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滞仏日記、2「ニコラにポッキーをあげる」 Posted on 2020/02/12 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、ドアベルが鳴ったので出ると、ニコラだよー、と。まるで待ち構えていたかのようにニコラとマノンが遊びに来た。今、フランスはバカンス中、2月23日までスキー休みなのである。暇を持て余している上に、きっとお土産が目当てでやって来たのがみえみえの二人だった。慌ててトランクを漁り、ポッキーをニコラに、クッキーをマノンにあげることにした。ニコラはまだ小さく、マノンはすでに大人くらいに背が高いのだけど、たとえば餃子を作ると、同じ数だけニコラが要求し、一個でも少ないと泣き出す。だから、何か物をあげる時には、奪い合いにならないよう気を付けないとならない。本来ならばチョコクッキーをニコラにあげたいところだが、パッケージが派手なポッキーがいいと言うに決まっているので、先に、選ばせた。飛びついたのはやはりポッキーだった。

滞仏日記、2「ニコラにポッキーをあげる」



実はフランスでも昔からポッキーは売られている。ぼくが渡仏した頃にはすでにスーパーで売られていたので、フランス人にも大人気なのである。こちらでは「LU」というメーカーが多分グリコからライセンスを取得して販売している。ポッキーという名前じゃなく、「MIKADO」というのだけど、最初、えええ、と驚いた。ミカドはないでしょ。味はグリコにはかなわないけど、まぁ、悪くない。なので、ニコラは「桜仕立てのポッキー」にまっすぐ手を伸ばした。桜仕立てというのがよくわからなかったけど、空港で売っていたポッキーで、日本趣味な可愛いデザイン。本当ならばマノンにあげたかった。マノンが悔しそうな顔をしたけど、そこはお姉ちゃん、ぐっとこらえていた。姉弟というのは可愛いねェ。

上の階の女の子たちにも今回はお土産を買って来た。近所の子供たちにお菓子を配る日本の変なおじさんなのである。その名はムッシュ・リゴロ(おもろいおっさん)と呼ばれている。長髪でマントみたいな服を着てブーツ履いてるから、子供たちがぞろぞろくっついてくるのだ。我が息子はひっきりなしに子供たちが遊びに来るので、やれやれ、という顔をしている。でも、集まってくるのだから、仕方がない。真上に住んでいたアシュバル君たちは今ポルトガルで暮らしているらしい。たまにお母さんのエロイーズから絵葉書が届く。「アシュバルが、ムッシュは元気かな、と言ってます」という嬉しいメッセージ付き。子供たちの親はそれぞれ問題を抱えているのだけど、それは仕方がない。でも、子供には罪がないし、せめて同じ町内会の子供たちには笑顔でいてもらいたい。なので、いろいろと買い込んできた。ポッキーの桜仕立ては好評であった。

あと、古本屋のクリスティーナおばあちゃんには「金平糖」を買った。バーマンのロマンには昨日「梅酒ボンボンチョコ」をあげた。常連客に大受けだった。中国人のメイライには「揚げせんべい」を、ワイン屋のエルベには「甲州ワイン」を、アンティークショップのディディエには「キシリトールのガム」、角のカフェのクリストフには「インスタント味噌汁セット」をプレゼントした。ようは、ぼくは日本のおもろいおっさんなのだ。日仏友好連盟会長なのである。



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