JINSEI STORIES
滞仏日記「まるでトムとジェリーみたいな父ちゃんとさんちゃんの日々の追いかけっこ」 Posted on 2023/06/12 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、デストロイヤー(破壊者)三四郎には困ったものであーる。
ちょっと甘やかすと、ご覧の通り、いたずらだらけなのだっ。
しかし、本人、まったーく、悪気がない。
父ちゃんのところに、破壊したぬいぐるみをくわえてやって来て、
「パパしゃん、見て見て、こんなに破壊をしたんだよ~」
と自慢するので、ほー、と覗き込んだら、その中に、大事にしていたシャネルの眼鏡ケースが紛れ込んでいた。
おーまいがっ、ぐちゃぐちゃになっておるじゃないか、さんちゃん!
「さんしー、これはダメじゃないか」
と怒ったら、一瞬、上目遣いで、ぼくをみると、後ずさりをして、消えた。
何がよくてダメかをきちんと教育しないとならないので追いかけて、ケースを鼻先に突き付けるも、無表情になって、視線は再来年の方向へ、・・・いつものパターンなのだ。
やれやれ。
噛み癖は治ったかな、と思う頃に炸裂し、けっこう高価なものがぶっ壊される。
今日は、仕事をしていると、がさがさ、という音が廊下の方から聞こえてきた。
日曜日で事務所には誰もいないはずだ、と思って覗きに行ってみると、
あああ、三四郎が、和棚の上に上って、高価な陶芸の壺を破壊しようとしているじゃあ、あーりませんかぁ。
「こら!!! 三四郎~」
驚いた三四郎は棚から飛び降り、一目散に逃げだした!
でも、頼もしい時もあるのだ。
昨日、うちのテラスに工事人の人がハシゴを使って登って来た。
それを見つけた三四郎、開いた窓に向かって、わんわん、と吠えだしたのであーる。
「三四郎、その人は敵じゃない。大丈夫だから、もう、吠えないで」
工事人の人に、そーりー、とあやまり、慌てて窓をしめた。
けれども、火が付いた、番犬魂炸裂の三四郎君、なかなか吠えるのをやめないのであーる。
「わんわんわんわんわんわんわんわんわおおおおーん」
宥めるのに一苦労な父ちゃんだったが、ま、これは頼もしかった。
三四郎一人でお留守の時もあるので、この調子なら、泥棒はまず、入れない、かな。
しかし、問題は噛み癖なのであーる。
ということで、高価なバッグを床に置いていた飼い主のぼくも悪い。
三四郎にとっては眼鏡ケースもぬいぐるみも区別がつかなかった。
彼にとっては、どちらも、獲物に過ぎなかったのだ。
※ 上の写真、・・・
めっちゃ暑かったので、三四郎、このポーズで寝ていました。あんた、顎とかきつくないんかい? でも、涼しいのかな、この方が・・・。あはは。
フランスは猛暑が続いていますー。
下の写真は、赤ちゃんの時に使っていた藁のベッド。小さかろう、と言うても、ここがいいと言い張るさんちゃん。二枚とも、田舎暮らしの写真です。
午後、ぼくは日本公演の練習をやった。
セットリストがだいたい揃ったので、そのアレンジなどをはじめたのだった。
すると、怪しい行動をとる男がいた。
廊下の先の方を、すたすた、と歩いていく盗賊・三四郎。
ん? なにしてるのかな?
ぼくはギターを弾くふりをしながら、忍び足で、廊下まで出てみた。
さんちゃん、餌が隠してある本棚に、なんと、よじ登ろうとしていたのであーる。
足が、めっちゃ短いくせに。
ギターをやめて、じっと睨んだ。
背後の父ちゃんに気が付き、慌てて振り返る三四郎・・・。
「ありゃ」
という顔をした。
「さんちゃーん、何をしているんだね」
「ありゃりゃ」
という顔をすると、すたすたと、サロンに逃げだした。
「三四郎!」
ぼくは追いかけた。ここはきちんと怒ってやらないと、癖になる。
逃げるさんちゃん。
追いかける父ちゃん。
これがぼくらの毎日なのであーる。トムとジェリーみたいな・・・。あはは。
三四郎は、窓からテラスへ出ていった。
ぼくは立ち止まり、やれやれ、という顔をしていると、窓と窓の間から尖った顔がすっと出てきて、まだ、いるかな、と様子を見る・・・。
目が合うと、逸らした三四郎。
ま、ここで微笑んではいけないのだけれど、とっても愛おしい生き物なのである。
ま、しょうがない。
怒ってばかりだといけないので、おやつの鶏ささみを一つ、あげたのだった。元も子もない、甘やかしの父ちゃんなのだった。
えへへ。
人生はつづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
日本公演の最速先行チケット、締め切りました。たくさんのご応募があり、数日かけて、チケットぴあさんが精査すると思います。詳しくは、2,3日、お待ちください。中原しゃんからの連絡を待って、ご報告しますね。
ということで、地球カレッジ、オンライン・ツアーのお知らせです。6月18日、サンジェルマン・デ・プレ界隈を散策するオンライン・ツアーをやります。セーヌ川河岸あたりから、サンジェルマンデプレ、オデオンあたりまで散策する予定ですので、どうぞ、ご興味ある皆さん、初夏のパリを父ちゃんと一緒に散策しましょう。詳しくは下の地球カレッジのバナーをクリックしてみてねー。めるしー。