某月某日、三四郎は、ぼくが食事をしはじめると、足元にやってきて、ぼくを見上げる。
この見上げ方が半端ない。尋常じゃないのだ。
なんというか、集中力、つまり、目力が凄いのである。
この子は、全く吠えない犬で、他の犬が吠えて大騒ぎしても、我かんせず、遠くの空を見上げているようなわんこなのである。
ところが、ぼくが食事をしはじめると、そこがキッチンだろうと、レストランだろうと、どこだろうと、ぼくの足元にやって来て、じっと気配を消して、見上げてくる。
その目力が、圧倒的なので、父ちゃんはよくめげて、犬にあげてはいけない食べ物をあたえてしまうのだ。いかんいかん。
クレオパトラか、と思うようなこの目力がやばいのであーる。☜オスなのに・・・。
吠えないで、じっと、見上げるだけなのだけど、圧力半端ないのであーる。
時々、ぼくが無視をしていると、ぼくの足をぺろっと舐めてきて、ここにいるよ、と教えてくる。ぎゃああああ。
こら、そんなこと、よさんか、と怒るが、この目なのである。
ううう、ひるんでしまうじゃないか！！！

ということで今日はシェフ仲間のチャールズのレストランにやって来た。
彼の独創的な料理を食べるために・・・。
しかし、濃厚なフレンチ、三四郎にはよくない。
かなり味付けされているのだから、与えちゃいけない。
犬には毒なのだ。わかっておる。
しかし、この目である。
こんな目でずっと見上げられると、気になってしょうがない。
ううう、さんちゃん、きみ、なんか、食べるかい？
で、テーブルの上を見回すが、犬に与えるようなものはないのだ。
パンの端をちょっとカットして、与えるが、・・・ううう、食べない。
「パパしゃん、ぼくが食べたいのはこんな子供だましじゃないのだよ」
と言わんばかりの高貴なまなざしをぶつけてくるのだぁ～。
うわああ、やめれ、その目、やめんか、食事がでけん。

「ムッシュ、何か？」
給仕長のトニーさんが、ぼくの不穏な動きを察知しやってきた。
「いや、なんでもないです。独り言」
「それならよかった」
「あ、トニー、君にあげようと思ってＣＤを持ってきたんだ」
「え？　マジですか？」
トニーは、前に、ぼくがチャールズの家で歌うのを目撃し、大ファンになってくれたのだった。
最近、仏人の前では「荒城の月」を必ず、歌うことにしている、父ちゃん。
そうすると、あのエキゾチックなメロディに、やられ、みんなファンになってくれるのであーる。
「ありがとうございます」
ということでトニーが三四郎に水を持ってきてくれたのだけれど、三四郎は、動じない。
「パパしゃん、ぼくが欲しいのこんな水じゃないよ、そのフレンチがほしい」
ということで、さんちゃんは、動かない。
ぼくをじっと見つめ続けるのであーる。
肉料理が運ばれてきた。
三四郎の鼻先がぴくぴくと動いた。う、やばい！
三四郎の目力がいっそう強くなる。
ひゃああ、勘弁してくれ、これじゃあ、食べられないよ。

ということで、三四郎は一時間でも二時間でも、ぼくの足元から動くことなく、じっと見上げて、無言の訴えを続けるのであったぁ。
苦しい父ちゃんは、パンにバターをちょっとだけ、ちょっとだけ塗って、あげたり。☜あげてるんかい！
パンをスープにつけて、ちょっとだけあげたりして、場をごまかすのであった。
ちなみに、チャールズの店はミシュラン星付きレストランなのである。
でも、犬との同伴はＯＫなのが、フランス・スタイル！
三四郎もおとなしく、星付きレストランにふさわしい、静けさで、ぼくを見上げ続けているのであった。
結局、ぼくはチャールズの料理を楽しむことが出来ず、帰ることに。
三四郎さえいなければ、と思うこともある。
でも、こんなに可愛い子に見上げられて、無視することも出来ない。
家に帰り、さんちゃんには、犬用の手羽先を与えることにしたのだ。
「お前には、こっちの方がうまいんだぞ」
美味しそうに食べる三四郎・・・。
この重圧の日々はこれからも、ずっと、続くのであーる。
あはは。

つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
ということで、目力の三四郎、なのであります。この子は喋りませんが、訴える力が半端ないのであります。なんなんでしょうね、この静かな訴え・・・。
はい、父ちゃんからのお知らせです。本日、１６日、ＮＨＫ・ＢＳの「ボンジュール、辻仁成のパリごはんＳＰ」新作が放映されます。ぜひ、ご覧くださいね。めるし。
NHK/BS「ボンジュール、辻仁成のパリごはん」
いま、毎日、放送中だよ！！！！！！
新作は１６日！！！
今後の全ての放送スケジュールがアップになりました。
https://www.nhk.jp/p/ts/6XW8NZ748V/schedule/