JINSEI STORIES

滞日日記「どしゃぶりの東京で、聞き入っちゃいました、と素敵な女性に言われた」 Posted on 2023/08/10 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、爆睡したいと思って寝てみたら、マジで久しぶりに8時間も爆睡、信じられないことにぐっすり眠れた天然不眠症の父ちゃんなのであった。
すごいね。やっぱり、よく眠れると人間、一日が得した気分になる。すっきり!
ところがであーる。
いつも、5時に起きて、6時から近くの駐車場で歌の練習をやっている。
そこは周囲に民家がなく、歌い放題の大都会のブラックホールなのだが、残念なことに、7時半を過ぎると、工事業者がやって来て、歌えなくなる。
はい、ご名答。
今日は爆睡をしたので、7時に目が覚めて、ダッシュで駐車場に行ったのだけれど、7時45分に業者さんのワゴン車が入って来た。あちゃ~、
ちょうど、大声で「レイン」という曲を熱唱していたので、向こうも、「おる」と分かったからか、運転手さんと助手席のムッシュは、満面の笑みであった。
「すいません。そこに停めていいですかあ?」
とぼくが歌っているのに、大きな声で言うのだった。
めっちゃ広い駐車場でガラガラなのだけれど、ぼくの横に、車を停めた。たぶん、そこが業者さん専用のスペースなのかもしれない。
歌っているから、どうぞ、と言えないし、頷いたら、マジで、横に車をとめて、おりて、出て行った。
ちょうどメンバーにアレンジを指示するために、録音していたのだが、やりとりもしっかり録音されてしまった。あはは。

滞日日記「どしゃぶりの東京で、聞き入っちゃいました、と素敵な女性に言われた」



ま、いなくなったらからええやろと思って、歌い続けていると、にっかぼっかを履いている作業員のおじさんたち、満面の笑みで戻って来た。
その手には、サンドイッチ。
窓をあけた車の中で、朝食。おいおいおい。横を見ると、おじさんたち、笑顔でこっち見てなはる・・・。
その距離、マジで、2メートル。
だだっぴろい駐車場なのであーる。
歌えない~。
でも、その人たちだって、生きてるし、仕事なのだ。
しかも、二人とも、楽しそうに、ずっと笑みだし、ま、よかやん。
『出て行くはずだったぁ~♪ 思わぬ雨がひきとーめた。Oh
長引きそうな雨を、戸口に立って見上げていた~♪
降るだけ降って止んだ、あの日の雨を思い出した~♪
素直な雨が降る、止むのをじっと待ってみる~♪」
横みると、おじさんたち。目が合った~。ひゃあああ!
「心に、レイン、レイン、雨が降る~♪
出て行くことが出来ない~」
ダメだ、歌えない・・・。出て行くか~♪
練習をやめて、一度、ホテルの部屋に戻ることにした父ちゃん。
30分も歌えなかったので、不完全燃焼であった。あはは。
頭の中で、レインの歌詞が、鳴り響く。
今日は、雨なのだった。途中からザアザア降りになりましたねー。

滞日日記「どしゃぶりの東京で、聞き入っちゃいました、と素敵な女性に言われた」



で、11時から広島の映画会社の方々が「海峡の光」を映画化したいということで、やって来て、お話を聞いた。
ま、いろいろと映画について話し合いをして、分かれたのが12時。
雨が降っている。
ちょうどお昼時間なので、業者の人たちの出入りはもうないはず。
雨日なのであまり暑くない、よし、今だ、と、もう一度練習に出かけた父ちゃんであった。
「雨は時々降って、ぼくらの気持ち確かめるゥ。
虹がその後かかって、二人の明日を繋いでいる~♪
晴れている時には誰も、忘れているあの日々を~
思い出させておくれ、迷う気持ち鎮めてほしい♪」
この駐車場には、喫煙装置があって、なんか煙を吸い込むでかいマシーンのことね。ここに煙草を吸いに来る人がいる。
はい、ご名答。
「レイン、レイン、雨を待つ。
洗い流すために~♪」
小一時間練習をして、ギターを片付け、帰ろうとして振り返ったら、綺麗なお姉さんがタバコを吸って、ぼくをじっと見ていた。
その距離、5メートル。
「あ、うるさかったですか?」
なんとなく、目が合ったので、年上やし、一応、ロッケンローラー風にかっこつけて、言ってみたら、(指ぱっちん)
「いえ、あの、聞き入っちゃっていました」
という綺麗な声で、すごーいお返事。
右手に煙草をもって、・・・。わお。
もしかして、ずっと聞いていたのかもしれない。真後ろやし、気づかんやった。
恥ずかしいけれど、ま、悪い気はしない、嬉しがるオヤジなのであーる。ニタニタ。
にっかぼっかの工事人さんたちと対応がずいぶんと違うとやないかって???
そりゃあ、そうでしょ。ムッシュだもの。笑。
でも、明日から、昼食の時間に練習をしようと思った父ちゃんなのであーる。
人間味があるよね、るんるん。あはは。

滞日日記「どしゃぶりの東京で、聞き入っちゃいました、と素敵な女性に言われた」



夜、今度のツアーでご一緒するピアニストのドクター・キョンさんと、パーカッション&ドラムの山下あすかさんとご飯を一緒に食べたのだった。
要は決起集会。
キョンさんは伝説のロックバンド、ボ・ガンバスのメンバーだった。
ぼくが日本で一番気になっているピアニストなのだ。
ボ・ガンボス時代のホンキートンクピアノは凄かった。
こんなピアニストがいるのか、と思わせるマジで最高のおやじであーる。ほぼ同世代。
ということで、28歳のあすかさんは一人で食べ続け、キョンさんは語り続けていた。
24日の福岡国際会議場が、日本バンドの初ステージになるが、いやぁ、愉しみだ。
のどが鳴る鳴る法隆寺なのであった。

滞日日記「どしゃぶりの東京で、聞き入っちゃいました、と素敵な女性に言われた」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
はい、ということで、24日、ツアー初日の福岡公演に向けて、体調万全の父ちゃんなのでした。いい感じです。喫煙マシーンの彼女が、ぼくの心に雨の後の虹をかけてくれました。いえーい、詩人は言うことが違うなぁ。ほほほ。
さて、8月の13日、次の日曜日に開催されます、父ちゃんのオンライン小説教室、今年最後になりますが、ぜひ、ご参加ください。詳しくは下の地球カレッジのバナーをクリックしてみるとわかります。
それから、8月10日まで父ちゃん監督作「中洲のこども」ロングラン上映中です。
8月24日は、福岡国際会議場メインホールで、父ちゃんの日本追加公演が開催されますので、皆さん、遊びに来てください。
9月16日には、NHK・BSの「パリごはん、SP」が放映されます。
そして、10月23日、いよいよ、ロンドン、ケンブリッジ劇場でライブなんです。禁酒で頑張りたいと思います!
伊勢丹アートギャラリーでの初個展は来年、2月末です。てんこ盛りですねー。熱血。
適度のアルコールが健康にはいいって、主治医が言ってたもん。

辻󠄀仁成 アコースティック セレナーデ フロム パリ 2023
8/24(木)福岡国際会議場メインホール・チケット発売中です。
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https://w.pia.jp/t/tsujihitonari-k/



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