JINSEI STORIES

滞仏日記「寛いでいたら、文学賞落選の知らせが舞い込み、あららな父ちゃん」 Posted on 2023/07/25 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、とくに何もない日だったが、落選の通知が来た。
知り合いとイタリアン・レストランで食事をしていると、三四郎と同じ目をした大きな犬が、ぼくの横から離れなくなって、飼い主がどこにいるのかわからないのだけれど、この子の考えていることはだいたい、わかっておるのじゃ。☜犬と子供にはマジで、愛される。大人の人間には滅多に愛されないオヤジ。
なので、手を舐めさせて、顎をくすぐって、ちょっと犬語で会話をしたのだった。
「君にあげるものはないよ。ママはどこ?」
「くゥーん」
おお、さんちゃんみたいだ。可愛いなぁ。
で、その直後に、落選の知らせが舞い込んだ。

滞仏日記「寛いでいたら、文学賞落選の知らせが舞い込み、あららな父ちゃん」



拙著「エッグマン」(朝日新聞刊)がイタリアのぜんぜん知らない文学賞の候補になっていたのは小耳に挟んでいたのだけれど、不意に、イタリアの偉い方から「いつかお会い出来ますように」という気の利いた落選メールが届いたのだった。
不意に候補になって、不意に落選という知らせだったので、ま、とくに期待もしていなかったし、誰にも言ってなかったので、恥をかかずにすんだった。あはは。☜ 言うてるやんか!!! 
イタリアでは現在、「アンチノイズ」という作品の翻訳が進んでいるので、いい形で船出してもらえたら、それにこしたことはないね。人生、山あり谷あり。
作品はつねに、読者の手の中から手の中へと、静かに静かに打ち寄せる波のごとくに渡っていくもの・・・。
実は、シラクサの本屋さんで「エッグマン」を探したのだけれど、なかった。
「何か、お探しですか?」
と聞かれ、
「いいえ」
と言って逃げかえった可愛い父ちゃんなのだった。
イタリアの読者に、もう少し、届くといいね。ボンジョルノ。

滞仏日記「寛いでいたら、文学賞落選の知らせが舞い込み、あららな父ちゃん」



こういう風に、つまり「落選」もあったが、ぼくを取り巻く世界で、ぼくが作った物語が少しずつ、いろいろなところへと、ちょこまか、ちょこまか、出歩いている。
英語圏の話もあるし、アジアでも動きがあって、でも全部がいい話がかりじゃなく、「ダメでした」という知らせが圧倒的に多いのも事実で、(苦労しているんです)しかし、ぼくはあまり一喜一憂しないようにしている。
人生は長いのだ。いいことを探して進んで行こう。
とくに日記には書かないようにしてきたのだけれど、三四郎や十斗との日々の裏側で、コンサートのような派手な活動の裏側で、ぼくが紡いだ活字たちも実は、ゆっくりとではあるけれど、いろいろな海を渡って頑張っているのであーる。
オランピア劇場は大成功だったので、大いに言いふらしているけれど、その陰で、落選とか失敗とか絶望とかもいっぱいあって、そういうのはだんまりを決め込んでいる。
というのも、父ちゃんには前進しか似合わないからであーる。
音楽は速度が速いので、皆さんと共有する時間にあまりずれがないのだけれど、こと活字の世界はほんとうにゆっくり、ゆっくりと動いている。
前にちょっと触れた耳で聞く小説、というのも、ぼくが自分で自著朗読という画期的なことをやったのだけど、ビット数がずれていたり、問題が山積で、電子書籍みたいにぴゅっと世に出ない。
もうすぐだとは思うのだけど、いつだろうね・・・いつだぁ~。
しかし、忘れた頃に、何か知らせが届く、というのが世の常だったりする。
今日は落選の通知のあと、英語圏からもニュースがあった。ぼくの小説の売り込み資料が完成したという知らせ。
あはは、売り込み資料だ。半年ほどかかっている。すごいエネルギーだよなぁ、それだけで一つの作品のようであった。☜ ちょっと感動しました。
この件、すっかり忘れていたけれど、いいレポートであった。
秋以降、何か、動きがあるのかもしれないなぁ、とわくわくしている可愛い父ちゃんなのであった。
人間、どんな時も、チャーミングが大事だ。ギスギスしても始まらない。
期待し過ぎず、奢らず、実るほど頭が下がる稲穂かな、で行こうね。

滞仏日記「寛いでいたら、文学賞落選の知らせが舞い込み、あららな父ちゃん」



滞仏日記「寛いでいたら、文学賞落選の知らせが舞い込み、あららな父ちゃん」

人生はつづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
ということで作家の父ちゃんここにあり。父ちゃんが講師になっておおくりする「小説教室」ですが、課題もありますけれど(別に提出しないでもぜんぜん大丈夫)、エッセイ教室と同じで、今年最後なので、総括的な、お話をしたいと思います。出来れば、朗読などもやりますね。8月13日になりますので、ご興味ある皆さん、小説を一生に一度書いてみたいと思われるそこのあなたに最適です。
詳しくは下の地球カレッジのバナーをクリックしてみてください。
そして、ライブのお知らせは、現在、まだ買えるチケットは、福岡国際会議場メインホールの8月24日と、ロンドンの10月23日になります。

地球カレッジ

滞仏日記「寛いでいたら、文学賞落選の知らせが舞い込み、あららな父ちゃん」



自分流×帝京大学