JINSEI STORIES
滞仏日記「ノルマンディの我が家でホッと一息ついた、父ちゃんと三四郎でした」 Posted on 2023/09/12 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、今日は午前中、帝京大学文学部の熱血辻ゼミがあったのであーる。
夏休み中に原稿用紙20枚の課題を出しておいた。
5人のゼミ生の中で、AさんとI君の二人の作品の合評を行ったが、実にこれがいい。
マジで、本当に才能がある生徒だった。
物語の動かし方の上手なAさん、対照的に、I君の小説は起承転結がほぼない哲学的作品だった。
夏の間、遊ばず、作品に向かった本気度がよく伝わって来る。プロ顔負けの出来栄えだった。
Aさんには、新人賞への応募をすすめた。頑張れば、いい結果が出せるかもしれない。
授業のあと、長いメールを貰った。自信が出ました、という内容だった。ぼくは焚きつけるのが上手だ。そもそも新人賞なんかタダで応募できるのだから、試さない手はないよね、と言った。
時々、手を差し伸べ、普段は見守り、今以上の才能が出るように、励まし続けてきたい、と思った。
成長が早い、頭が柔らかいこの今がとっても大事なのである。
そういえば、京都公演に、京都造形大学の辻ゼミ生だった、Oさんと、クリエイティブ・ライティングコース主任のTさんが来てくれた。
Oさんはもう、大きなお子さんのお母さんなのである。
「先生、子育てに慣れてきたので、また、創作をやろうと思っています」
嬉しい声が聞けた。
「うんうん、熱血を忘れず、楽しんでやってくださいね~」
辻先生は、ずっと先生なのであーる。あはは。
紫蘇の種を頂いたので、事務所のベランダで育てていたら(夏のあいだ、ほったらかしていただけ、笑)、見事に葉っぱが広がっていた。
味見したら、これが、めっちゃ、紫蘇! 美味かった!!!
おお、自然の力、すげー。
ということで、処分に困っていたひき肉120gを使って「おろしミニ・ハンバーグ」を作って食べた父ちゃん先生であった。残りもの大処分ランチであーる。
熱血ゼミの後に食べる「おろしハンバーグ」は夏の終わりにぴったり、格別であった。しかも、自家製の紫蘇! 美味しくないわけがない!!!
生徒たちの顔を思い浮かべながら、頬張った。
「美味い!!!」
ということで、食後、荷造りをして、三四郎とノルマンディを目指した。
早く我が家に帰りたい、とアクセルを踏み込む足がつりそうになった。あゝ、自分の村に帰るのだ、嬉しいなぁ。
「帰っておいでよ、満たされぬ人々、ここは君の街、君が帰る街!!!」(シティ・ライツの歌詞より)
なにせ、3か月ぶりの我が家なのであーる。
チャールズやミハ、ジャンフランソワなど、ノルマンディの仲間たちが手ぐすね引いて待っている!
オランピア劇場ライブに来てくれたのだ!
それ以降、会ってなかったので、「ギターを持ってきて」としつこく、せがまれた。
もちろん、ぼくの移動にはパソコン、パレットナイフ、ギター、調味料は欠かせない。☜ あはは、何者!?
パリ事務所の冷蔵庫の中の余った食材を冷蔵バックに詰め込み、練習用のギターや、パソコン、画材などと一緒に、運んだ。
ノルマンディのアパルトマンは屋根裏部屋なので、まず、三四郎を家に入れてからの、2回戦の荷上げ、ひゃああ、超・きつかった。ふー。
でも、この秋は頻繁に通い詰めるつもりなので、ちゃんと巣作りをしておく必要があった。(二拠点生活の掟、第一条)
エレベーターのない5階まで、フーフー言いながら、荷物をあげた父ちゃん。三四郎が階段の上でぼくを待っていた。くゥ~ん。
「さんちゃん、もう一回戦あるからね、待ってろよ」
光が降り注ぎ、英仏海峡が目の前に広がる、別世界がそこに広がっていた。残念なことに今日は曇りだから夕陽は見ることは出来そうにないが、そんなの気にならない。
風が抜け、心地がよい。
エレベーターはないが、天守閣のような最上階からの眺めが最高であった。
アトリエには、伊勢丹の個展用に、描き上げた大作がずらっと壁に立てかけられ、主人の帰りを待っていた。
サイズでいうと、60F号(1300×970)もある大きな作品たちである。
こういう作品が十数点あって、壮観な眺めなのであーる。
さて、どれを展示しようかな・・・、どれを手元に残そうか・・・。
三四郎を抱きかかえて、一緒に絵を見た。
大学の先生から絵描きまで、回遊魚の父ちゃんに、休むという単語は似合わない。
もっとこの世界を面白くさせてみたい。わくわくするじゃないか。
そう、思うと、自然と口角があがるのであった。
明日は、さんちゃんと、カルバドスを旅します。えへへ。
明日へ、つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
そういえば、日本時間の月曜日の朝、NHK・BSで「ボンジュール、辻仁成のパリごはん」第一回目が再放送されたはずですね。父ちゃんの耳には何も届かないですが、ご覧になられましたか? 火曜日(日本は今日ですけど)の朝に第二回が再放送されます。毎日、過去作が続いて、16日に新作SPが放送されます。オランピア劇場ライブが30分もあるんです。オランピア劇場という大舞台を、パリのおなじみの登場人物たちに支えられながら、上り詰める父ちゃんの奮闘記、もちろん、息子君も、三四郎も登場しますから、ぜひ、お見逃しなく。とにかく、三回目のロックダウンから始まった「パリごはん」でしたが、いよいよ、感動の最終回へとなだれ込みますよ。皆さんからの反応、愉しみにしておりますね! 熱血~。
さーて、父ちゃんからの、お知らせだよー!!!
NHK/BS「ボンジュール、辻仁成のパリごはん」
いま、毎日、放送中だよ!!!!!!
新作は16日!!!
今後の全ての放送スケジュールがアップになりました。
https://www.nhk.jp/p/ts/6XW8NZ748V/schedule/