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滞仏日記「ついに息子の学校からコロナに関する通達が届いた」 Posted on 2020/02/25 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、フランスは2週間のバカンスが終わった。昨日、息子の学校から「重要なお知らせ、コロナウイルスに関する措置」と題されたメールが届いた。ちなみにこの指示はパリ市内の全ての学校に通達されている。いつか、こういう連絡が来るかもしれないな、と思って身構えていただけに、ついに来たか、という感じである。

『ご両親さま、本日、パリ市教育委員会より受けた指示に従い、中国(中国本土、香港、マカオ)、シンガポール、韓国、または イタリアのロンバルディア州とベネト州の地域に旅行をしたお子様を明日、登校させず自宅に待機とし、かつ大至急、事務局まで連絡を下さい。ご理解いただきありがとうございます』

滞仏日記「ついに息子の学校からコロナに関する通達が届いた」

ここに日本が入っていないのは、たまたま、パリ市が日本国内の状況をまだきちんと把握できていないからに他ならない。少なくとも、ベネト州が入っているのだから、日本がここに加わっていても不思議ではない。ともかく、このままだと、ここに日本が加わるのは時間の問題かもしれない。EUはイタリア国内での感染拡大を受け、欧州内の移動を制限しないと発表したが、これも今後のイタリアの感染者数の推移によるだろう。それにしても、パリ市の教育委員会が生徒の移動に強く制限をかけたのは感染の拡大を早い段階で防ごうという正しい判断だと思う。今の日本にはできない強い措置をフランスはとり続けている。その結果、フランスでは今日、最後の感染者が退院し、はじめて感染者0となった。たとえばだけど、日本も、これから2週間程度学校を休校にするなどの強い措置をとってもいいのじゃないか。そのくらいのことをやらないとこの感染拡大を封じ込めることは難しいと思う。

逆に隣国イタリアでは感染者が229人となり、死者が7人となった。(この日記を書いている最中に、死者が一人増え、感染者数は20人増えた) この感染の速度は驚くべき程だ。ベネチアのカーニバルは途中で中止、ミラノのドゥオモも閉鎖、ジョルジオアルマーニのファッションショーは観客無しで行われ、サッカー、セリアAの試合が延期になった。韓国の感染者数もどんどん増えているけれど、一方の日本は市民が簡単にコロナウイルスの検査を受けられない状態だという。PCR検査を受けるための条件が高く感染者の数字が伸びてないだけじゃないのか。その結果、パリ市教育委員会の通告の中に日本が含まれていないのだとしたら、これはちょっと大変な問題かもしれない。日本国民だけが何が起きているのかを把握できないまま生活を送っているということにならないか。



韓国では全国で43の専門病院を指定し、一万床のベッドを確保した。イタリアは北部七州が学校閉鎖を決めた。北部の11の町の住民約5万人が外出を禁止されている。封鎖されている感染者が最も多いコドーニョ近郊には電車さえもとまらない。一方、日本は何も禁止されていない。

日本時間の本日、25日。日本政府が感染拡大を防ぐための対策、医療態勢を盛り込んだ基本方針を発表するという。国民が納得できるような断固とした判断が下されることをぼくは期待している。

自分流×帝京大学