JINSEI STORIES
滞日日記「浦島太郎な父ちゃん、変貌を遂げた渋谷で思わず、タイムスリップ!!」 Posted on 2023/08/09 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、ライブ衣装がないので、昔よく買っていたとあるブティックに行くことにしたが、この灼熱東京なので、タクシーを呼ぶことにした。
ところが、インバウンドで外国人殺到のため、タクシーがつかまらない。そこで父ちゃんは「GO」というアプリをいれた。
初体験である。
ブティックの住所が定かではなかったが、渋谷の宮下公園そばにあったので、渋谷区宮下公園といれてみた。ところがであーる。
「お客さん、つきました」
「え? ここ、宮下公園じゃないですよ」
「えええ? 宮下公園ですが」
「だって、ルイヴィトンなんかがあって、ぜんぜん、違います」
「いや、お客さん、見てくださいよ。あそこ、ルイヴィトンの建物の後ろ、みやしたこうえん、って書いてますでしょ?」
「あああ、本当だ。じゃあ、そこ渋谷駅なんですか? いつからこんな世界に。20年前にはなかった世界です」
「お客さん、遠くからお越しなんですね?」
「ああ、ノルマン・・・・。ええと、海の向こうの、のるま村です」
「どこにあるんです?」
「遠くに。遥か彼方に。つまりぼくは20年ぶりに田舎からやって来たので、この辺がこんなに変貌を遂げただなんて。あ、じゃあ、この裏手、キャットストリートにピンクドラゴンがあったでしょ?」
「え? キャットストリート?」
「トンネル潜るとファイアー通りがありませんか?」
「ファイアー?」
「消防署があって、昔は、みんなそう呼んでたんですよ」
「ああ、消防署ならそこ曲がって右手にあったような・・・。お客さん、タイムマシーンでやって来た人みたいですね」
ということで親切な運転手さんに、いろいろと教わり、車を降りた父ちゃんの目の前に、おおお、クロコダイルがあった。
※ 実はこの近くにずっと住んでいたのだ。ぼくのバンドのメンバーはみんなこの辺にアパートを借りていたのであーる。大昔・・・。
クロコダイルはECHOESがデビュー前(1980年とか)に出演していたライブハウスなのだ。(オーナーは西さん)
キャットストリートと明治通りの交差点にあるのだ。
「あるじゃん。懐かしい。変わってないじゃん!」
ってことは、向こうが渋谷駅で、こっちが原宿方向になるのか・・・。
それにしても宮下公園がこんな立派に、ルイヴィトンまで出来てる。びっくりとん。
あんなにしみったれていた公園が、ここまでゴージャスになるということは、東京は元気だということなのか。
ぼくの視界の先に「ピンクドラゴン」があった。おお、あるじゃん、まだあった。
なんとなく、人の流れに流されるまま、父ちゃんは渋谷駅の方へと・・・。
りそな銀行の横に、かつてよく画材を買いに立ち寄っていた「ウエマツ」があったので、中に入ってみた。
ついでだから、見学をしておこう。わ、ここも変わらない~。
お店の女将さんのような人がやってきて、親切に対応してくださった。
「昔ね、よくここに通っていたんですよ。バンドやりながら、絵を描いてましてね」
「はー、そうですか。よくいらっしゃってくださいました」
「40年ぶりくらいです。ここ、昔からありましたよね?」
「ええ、戦時中に一度立ち退きがありましたけれど、90年、元気に続けています」
「90年! ごいす」
ということで、キャンバスと油絵具などを買って、古びた階段を出た。
すると、目の前に、バカでかいビルディングが聳えており(あまりに高すぎて気が付かなかったのだ)、ららら、見たことない世界が出現した。
「こ、これが今の渋谷なんだ」
ヒカリエかと思ったが、どうも違う。ああ、もう父ちゃんはついていけない。
あんにょんはせよ。しぇーしぇー。めるしー、さんくす。
世界中の言葉が飛び交っている。ここは新しい東京なのだ。でも、ウエマツもまだあったし、クロコダイルも、ピンクドラゴンもあったじゃないか。
