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退屈日記「なんでもっと真剣に小説を書かないの?と叱られ目が覚めた熱血作家」 Posted on 2023/06/21 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、フランスの編集者、アンヌさんに「あなたは2011年からフランスで本を出していませんね。それは本当に怠けすぎです。なんでもっと真剣に小説を書かないの?音楽なんかやってる場合ですか」とやんわりと怒られてしまった。
もっともであった。やんわりと言われる方が辛いこともある。
その出版社さんはぼくの新作に関心があるというので、会いに行ったのだが、ぼくが小説に向かってないのがバレバレで、しこたま叱られてしまったのであーる。
「いつ出ますか?」
「それがなかなか進まないんです」
「ダメですよ。小説を書かないと。新作にしか興味がありません」
おお、これはキツイ一撃であった。
「白仏は素晴らしい小説でした。そういうものを待っています」
その出版社から、俯いて出ることになった父ちゃん。力が入らなーい。
オランピアのライブは成功をしたが、このままでは小説家として終わりになりそうだ。音楽活動ばかりやってるわけにはいかない。
さあ、困った。
連載していた「動かぬ時の扉」は時間の許す限り、永遠に書き続けたい作品で、出版の意思がぼくにないのである。そうか~、そりゃあ、困った。
不意に、書かないとならなくなった。やっぱり、崖っぷちだぁ~。

退屈日記「なんでもっと真剣に小説を書かないの?と叱られ目が覚めた熱血作家」

※ フランスの出版社はこんな感じなのだ。本に囲まれ、静かな時間が流れていました。

退屈日記「なんでもっと真剣に小説を書かないの?と叱られ目が覚めた熱血作家」



とぼとぼと歩いた。
よし、今年の作家としての目標はとにかく、新作小説を世に出すことにしよう。
これ以上、怠けていると、見放されてしまう。きっと、日本にも、世界にも、ぼくの新作小説を待ってくれている人がいるはずだ・・・たぶん・・・いる。
その読者さんに向かって、自分の今の代表作になるようなものを届けよう。それは作家としてのぼくの使命なのだ。
ぼくはモンパルナスを歩きながら、決意したのだった。
よし、書くぞ。すると、不思議な活力がわいてきた。
おお、青い色の熱血であーる。☜マジか・・・。
こんな静々とした熱血もあったんだなぁ。
気が付くと、モンパルナスの裏路地の、見覚えのある懐かしい店の前に立っていた。
「鳥兆」という店だった。
昔、十斗が小さかった頃、よく寿司を食べに来た。十年ぶりくらいか・・・。
「どうも」
カウンターの中で寿司を握る大将が顔を上げ、おや、珍しい、と言った。
時間が巻き戻されていくような感覚を覚えた。

退屈日記「なんでもっと真剣に小説を書かないの?と叱られ目が覚めた熱血作家」

退屈日記「なんでもっと真剣に小説を書かないの?と叱られ目が覚めた熱血作家」



ぼくは鳥兆のちらし寿司をつまみながら、アサヒビールを飲んだ。
「十斗君、元気ですか?」
新作小説のことを考えていると、大将の声が届いた。
「ええ、大学生です」
「えええっ!!! そうか、うかつだった」
十斗の今をお伝えした。この店に息子と最後に来た時、十斗はまだ小学生だった。
驚くのも無理はない。離婚の直後のことだった。
時間は流れていく。
「辻さん、あれ、食べないんですか?」
「あれ?」
「ニラ豚焼きですよ」
「ああ、あれか、食べます。食べたい!」
ぼくがここに通っていた時代、毎回、必ず注文をしていた焼き鳥であった。
豚バラで巻いたニラの焼き鳥・・・。
博多の焼き鳥は豚なのだ。懐かしい。
ビールが進んだ。
お勘定をして店を出た。大将、ありがとう。
昔、住んでいた界隈を歩いた。
さて、どんな小説を書くことになるのだろう。
駅前に立ち、ぼくは聳えるモンパルナスタワーを見上げながら、書かなければならない、と自分にはっぱをかけたのであーる。
青色の熱血~。

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人生はつづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
ということで、懐かしい築地で食べるような寿司でお腹がいっぱいになって、そこからまた、歩いてパリを横断し、頭が少し、小説家へと戻って来た、ところなのであります。人はやはり、誰かに気づかされるものなのですね。アンヌと仕事が出来るか、わかりませんが、背中を押されたのは事実です。まだ間に合うはず。ここから不死鳥が蘇ります。
さて、そんな不死鳥父ちゃん講師がお送りする、エッセイ教室が7月16日に開催されますよ。課題もあります。まだ、間に合います。ふるってご参加ください。詳しくは下の地球カレッジのバナーをクリックしてくださいませ。めるしー。

地球カレッジ

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