某月某日、昨日の生放送ラジオで、「毎日、子供に何を作るのか献立で悩んでいる」というお母さんからの苦悩のお話があった。
ぼくはあの日々を振り返った。献立を毎日考えて大変だった時期が懐かしい。
日々の料理が息子の身体と健康を作っていたことを知っていたからだ。今が大変という時の先にある未来は偉大である。
なので、今日は何を作って喰わせてやろうと思える自分が大切だった。
もちろん、大変だったけれど、幸せだった。
あの頃、料理を作って、子供に食べさせることがぼくの一番の仕事だった。
子供が巣立って、時間が出来、自分のために料理を作るようになったが、本気度が減った気がする。
パリのアパルトマンにこもって、子供の成長ばかり考えていたあの頃、ぼくの頭にあったことは、とにかくこの子を健康に育て切ること、しかなかった。
それはもう、本能だった。
余計なことを考える暇さえなかった。
子供を学校に送りだしたら、その足で、スーパーに行き、食材を物色していた。
「昨日はハンバーグだったから、今日は、魚料理にしよう」とか、「銀色の魚は頭がよくなるらしいからいっぱい食わせよう」だとか、「鉄分が豊富な野菜を食べさせなきゃ」だとか、スーパーでそうやって悩みぬける毎日の労苦こそ、幸せの証なんだ、と思うようになっていった。
今、１０年前を振り返ると、それこそが本当に、幸せの根っこ、だった。
だから、悩み相談のお母さんにぼくは言った。そういう苦悩は未来を生んでいるのだ、というようなことを・・・。

ところが、一人になった今、生放送ラジオが終わると、スタッフさんも去り、三四郎と二人きりになって、夜が来て、めっちゃ静かになって、自分のためにご飯を作らないとならない時間がやって来て、これが、新たな苦悩なのだが、自分のために美味しいご飯を作る気にはならない、ということなのである。
息子を育てないとならない、というのは、まさに人間の使命なのだった。
でも、自分のために美味しいご飯を作るというのは使命でもなんでもない、やる気が出ないのである。
今、お子さん（パートナー）のために毎日ごはんを作っているあなたが、苦しいのは、幸せの裏返しなのだ、ということに気が付いて頂きたい。
そこで、ぼくはラジオで偉そうなことを語った自分へのご褒美のために、今夜は、世界一美味しいパスタを自分に作ってやることにしたのだった。
スーパーに行き、食材を物色した。
子供のために買い物をしていた頃を思い出しながら、同じような使命感を持って、ここからは、この少し老いた変なおじさんを育ててやろう、と思って、買い物をしたのだった。
子育てを通してふりかかる様々な苦悩は、時が経つと、いい思い出になる。
立派に育った息子の背中を送り出すたび、この子はぼくが育てあげた、という自信が胸をいっぱいにさせるのだった。
一方で、閉まったドアの内側に残された自分は、急に、孤独になる。
これからは、一人で生きる飯、を充実させることに注力しないといけない。
長い孤独な道のりだが、ぼくを支えてくれる人たちを悲しまさせないためにも、ぼくは元気に活動をしていかないとならない。
そのためには、自分介護のための食事作りが重要になる。
ということで、今日は、巨大なマッケローニ（ナポリのグラニャーノ）を買って、マグロとアーモンドのパスタを作って食べた。
足元に三四郎がいてくれるので、寂しくはない。フィッセルという小さなバゲットを千切って、さんちゃんに与えた。
「ありがとう。食べたら、散歩に行くからな、ちょっと待っていなさい」
しかし、美味しいパスタを頬張りながら、ぼくはこの十年を誇りに思うのだった。
息子に慕われ、愛されている。この１０年の日々の結果であった。
がんばれ、お母さん、お父さん！
無償の愛が幸せを運んできますよ。

つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
息子は月曜日から新しい大学の新学期がスタートするようです。昨日、学費を渡しました。お金はそれなりにかかるのですが、これも、幸せの根っこなのだな、と思って、父ちゃん頑張って生きていきますね。なので、皆さんも負けないで子育て頑張ってください。子供が巣立った後、自分を認めてあげてくださいまし。えいえいおー。

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