JINSEI STORIES
退屈日記「三四郎と生き別れるような寂しさの中でパッキングを少しずつ開始」 Posted on 2023/07/19 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、一人、夏のこの時期、知り合いもみんなバカンスでパリには不在、まさに、ロンリーサマー、食べることにまるで気持ちが向かわないのである。
もうすぐ、日本だし、三四郎と離れ離れになる。
今度は一番長いかもしれない。
9月3日の京都劇場が終わるまで、ぼくは日本にいなければならない。
その間、三四郎はドッグトレーナーのジュリアちゃんの家(犬合宿)からの、椅子修復士のマントふみこさんの家へと、渡り歩くことになっている。
犬の一日は人間の一週間と訊いたことがあるので、三四郎の時間を人間時間に置き換えると「半年」間もぼくは三四郎から離れることになる。びえーん。
長谷っちもいないし、もっとも犬使いのマントさんがいてくれるので、有難いのだけれど・・・しかし、ひゃあ、辛い。
この子は、世界で一番ぼくを必要としている生き物なのに・・・。
しかし、父ちゃんには、待ってくださっている音楽ファンの人たちの前で歌うという大使命もあり、身体は一つ・・・。
ともかく、今は残された時間を三四郎のために費やしているので、片時も離れず、ぴったり寄り添っておる父ちゃんなのであった。
はい。
ということで、残された時間を三四郎メインで生活する父ちゃんなのだけれど、もうすぐ離れ離れになるのが、わかるのか、・・・三四郎はますますぼくから離れない。
もう、ストーカーを通り越して、たなびく影のようになっている。
足元を見ると、いる。トイレも、お風呂も、料理をしている時も、あらゆる時間、三四郎が、何を警戒してか、ビタッと寄り添っている。
やはり、感がいい。
いなくなるのが、わかるのだ。
ちょっと離れると、扉の向こうで、ふんふん、泣いている。
「トイレだから」
「ふんふん」
今日は、美味しそうなミニトマトを見つけたので、ブラータチーズを買って、カプレーゼ風のサラダを作った。
美味しいのだけれど、足元でぼくを見つめる三四郎と目があうので、食べものが喉を通らない。生き物を飼うのは本当に大変である。
今は、アコースティックライブ前なので、朝から晩まで許される限り、ギターや歌の練習をしている。そのギターのヘッドの下に寝そべる三四郎。
こんなにぼくの歌を聴いている生き物が他にいるだろうか???
こいつがいなくなると寂しいだろうなぁ、と思った。
ミニチュアダックスの寿命は15年くらいと訊いたことがある。すでに2年生きているので、あと13年くらいか・・・。
三四郎が死んだら、寂しくなる。それを分かって、生き物を飼うのだから、嫌になっちゃうのだ。
面倒をみたり、世話をするのが好きな父ちゃんだけれど、離れ離れは寂しい。
あと、10年、彼が動き回れる間に、ぼくも動き回れる間に、一緒に旅をしようね。
息子から「無事に羽田空港に着いた」と連絡があった。
これから暫く、彼は仲間たちと合流し、日本や韓国を旅するのだ、という。
これだけは気を付けろ、といういくつかの注意事項を送っておいた。
家族を想うと心配しかないのはなぜだろう。
自分のことは特に誰も心配してくれるわけでもないのだが、そんなの、別にいいんだけれど、へっちゃらだけれど、別に心配ご無用なんだけれどね、えへへ、いらないよーだ、しかし、ぼくは家族を想うと心配で眠れなくなる。
父ちゃんはやっぱり、父ちゃんなのであった。
さて、三四郎を散歩に連れて行く時間になった。
今日は、ちょっと遠くの公園まで足をのばしてみよう。走り回れる広いグラウンドがあるのだ。
人生は儚い。
でも、大切に持って生きていきたい。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
洗濯をして、食洗器を回し、掃除をして、片付けをやり、トランクに9月までの衣類とかステージ衣装とか詰め込んで、少しずつ長旅の準備をしているところ。今回の日本滞在、メインはライブですけれど、東京拠点計画が大詰めで、すでにキッチン・ミュージアムの工事も始まっており、そちらにも顔をだし、出版関係とか、そのほか、いろいろと打ち合わせもあって、日本滞在中は滞在中で、休みもない感じなのです。今は、体調を整えて、日々、筋トレ、がんばっていまーす。
はい、ということで、ライブのお知らせです。
名古屋、東京、京都公演は売り切れました。福岡国際会議場メインホールでの追加公演ですが、22日に一般発売開始です。
それから、今年最後の「小説教室」が、8月13日に開催されます。詳しくは下の地球カレッジバナーをクリックくださいね。