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滞仏日記「フランスのレストランでとっちゃん坊や風父ちゃんがバカにされない理由」 Posted on 2023/06/09 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、父ちゃんみたいな小柄なジャパニーズ、しかも漫画顔で、さらにロン毛で、とっちゃん坊や風、その上、威厳も風格もぜんぜんない日本人が、フランス社会で舐められないために、どうしているのか、しりたくないかなぁ、と思って、その秘訣を今日はお話したい。
(え? いらんって、そんな、奥様、そんな殺生なこと言わないで、お付き合いください)
要は、日本からフランスに旅行でやって来たはいいが、一流レストランとかに入る勇気がない、という方も多い。それじゃあ、つまらない。
差別されたわけじゃないが、言葉も通じないし、どこか下に見られているような気持ちになって、フランス大嫌い、となる人がも実に多いのが残念・・・。
ぼくなど、小柄だから、マダムに間違えられることも多いし、風格がないからね、笑。
日本人男性は、どこかとっちゃん坊や風のおじさんが多いのは事実なので、ぜひ、ぼくが20年かけて確立した、「フランスの一流レストランでバカにされずに、スマートに注文し、決めて帰る方法」を伝授したい、と思うが、これはあくまでも個人的主観であることも、最初にお断りしておきたい。えへへ。

滞仏日記「フランスのレストランでとっちゃん坊や風父ちゃんがバカにされない理由」



ということで、一流レストランには必ず、メートルドテルがいる。接客全般の責任者である。
ギャルソンのキャプテンみたいな人なのだ。
あとでご紹介するが、ぼくの行きつけのレストランの俳優みたいメートルドテルは、トニーさん!!!
どの人がメートルドテルか、最初に見極めておくのもコツのひとつ。
ということで、じゃじゃじゃーん、父ちゃん、入店。
まず、大事なことだが、堂々としておこう。
とっちゃん坊や風の父ちゃんだが、胸張って、斜め45度の方角を哲学的に眺めたりしながら、堂々と、待っている。あはは。まじです。
(ちょっと、奥さん、待って! そこで広告とかクリックしようとしないで、もうちょっと読んでください。ぼくはいたって、真面目なのであるから)

滞仏日記「フランスのレストランでとっちゃん坊や風父ちゃんがバカにされない理由」



というのは、入口でそわそわしているような客は、怪しまれるので、最初が肝心なのであーる。
指を立てて、呼んだりしてはいけない。
じっと、いぶし銀の表情で、斜め45度をじっと見ていると、給仕がやってくる。
ボンジュール(夜ならボンソワ)と言われるので、次に大事な点を、言いたい。
ちょっと顎をあげて、あ、君か、的な感じ、そう、低い声で「ボンジュール」とあんにゅいに、言えばいい。あくまでも、優雅に。
「予約はありますか?」
「ないですよ」
「テラスと中とどちらがいいですか?」
「中かな」
「どうぞ、こちらです」
とにかく、訊かれたことに、堂々と、最小限の言葉で、返事をする。
ジェームス・ボンドになった気分で、低く、低く、告げればいい。ギャルソンも人間なので、その風情とかで、いろいろと考えている。
ゆったりと、ギャルソンについていく。
「この席はいかがでしょう?」
とすすめてくるので、
「パーフェクト(仏語なら、パフェ)」
と言えばいい。
席が気に入らない場合は、サッと、英語で、あっちの席でもいいですか、と聞けばいいが、ここで忘れてはならないのは、ジェームス・ボンドなので、堂々と、ちょっと口元を緩める感じで、しかし、低い声で、「オーケー?」とか言っておくといい。
フランス人、英語圏の人にちょっと弱かったりするので、下手な仏語で一生懸命喋ると父ちゃんみたいにバカにされる可能性もあるので、英語で、さらっと言おう。
あはは。
ここまで完璧であろうか? 斜め45度は続けてもよい。すると、給仕はワインリストとメニューを持ってくる。
「めるしー」
ここで、はじめて、仏語というのもかっこいい。
一流レストランならば、英語のメニューがあるので、それがいい。仏語のメニューは経験がないと分からないので、やめておこう。
まもなく、注文に来る。(メニューをテーブルの上に置くと、来る)
まず、食前酒などをすすめられるので、お酒が飲めるのであれば、(まず、ワイングラスの値段をチェックしておくこと。シャンパンの場合、一杯、3000円くらいとられるところもあるので、12ユーロくらいで呑めるなら、相場。観光地に行けば行くほど、高くなり、星の有無でもちろん跳ね上がる。でも、お酒で舐められちゃいけないので)
「ぼくはね、酸味のない、すっきりした白がほしいな」
と英語で言えばいい。ここだけ、前もって辞書で調べて勉強しておくといい。
この言い方も、相手に聞こえるか聞こえないか程度の、出来ればかすれ気味の崩した英語で、言えばいい。
仏語が喋れるなら、セルジュゲンスブール風に、ぼそぼそというと、ギャルソンは、出来るな、と思って、
「じゃあ、シャルドネはどうです?」
などと聞いて来る。

