がリーダーになり進めてきた高校生ブランドだが、話し合いの結果、やめさせることにした。ぼくもずいぶんと悩んだのだけど、そこにはいくつかの理由があった。まず、息子がこのグループのリーダであり、その損失のほとんどを背負うことになりそうな感じであることが一番大きい。そこに彼の友人たちを巻き込んでおり、お金の流れが透明じゃないことがその次の点になる。
誰がお金を出すのか、と問い詰めたが即座に返事がなかった。想像するに息子が自分の小遣いの大半をそこに注ぎ込んでやるつもりだったのじゃないか。大した小遣いをあげているわけじゃないし、自分一人で背負ってやるようなものを今、この時期に許可することが、どうしても出来なかった。そもそも一般に販売をするということがちょっと気になった。たとえばクレームが来た時の処理の仕方とかにも曖昧さがあったし、配送なども自分たちでやるというけれど、簡単なことではない。イニシャルも当初の20枚よりも増えていた。プリントに関しては大人の人に依頼するというのだけど、その人物がどういう人かぼくにはわからない。16歳の子供たちが商売をすること自体にも問題を感じる。もう少し時間のかかるものかと思っていたが、試着品まで出来てきたので、或いはかなり前からぼくに内緒で動いていたものかもしれない。ということで昨夜、家族会議(二人きりの)を開いて、最終的に、許可出来ない、という結果を出した。
未成年なので、親に従う義務がある、と通達した。珍しく、泣きそうな顔をしていたけど、総合的に判断をして、早い段階で決断を出す必要があったので、中止するように、と言った。
分かってるけど、そうやって頭ごなしに決めつけなくてもいいじゃない、と息子が反論をした。でも、パパはお前の親で、この後お前が抱えるだろうことを想像すると、ああそうですか、いいね、夢に向かって頑張りなさい、とはどうしても言えないんだよ、と反対をした。結構、食ってかかって来たので、親の言うことを聞けないのか、と怒った。
「パパは今まで、一度もお前の人生を否定したことがない。ずっと味方だった。でも、今回の件は君の周辺の仲間たちを巻き込む、その子たちにも親がいる。これから大学受験に向かわなくてはならないのに、その子たちの運命まで引きずることになるし、問題が起きたら、君が背負わないとならない。18歳になって、フランスで成人してからやっても遅くないと思うんだけど、二年待てないのか?」
彼は黙って席を立ち、自分の部屋に閉じこもった。とりあえず、様子を見ることにする。なかなか難しい年頃である。ぼくはなぜか厳しかった自分の父親のことを思い出していた。