JINSEI STORIES
滞仏日記、2「青年たちを応援出来ることがぼくの生き甲斐」 Posted on 2020/02/02 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、今日は「西麻布パフェ」の試食会の後、もう一つ大事な用事があった。レストラン「ココノマ」の個室で第三回新世代賞の受賞記念パーティがあったのだ。新世代賞も第三回まで続けることができた。第一回の頃は、すべてが本当に手作りで、実はデザインストーリーズをやめるかどうか悩んでいた時期でもあった。私費の持ち出しが多すぎて、ああ、これは大変なことをはじめてしまったものだ、と悩んでいた。でも、第一回の受賞作品が決まり、受賞者の子たちと、知り合いの大学の小さな控室を借りてやった手作り授賞式、その時は全くお金がなくて、何もしてあげることが出来なかったけれど、手作りの賞状だけは渡すことが出来た。いい思い出になっている。でも、一回限りで終わったら、この子たちに申し訳ないと思って、頑張って、第二回は趣旨に賛同してくださる企業の方と出会えて、再び乗り切ることが出来た。その時は鎌倉で鎌倉の市民の方々にも囲まれ、受賞パーティもやれたのだ。そして第三回も必死に這いずり回って、これまたなんとかやり切ることが出来た。しかも、毎年、本当に素晴らしい才能に出会えている。
第二回目のグランプリの立花君は今、新世代賞の副賞を利用してパリ留学中である。第一回の中村君はロンドン留学後、破竹の勢いでアート界で頑張っている。こうやって、青年たちを応援出来ることがぼくの生き甲斐でもある。それは同時に、出来るかぎり、この賞を続けることでしかない。そして、第三回の新世代賞もグランプリから奨励賞まで5人の素晴らしい若者たちと出会えた。本当に素晴らしい子たちで、ぼくはホっとしている。今回の受賞パーティには関東近県にいる子たちが4人集まった。菱沼シェフが美味しい料理を出してくれた。もちろん、彼らにも「西麻布パフェ」を食べてもらった。青年たちが自分たちの未来に向かって希望を持っている姿くらい、ぼくを励ますものはない。暗いニュースばかりの2020年の幕開けだけれど、少なくともここに明るいニュースがあった。
そして、今回も手作りの賞状を用意させてもらった。審査員をやってくれた俵万智さん、島田成年さんと一緒に手渡すことが出来た。楽しい夜であった。第四回の新世代賞もなんとかスタートできそうなところまできた。それにしても、この世界は若い人たちの希望の中にこそある。そして彼らのこの笑顔がぼくをも励ます。いつまで続けられるのかわからないけれど、出来る限り続けていきたい。今月のバレンタインデー前後にこの子たちの作品をレストラン「ココノマ」のエントランスに飾らせてもらいたい。日程が決まったら、デザインストーリーズ編集部からご案内させていただく。あらゆるデザインの中には物語がある。だから、デザインストーリーズ。