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滞仏日記「本当は誰にも教えたくなった、父ちゃんの幸せになるための簡単な方法」 Posted on 2023/06/13 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、「本当は誰にも教えたくなかった」
というリールの動画の前説を聞いて、思わず偏屈な父ちゃん、
「ならば、教えなければいいんじゃないですか? 聞きたくないし」
とつぶやいていた。☜いやーなおやじだ。
視線を感じたので、携帯をおろしたら、目の前のソファに三四郎が座っていて、こっちを大丈夫か、という顔で見ていた。慌ててリールを消した。
「あ、すまん。独り言やけん」
と言い訳をして、今日もはじまったのであーる。めでたい。
だいたい、一日というのは「今日は何をたべるかな」で悩んで始まり「明日は何を食べようかな」で終わるのだが、これこそが「幸せ」というものなのであーる。
「こういう喜びを見失いがちなのが現代人なんだ」とぶつぶつ呟きながら、三四郎と散歩に出た、相変わらず偏屈な父ちゃんなのであーる。
いつものカフェのテラス席に陣取り、いつものカフェオレを注文し、道行く人々を眺めながら、さーてさて、何を食べようかな、と悩みながらも、とっても楽しい。
冷蔵庫の中のものを思い出しながら、微笑んでいるのだった。☜ 相変わらずの変人。

滞仏日記「本当は誰にも教えたくなった、父ちゃんの幸せになるための簡単な方法」

※ こんな色のパンツをはけるオヤジなのだ。あはは。
しかも、買ったバゲットを歩きながら齧ることのできるオヤジだ。いいでしょー。自由で。



ESSEという主婦雑誌の「父ちゃんは毎日何食べてるの??」という連載(先月号)が全25記事のランキングで2位になった、という知らせが舞い込んだ。
ほら、やっぱり、何を食べるかは気になるんじゃーん、とほくそ笑む父ちゃん。
幸せだー。こういういいことはもっと知りたい。
dancyuの植野編集長とのZOOM会議でも、何か美味しいことをもっとやろうということになったばかりだった。
お笑いコンビ「だんちゅーでござる」結成イベントを計画中で、美味しいもので世界を笑いに包もう計画を練っている。
戦争なんかやめて、美味しいもので愛し合おう、というのが我らのモットーなのだ。
ちなみに、ダンチューのサラダ連載も毎回ベスト5に入るようだ。これが、一位じゃないところが、ナチュラルで微笑ましい。☜けっして負け惜しみではありません。
「植野さん、夏に、美味しいイベントやりましょう」
「辻さん、マジで、やりましょう」
ぼくらオヤジが本気出せば、世界は平和になるのだ、と誓い合ったのであった。めでたい。
で、問題は今日のごはん、であーる。

滞仏日記「本当は誰にも教えたくなった、父ちゃんの幸せになるための簡単な方法」

※ 会議というか、いつもこんな顔で、ふざけあっている仲良しおやじの会なのだった、で、ござるー。楽しい人生じゃ。



昨日、チーズ屋の久田さんのところで、近所の方が水菜を栽培している、ということで、パリのど真ん中で作られた水菜をプレゼントされたのだった。
フランスにも数年前から水菜は登場しているが、土壌が違い過ぎて、京都の水菜のような繊細さはゼロ。
どれもごわごわの野性的な水菜ばっかりで、これは水菜じゃない、と父ちゃん的には受け入れがたかったが、この久田さん経由で頂いた水菜は、日本の水菜に負けないほど上品な出来栄えであった。
これで、パリ市内産なの??? すげー。
その水菜を食べたいと思うと、頭の中がもう水菜でいっぱいになってしまったのである。
これこそが、幸福、だ!

滞仏日記「本当は誰にも教えたくなった、父ちゃんの幸せになるための簡単な方法」



そういえば、頂き物のしらすの缶詰めがあったなぁ。
そういえば、頂き物の梅があったじゃないか。
そういえば、冷凍庫に納豆があったっけ。
ふふふ、頭の中で、イメージが次々出来上がっていく、この「何を食べるのか」プロジェクトは人生において、マジで、幸福になるための、真に重要なプロセスなのであった。
ちょっと堅苦しい話になるが、人間は一度しかない人生を生きているので、日々、幸せだ、と感じることが生き甲斐に繋がって、その人を豊にすることは間違いがない。
もちろん、ライブや旅行というのは楽しい目的地になるが、そういう先の楽しみに向かうことの幸せの中にありながらも、より人生を充実させることが、大事。
ランチとディナーが最高だったら、今日はより最高になり、心地よく眠れると、明日の活力に繋がるのであーる。
ということで、父ちゃんはしらす水菜梅納豆がけパスタを作ったのであーる。
どうじゃ、これが幸せじゃなくて、何を幸せというのじゃああ。
さんちゃんは、父ちゃんのこの力説を朝から晩まで聞かされている可哀想なわんこなのであった。
あはは、すまん。

滞仏日記「本当は誰にも教えたくなった、父ちゃんの幸せになるための簡単な方法」

滞仏日記「本当は誰にも教えたくなった、父ちゃんの幸せになるための簡単な方法」

滞仏日記「本当は誰にも教えたくなった、父ちゃんの幸せになるための簡単な方法」



ちょっと唐辛子系のスパイスとか七味とかごま油とかかけると幸福度が増すのだった。
「ほんとうは誰にも教えたくない」なんてことは父ちゃんにはない、教えたい。
まさに、これが幸せなのである。
別に、宝くじなんかにあたらなくてもいい。必ずできる範囲の中に、それなりの幸せがあって、それを無視しないで気づいてあげることが幸福へ向かう大事なプロセスなのだった。
ということで、ああ、うまかった。
ごちそうさまでした。

滞仏日記「本当は誰にも教えたくなった、父ちゃんの幸せになるための簡単な方法」



人生はつづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
なので、買い物も毎日、ちょっとずつ、ちょっとずつ、愉しみながらやっているので、買い物+料理+片付けがセットなのです。幸福のループということになりますね。
はい、そんな幸せ父ちゃんが案内する、サンジェルマン・デ・プレ界隈を散策するオンライン・ツアーが迫ってきましたよ。6月18日です。
あと、7月16日、エッセイ教室、8月13日、小説教室がありますので、こちらもよろしくねー。めるしー。

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