宮下公園が異常にモダンになっていてびっくりしたが、時代は変わっても、宮下公園は宮下公園なのであった。
そりゃあ、年を取るなぁ、とつくづく思った父ちゃんだった。
ヒステリックグラマーに立ち寄り、若い店員さんにすすめられるまま、Tシャツを4枚買った。4公演あるので、一枚ずつ、変えて歌いたい。
アプリ「GO」にホテルの住所をいれたら、すぐにやって来た。
「すいません。お待たせしました。大丈夫でしたか?」
「いや、すぐに来てくれたから、驚いています。ぼくが暮らす国では呼んでもこんなすぐ来ませんよ」
「ああ、わたしの妹もね、実はアメリカにいるんです。お客さんも、アメリカでしょ?」
フランスと言いかけて、のるま村、と小さく言った父ちゃんであった。
「やっぱり、なんか髪型とか帽子とかアメリカっぽいなーと思いましたよ」
「はー」
「なんで、渡米を考えたんですか? うちの妹は美容師でしてね、向こうで彼氏が出来て結婚して戻って来なくなりました。英語も話せなかったんですよ。でも、今は二人のアメリカ人キッズのお母さんだ。あ、お客さんはペラペラだったんですか?」
「え~? いやあ、ぼくも喋ることが出来ませんでした」
「ほー、それなのに、アメリカで頑張っているんだ。凄い勇気ですよね」
「あ、あ、あの、ノルマン・・・。のるま村です」
「のるま村? 知らないですが、遠いんでしょうね?」
「めっちゃ遠いです。でも、久しぶりに日本に帰ったら、浦島太郎になっていて、渋谷駅前が凄いことになっていた。宮下公園が近未来映画みたいでぶったまげました」
「そうなんですよ。様変わりしましたね。東京もどんどん移り変わっています。でも、お客さんと出会えてよかった。元気になりました」
「そうですか? ぼく何もしゃべってないですよ(運転手さんがマシンガントーク!)」
「いいや、わかるんです。その風貌、ただものじゃない。帽子の下からはみ出した毛とか、マスクとか、かもしだしている。がんばってください。つじつねひささん」
弟の名前で登録したのだった。あはは。
「(つねひさとして)がんばります」
運転手さん、車を停めたら、走って来て、ドアをあけてくれた。
「またの御乗車、お待ちしておりますー」
ひゃあ、日本のタクシー、めっちゃ熱血やんか。
父ちゃんの方こそ、気分があった。
よし、GOGOGOで頑張らなくっちゃ!
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
タクシーに乗っただけで、こんないい気分になることが出来る日本、素晴らしいです。フランスだと運転手さん次第で、嫌な思いも結構するので、「GO」の回し者じゃないですが、このアプリ、よかった。二人の運転手さん、最高得点つけておきました。
はい、お知らせです。
8月の13日、次の日曜日に開催されます、父ちゃんのオンライン小説教室、今年最後になりますが、ぜひ、ご参加ください。詳しくは下の地球カレッジのバナーをクリックしてみるとわかります。
それから、8月10日まで父ちゃん監督作「中洲のこども」ロングラン上映中です。
8月24日は、福岡国際会議場メインホールで、父ちゃんの日本追加公演が開催されますので、皆さん、遊びに来てください。
9月16日には、NHK・BSの「パリごはん、SP」が放映されます。
そして、10月23日、いよいよ、ロンドン、ケンブリッジ劇場でライブなんです。禁酒で頑張りたいと思います!
伊勢丹アートギャラリーでの初個展は来年、2月末です。てんこ盛りですねー。熱血。
適度のアルコールが健康にはいいって、主治医が言ってたもん。
辻󠄀仁成 アコースティック セレナーデ フロム パリ 2023
8/24(木)福岡国際会議場メインホール・チケット発売中です。
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https://w.pia.jp/t/tsujihitonari-k/