JINSEI STORIES
滞仏日記「息子がレストランをやることになった」 Posted on 2020/02/06
某月某日、寝ようとしていると息子から電話。「パパ、日曜日にうちでレストラン開きたいのだけどいい?」と許可を求められた。ちょうど、ぼくは料理雑誌「dancyu」の植野編集長と東麻布のキッチンスタジオで20人くらいのお客さん相手にフルコース料理をふるまって帰って来たところだった。なので、あまりにこのタイムリーな提案に苦笑してしまった。
「どういうこと?」
「だから、ぼくとウイリアムとトマの3人でレストランをやるんだ。いいアイデアじゃない? ウイリアムとトマは料理が大好きだから彼らがシェフ、ぼくがサービスを担当するんだよ。学校の友だちを招待して、メニューも作って、本格的なんだ。パパがよくうちでやっているような感じだよ」
ぼくは息子にdancyuが企画した「秘密のレストラン」のメニューと写真を送った。すると、そうそう、こういうことをやりたいんだ、と言った。
「パパの黒いスーツとシャツと蝶ネクタイ貸してくれる? 正装してサービス係をやる」
「いいけど、凄い本格的だね。で、どんな料理を出すの?」
「今、メニューをみんなで考えているところだけど前菜、メイン、デザートから選べる」
「何種類も作るの?」
「うん。レストランだから選べなきゃつまらない。前菜3種類、メイン3種類、デザートも3種類」
「大変じゃん。作れるの?」
「ウイリアムとトマはよく料理をするんだよ。たとえば前菜なら、キッシュ、タブレサラダ、オムレツとかね、メインがチキンのマリネ、シェフのラザニア、牛肉のチャーハンから選ぶことが出来る」
「チャーハン? キッシュとチャーハンが出るレストランかよ」
「うん、子供はチャーハンが好きでしょ。50ユーロ(6000円)」
「高ッ!お金とるの?」
「まさか、とらないけど、一応メニューには金額が書かれてるんだ。ラザニアは40ユーロ」
「高過ぎるよ。いくら架空でも」
「本格的にやりたいんだよ。高い方がやる気が出るじゃん。クラスメイトがみんな来るから、予約もとって時間差で食べてもらうんだ」
「ちょっと待て!」
僕は思わず遮ってしまった。
「みんなって何人来るんだ?」
「クラスメイト全員だけどダメ? 階段に並んでもらい、前のお客さんが帰るまで待機してもらう。ぼくがサービスだから受付とか案内とか料理出したり片付けたり」
パリから戻ってすぐにぼくを待ち受けている新たな受難について想像してしまった。
「ダメとは言わないけれど、キッチンも食堂も現状完全復帰でなら貸してもいい」
「もちろんだよ。一応パパもお客さんとして参加できるよ。いいでしょ?」
クラスメイト全員がどれほど大変なことか彼らにはわかってないようだった。ぼくが植野編集長とやった秘密のレストランのお客さんは20人。それでもてんやわんやだった。アシスタントが二人いて、サービスが5人くらいいた。Dancyuの読者イベントだけど、それなりの金額をとってやったので(もちろん、ぼくは無報酬)、一日がかりの大仕事になってしまった。大人だって楽しいのだから、子供たちはもっと楽しいに違いない。だから、ぼくは
「ああ、いいよ。思う存分やったらいいよ」
と言っておいた。やれやれ。血だ。