JINSEI STORIES
滞仏日記、2「フランスのコロナ感染者への対応、驚きの結果」 Posted on 2020/02/08 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、日本の感染者が爆発的に増えている中、フランスの検疫と水際策が功を奏しているのか、フランスから明るいニュースが届いた。まず、コロナウイルス感染者が日本で最初に3人確認された時点で、フランスもほぼ同日、2人の感染者が確認されている。パリで一人、ボルドーで一人。(二人とも武漢を経由した中国系の人物で、三人目はパリで確認された保菌者の近親者であった)。現在、フランスの感染者の数は外国人を含めて6人だが、この6人もあと数日で退院する見通しとなった。武漢から帰国してマルセイユで隔離されている280人の中にはコロナウイルスにかかっている人がいなかったことも判明。つまり、フランスは感染者がまもなくゼロとなる。この日曜日に武漢から38人のフランス人が戻ってくるがそのままマルセイユの施設で二週間隔離される。フランスは絶対にウイルスを入れないという強い姿勢を打ち出してきた。これが功を奏している。
はじめてフランスでコロナウイルスの感染者が確認された時、フランスの公衆衛生学の研究家は、保菌者の移動を制限させることこそが感染をストップさせるのに一番有効な手段である。そのためにもう一つ重要なことは、迅速な決断と政治的実行だ。検疫は感染病に対する確実な武器となる、と強く語った。このことをフランスは守り、マルセイユから28キロ離れた海岸沿いのリゾート地、カリー・ル・ルエで全ての帰国者を隔離した。(リゾート地で海を眺めながらの隔離は感染を疑われた人たちにとって精神的にも人間的にも楽な待遇だった。そのため隔離を全員が受け入れている)。同時にエアー・フランス航空は一月末のかなり早い時点で中国への全ての運航便を即座にとめた。これらの政治的な早い判断が感染拡大を止める結果につながっている。日本は地政学的に中国から近いし、春節で観光客が多かったから増えたというのであれば、世界的な観光地であるパリにも大勢の中国人観光客がいた。シャンゼリゼを含めどこもかしこも中国人観光客だらけである。人口が日本の半分の国なので、両者を数字の上で比較することは難しいが、感染者がまもなくゼロになるというメッセージには希望が持てる。
フランスはクルーズ船の寄港地としても有名なので、今後、どのような対応がとられるのかまだ未確定な部分もあるが、アジアの状況を分析しながら、先手先手で対策を講じているフランス政府の努力が目に浮かぶ。日本に今必要なことは、経済を優先させるために保菌者を招き入れ続けることではなく、一時的に苦しくなろうと保菌者の移動を完全に止めることが優先ではないか。目先のことに走っていると感染を拡大させ、オリンピックの延期へと結びつく。結果、最終的に経済を恐ろしいくらいに苦しめることに繋がる。国家として人道支援をさらに進めながら、国民を守ることに政府が今以上に断固と動くことが必要であろう。
日本人は元来、真面目で衛生的である。昔からマスクをつける風習を持ち、手洗い嗽をきちんとやる。街は世界でも例をみないほどに綺麗で衛生的なので、政治がきちんと判断、行動すれば、フランスのように、まだ感染の拡大を防ぐことができるのじゃないか、と確信している。
※ マルセイユの隔離施設での風景。