JINSEI STORIES
滞仏日記「日本到着の父ちゃん、サバ塩定食でいきなりの日本満喫。夢がはちきれそう」 Posted on 2023/07/27 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、まず、ぼくが日本に到着して最初にやったことは、9月まで滞在する宿の巣作りなのであった。
いつも、日本長期間滞在時初日に必ずやることだけれど、必需品を買いにコンビニに行く。
これが、楽しい。
フランスに、コンビニはない。
いつでも思いたった時に買い物に行くことのできる、このコンビニ文化こそ、日本、だと言える。
荷ほどきをして、衣服などをクローゼットに仕舞い、宿のキッチン・水回りなどを確かめて、冷蔵庫の容量とか、何を買う必要があるかをチェックした。
炊飯器、湯沸かし器、電子レンジ、冷蔵庫、電気コンロ、一通り自炊が出来る環境が整っている。いいね。やっぱり、旅先でこその自炊だ。そこに醍醐味がある。
近くに大きなスーパーもあるので、日本の旬の食材を買って、これから京都劇場でのライブが終わる9月3日までは、毎日、料理をやりながら、日記にアップしていきたい。
ついでに、小説などを書くことになる。☜ついでかい!
コンビニはローソンとファミリーマートにご挨拶に行った。☜知らん店やけど。
まず、目に留まったのは甘いものコーナーであった。日本のコンビニのデザート類のレベルが実に高い。
こんな国はほかにない。
フランスの行きつけのスーパーでも、まあ、美味しいデザートが売ってはいるけれど、正直、日本の比ではない。
ぼくは、カスタード系生クリームの入ったプティシューをゲットした。
ひゃあ、うまかった。しみじみ、うまかった。
日本は危険なほど暑いと各方面から聞いていたけれど、到着したのが夕方だったせいもあるのだろう、普通であった。
暑い暑いと聞いていたわりには、ハワイのような感じで、とりあえず、そこまでの暑さ、感じなかった。
「日中を経験してから言った方がいいよ。危険なほど暑い日は朝からすでに倒れそうになる」
まず、ちょっと友人のシマちゃんをお茶に誘った。
あの東京拠点計画のシマちゃんである。
シマちゃんはぼくの数少ない友人で、喧嘩もするし、議論する。
でも、一緒に企む。
企みは、夢ということも出来るが、今は「東京拠点計画」なのである。
「ツジちゃんにはもっと日本から発信してもらいたい」
この一言がはじまりでスタートしたのが、東京拠点計画、であった。
彼は経営者なのだ。ぼくは表現者なのである。
シマちゃんの先祖はお米屋さんで、彼のビジネスは米を食べることからヒントを得ている。
そこがぼくと共通する部分で、ぼくは携帯の待ち受け画面を塩握りにしてある。
もう、ここで繋がっている。
米を炊き、一膳の飯を食べる。家族と食べる。そこに暮らしがある。人と繋がる。年寄りになると介護も必要になるだろう。旅をすると宿に泊まる。人生がそこにある。
シマちゃんの会社はこういうことに関係することを全部やっている。
最近流行りのIT企業とはまったく逆のことをやっている。米だけに日本酒も作っている。
先日、フランスで有名な蔵マスターという日本酒のコンテストでプラチナ賞をとった。
この蔵マスターやっている宮川さんは、ぼくのオランピア劇場のスポンサーもやってくれた。パリの友人、野本こと呑もちゃんの仲間の一人である。
シマちゃんと呑もちゃんを打ち上げで面会させるのが夢だったが、シマちゃんも無口だし、呑もちゃんは日本語が通じないので、この二人、挨拶だけで終わった。不発弾。
でも、宮川さんが主宰するフランスでもっとも権威のある日本酒賞の一つ「蔵マスター」で最高賞をシマちゃんが精魂込めて作っている「雨降り(アフリ)」が獲得したのだ。
審査員はフランスのソムリエたち100人、彼らは目隠しをして飲んで、最高の日本酒を選ぶ。
10年くらいかけて、宮川さんが地道に育ててきた賞で、今や日本を世界に届ける素晴らしい窓口になっている。(クリヨンホテルで毎年開催されている)
今回、飛行機が偶然一緒で、荷物コーナーで、ばったり。
荷物受取場のターンテーブルに立つカウボーイハットをかぶった変なおやじがいた、あはは、宮川氏だった。
「あれ、辻さん!」
世界は狭いのー。
なんか、友だちの少なかったぼくだけれど、気が付くと、似たような異業種の仲間が増えてきた。
同じ年齢でガッツある連中とこうやって、残りの人生を駆け抜ける、わいわいやるのは実に楽しい。☜寂しくなーい。
今まで、ずっと一人で子育てをしてきたので、ここからは仲間たちと夢を育てたい。
「シマちゃん、どうなの? キッチンスタジオ、工事始まった?」
「うん。三日の午後に、一度、内見してもらいたい」
「いいね。愉しみだな」
「うん、なかなかいいよ」
この日記で、お話してきた夢がここに結実しようとしている。
今回は日本でライブをやることがメインの仕事ではあるが、もう一つ、このキッチン&ミュージアムを完成させないとならない。
「ツジちゃんが、ロンドンでライブやった後、お披露目かな」
「いいね、最初はシマちゃんの友人を前にぼくが料理をするの、どう?」
「え、いいな。いいの? それがいいな」
「宣伝とか、どうするの?」
「なんかね、あんまりやらないで、じわじわというのがいいかもね。ぼくは焦りたくないんだ。流行りにしたくないし、大切にしたい」
こういう人なのである。
設計に口出しをし、ペンキの色にこだわり、家具もすべて選んだ。ぼくの描いた絵や写真が飾られ、昔のギター(ECHOES時代の)も壁にかかり、小説の生原稿なども閲覧出来て、父ちゃんが料理する料理をコの字型のノルマンディのアパルトマンのキッチンをベースにしたカウンターテーブルに座って、食べてもらう。
父ちゃんが作る料理がそもそも「アート」なのだ。
米を使う。ようは、父ちゃんとシマちゃんは米人(こめびと)なのである。
ということで、ぼくはサバ塩焼きの定食を食べたのであった。
ひゃあ、うまかった!!!
日本のお米はマジで、美味しい。
よーし、熱血で行くぞ。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
いや、昨日の夜に日記を書こうと思ったのだけど、飛行機で眠れなかったので、宿で爆睡をし、日本時間の朝、6時に目が覚めて、慌てて日記を書いている父ちゃんなのでした。
えへへ。でも、すでに時差がないって、凄いよね、この年齢で順応性が・・・。
自分を盛り上げる天才が、朝から、勝手なことをぬかしております。すいません。
ということで、時系列的に言うと、8月13日に、今年最後の小説教室をやります。詳しくは下の地球カレッジのバナーをクリックしてください。
8月24日、まだ席があります、福岡国際会議場にてライブをやります。ここが皮切りで、29日名古屋、30日東京、9月3日京都と久しぶりのツアーを敢行します。(福岡以外の会場はソールドアウト)アコースティック世界を構築しました。多分、今までで一番じわっとくるライブです。
パリの空気を持ち込んで、歌いますよ。いよいよ会えますねー。