JINSEI STORIES
子育て日記「息子は自炊の日々。ぼくは思い出す。息子に食事を作って貰った日のこと」 Posted on 2023/06/26 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、ローマの休日である。
ローマ中心地ではないけれど、まあ、ローマである
休暇中なのだけれど、日本での公演のことが気になって、今日は福岡国際会議場メインホールで行われるライブのセトリを考えたり、6月30日から公開になる映画「中洲のこども」のプロデューサーさんからのメールを読んだり、福岡案件ばかりだけれど、ローマで福岡のことを考えている、という休めない男なのであった。
カフェに座って、朝コーヒーを飲んでいると、お父さんとおぼしきセニョールと、その息子らしい青年がぼくの前の席でコーヒーを飲んでいた。
お父さんが財布から20ユーロ札を取り出し、テーブルの下で、息子らしき人物に手渡した。
お小遣いかな、と思った。
そこはカフェというよりもスタンドって感じのコーヒーショップだった。
給仕さんが、サンドイッチのようなものが入った袋を持ってきて、青年に渡した。父やと二言三言やりとりがあり、彼はたちゃがると、学校へ行くのかな、歩き出した。その後ろ姿を目で追う、父親らしき人物。
その人と昔の自分が重なった。
ぼくは息子のことを考えた。
息子からはしょっちゅう、料理の写真が送られてくる。
自立し、大学の近くのアパルトマンで一人暮らしをはじめた息子から、自分が毎日作っている料理の写真が送られてくる。
これが、実にバリエーションに富んでいるのだ。
実に美味そうじゃないか。
ぼくはローマの噴水のある公園のカフェテラスで、息子から送られてきた自慢料理の数々の写真を眺めるのだった。
彼が高校生の時、ぼくはちょっと病気になって、寝込んでいた時期があった。ぼくだって人間だから、病気にもなる。
すると、学校から戻って来た息子が寝室に顔を出し、
「あれ、まだ調子悪いの? じゃあ、なんか作ろうか」
と言ったのだった。
「寝てなよ。ぼく、なんか作るから、一人分も二人分もそんなに変わらないから、なんか作って置いとくよ。起きたら食べりゃいいよ」
と言った。これは忘れらない瞬間だった。涙が出そうになったことを覚えている。
この、一人分も二人分もそんなに変わらないから、というのはぼくの口癖だった。
夜食を作る時に、よく、そう言っていたのだ。
思えば、シングルファザーになってから、ぼくは完璧な父親を目指して頑張り過ぎていた。
でも、おかしな話だけれど、ぼくが不調になると息子が頑張る。
つまり、ぼくが完璧過ぎた結果、彼の自立を妨げていたのかもしれないのだ。
それはありえる。
息子はぼくの料理する姿をずっと見てきた。
蛙の子は蛙。
彼は自然と料理というものを体現していたのだった。
息子が料理を覚えてくれたら、その分、ぼくは自由になる、とその時に思った。
息子が再び、学校に戻ったので、起き上がり、食堂を覗いた。
すると、テーブルの上に弁当箱が置かれてあった。
恐る恐る開けてみると、なんと、手作りの料理が詰められていた。
見栄えはかなり悪いけれど、でも、間違いなく、息子が生まれてはじめて作ったお弁当であった。
あれはマジで、嬉しかった。
今度は、マジで、目元が湿った。
あいつが小学校高学年の時、ぼくは毎日、息子のために弁当を拵えた。
弁当作家と皮肉を込めて名乗っていた。
それは中学の二年生の秋ごろまで続いた。
その時の弁当箱が使われていた。日本橋の高島屋で買ったものだ。
ソーセージ、卵焼きが二つ、それから、めっちゃ形の悪い、ふりかけのゆかりで作った、おにぎりが、二つ、詰められてあった。
あはは、でも、美味しかったよ。サンクス。
人生、報われた気持ちになった。
大学生になった息子は、毎日、自炊をしている。
彼は、外食はしない、とはっきりと言った。
外で食べるよりも家で自分で作って食べる方が美味しいから、それに体にいいしね・・・・。
人生はつづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
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めるしーぼく。
そして、福岡追加公演のお知らせです。
辻󠄀仁成 アコースティック セレナーデ フロム パリ 2023
8/24(木)福岡国際会議場メインホール
一般発売日:7/22(土)
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6/22(木)18:00~7/02(日)23:59(抽選)チケットぴあ。
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