滞仏日記「フランスのレストランでとっちゃん坊や風父ちゃんがバカにされない理由」



「グッド!」
と言って、ウインクでもしておこう。(ボトルで注文をするときは、ちょっと高度なので、経験がない場合は、相談をした方がいいかな)
(え、ちょっと待って、奥さん。そこで広告とかに逃げようとしないで、もうちょっと読みましょうよ。マジで、ぼくはいつもこうやっているんです。舐められないための必勝方法なんですよ)
ウインクって、こっちだと、別に、普通にするし、気に入られた証拠だから、受け止めた方がいい。
日本人のウインクとは違う。こっちの(^_-)-☆は、微かな笑みを顔中に広げてみせる、なかなかチャーミングなウインクだ。いやらしくないのだ。
片側の口元をゆるめて、こっちも笑顔を返しておこう。笑顔が最高の言語になる。
おっと、でも、あくまでも、大物感を忘れてはならない。
大物感だすと、サービスはかわらないけれど、ちゃんと、対応してくれる。
ま、一流店では少ないけれど、カフェとかだと、客の足元見てくるどうしようもないギャルソンもいるので、そういう時は、ためらわず、サッと退店した方がいい。
なめんな、俺の人生を、でいいのだ。
日本にもあると思うが、客を選ぶ店もあるので、そこは全世界共通なので、頭に来たら、出ればいいだけのこと。
いちいち、頭に来る必要はないが、フランスのギャルソンって、皮肉屋で変わり者が多いので、慣れると、そこも魅力になる。
ただ、変なギャルソンでも、頭から出ていくことを選ばないで、様子をみたりしていると、世界が広がったりもする。マジです。

滞仏日記「フランスのレストランでとっちゃん坊や風父ちゃんがバカにされない理由」



海外で知らない店に入る前にしておくことは、その店の客対応のコメント欄を呼んで、一度、外から店の中の様子を見て、常連っぽいお客さんがほほ笑んでいたら、ま、入ってみる価値はあるということであろう。
ちなみに、ぼくの友人のクレールの店は、クレールの対応が酷いので、味が5点、対応1点なのだ。マジであーる。
総合で4点なのだけど、ぼくも確かに、最初はマダムが苦手だった。
「わたしはね、忙しいのが嫌だし、主人の料理のファンだけが来てくれればそれでいいの」
そういう店もある。
でも、ある時、それがいいな、と思った。クレールと打ち解ける瞬間があった。
ぼくはご主人の料理が好きなので、そんな堅物のクレールとも仲良くした。
ある日、ご主人の料理を静かに褒めたら、それから仲良くなった。ぼくは味をとった。
でも、接客態度の悪いクレールも、仲良くなると、いい奴だったりする。
実に、フランス人って、こういう人が多いので、そこもフランスの魅力ということで。
この辺は難しいね。
今日は、メートルドテルが、最高級なムッシュ・トニーの店に行った。
ぼくはトニーに、いつもいい席を案内される。
なぜなら、ぼくは斜め45度を見つめ、低い声で、囁くように、トニー、今日も最高だったよ、と必ず言い残して帰る、謎の日本人を演じてきたからだ。
何が美味しかったかを一言ずつ、残していくと、いい顔で出迎えられる、という寸法。
トニーはぼくが入店すると、飛んで来て、一番日当たりのいい席に案内してくれる。
ぼくは、小さく、ウインクをしてみせ、
「いつものワインをね」
と低い声で告げる。
そして、読みかけのドストエフスキーを開いて、読まないけれど、なり切る。
おっと、三四郎のために、トニーは水も出してくれた。
「サンシー、トニーはどうだい?」
「わん」

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※ このトニーさん、めっちゃかっこいいのだ。でも、彼はロワールのレストランに移動が決まっている。



人生はつづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
日本公演近づいてきましたね。6月11日が最速先行の締め切りです。抽選がありますが、穴場は名古屋でしょうか。一般発売開始は7月頭らしいですが、まだ決まっていません。たぶん、最速先行でいっぱいになる、という状況です。いいライブにしますから、皆さん、大変ですが、よろしくお願いします。あと、6月18日には、父ちゃんがガイドする、サンジェルマン・デ・プレ界隈を散策するオンライン・ツアーもあります。7月、8月の文章教室もあわせて、下の地球カレッジバナーをクリックしてみてくださいね。

「辻󠄀仁成 アコースティック セレナーデ フロム パリ 2023」
Tsuji Acoustic Serenade From Paris 2023
出演アーティスト:
辻仁成(Vo・Ag)/Dr.kyOn(Piano・Chorus)/ユン ファソン(Flugelhorn・Trumpet・Chorus)
各会場:
8/29(火)愛知・名古屋DIAMOND HALL
open18:00/19:00
8/30(水)東京・EX THEATER ROPPONGI
open18:00/19:00
9/3(日)京都・京都劇場
open17:30/18:00
さて、デザインストーリーズから、一般発売に先立ち、オフィシャル最速先行、のお知らせを行いします。特別に、「ぴあ」内に、このミニツアーの先行窓口が6月11日まで設置されています。
チケット購入を希望される皆さんは、下のURLをクリックお願いいたします。

https://w.pia.jp/t/tsujihitonari-k/

最速先行発売期間、5/30(火)09:00~6/11(日)23:59/日本時間

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