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滞仏日記「フランスは武漢からの帰還者を隔離すると発表」 Posted on 2020/01/30 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、武漢からチャーター機で帰還した方々の、日本での対応とフランスの対応が分かれた。日本はご存じの通りだけど、フランスの軍用機で帰還する人々は全員隔離される。この記事を書いている現在、今、まさにフランスの軍用機は武漢に向けて飛び立とうとしている。
フランスはコロナウィルスが蔓延する武漢から帰還するフランス人に対し、2週間の隔離、”Quarentaine(キャランテンヌ)”を適用する。
キャランテンヌとは本来、約40という意味の数字を表す単語だが、同時に「検疫、隔離」のことを指す。
その語源は中世、14世紀に黒死病の患者を隔離したことに遡る。1377年にクロアチアのデュブロニックで、1423年にはイタリアのベネチアで感染地域からやってきた乗船員やちを隔離した。その期間が40日に定められたことから、「キャランテンヌ」がそのまま「検疫、隔離」という意味を持つようになった。ヨーロッパ最大の港であるマルセイユには感染地域からの乗船員を隔離する施設が備えられている。
大陸続きのフランスには、キャランテンヌと同時に、Cordon sanitaire(コルドン・サニテール)、「防疫線」という疫病発生地域への出入りを制御するための措置も有している。1721年には南フランスで約30kmに及ぶ「ペストの壁」が建設され、1821年には黄熱病の蔓延を防ぐため、30000人の兵士をスペイン国境に派遣したことがあった。
今回、武漢からの帰国者に適応されるキャランテンヌは14日間である。フランスの公衆衛生学の研究家は、保菌者が移動を制限されることは感染をストップさせるのに一番有効な手段であるが、そのためにもう一つ重要なことは、迅速な決断と実行だ。検疫は感染病に対する確実な武器となる、と語っていた。
武漢が現在厳しく封鎖されている以上、いったん、全員を隔離して様子をちゃんと見た方が、その方がウイルスの蔓延を抑えられるだけでなく、国内に戻って来られた方々が、その生活の場所で疑われたり嫌な思いをしなくて済むし、感染してないことが完全に分かった方がみなさん安心して暮らせるのじゃないかと思うのだけれど…。「ご苦労されて帰国された方々に思いやりを」、は当然のことだが、経過を見極めないで自宅に返すことが思いやりだとはぼくには思えない。日本の高度な医療技術できちんと検査をし、もし保菌されていた場合、すぐに治療を施すことが出来る。その方が帰国された家族もご本人も周辺で暮らす方々も安心できるのじゃないだろうか。武漢があれだけ大変な状態になっている映像を世界中が目撃しているのだから、むしろ、元の暮らしを取り戻すためにも一時的な検査隔離がもしもに供えるという意味でも必要な気がする。
日本以外の、オーストラリア、アメリカ、フランス、そして韓国も隔離を行うという。