JINSEI STORIES
滞仏日記「朝、悩みを抱えるぼくはひたすらパリ市内を歩いて、心を落ち着かせたのだった」 Posted on 2023/06/07 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、長谷っちが事務所をやめることになり、彼の病状(安定しているということです)も心配だし、彼が抱えていた仕事を誰が受け継ぐのか、などなど、いろいろと悩ましい問題もあり、ひとまず、ライブが終わり、悩んだり、考えたりしないとならない現実が押し寄せてきたのだった。
(三田文学の連載も、先方の事情で第一部終了という形で終結することになった。この作品をこのあと、どうやって完成させていくのか、考えないとならない・・・)
こういうことを整理するのに、「歩くこと」が非常に役立つ。三四郎とひたすらパリの街を歩いて、頭の整理につとめた。
朝、8時に家を出て、はじめて立ち寄ったカフェでカフェオレを飲んで、ああでもない、こうでもない、と頭をひねった父ちゃん・・・。
三四郎は足元でいい子にしていた。
この子はほんとうに賢いわんちゃんである。
そういえば、昨夜、日本公演の曲を選定したのだった。オランピア劇場のセトリから、かなり大胆に変更をくわえ、17曲を選んだ。
決定していたミュージシャンに、ドラム&パーカッションの山下あすかさんの参加が決まったことを受けて(よろしくね!)、彼女のYouTubeなどを参照に、出来ることをイメージした・・・。
カフェから、日本公演用のセトリをサンクリの中原しゃんに、送った。
お会計をし、三四郎と外に出た。夏を感じる風がぼくと三四郎の間を吹き抜けていった。
♪6月の風が、吹き抜ける♪ あーうー。(by シルビア)
交差点で行き交う車の流れを見ていると、二匹の子犬が三四郎に近づいてきた。
三四郎は尻尾を振って出迎えた。その2匹、たぶん、ヨークシャーかなぁ。
その飼い主さんと目が合った。
お、スレンダーなアジア系のマダムじゃないか。微笑えんでいる。
「おはようございます」
ぎゃあ、いきなり、日本語でびっくりしたが、驚きを顔に出さないようにしながら、笑顔を取り繕った父ちゃん、あはは、ぺこちゃん、お辞儀した。
「おくつろぎのところごめんなさい」
「あ、いいえ。あはは(驚いているのだけど、必死に冷静を装う父ちゃんなのであーる)」
爽やかなマダムで、なんとなく、パリのはずれで、会うというのも、不思議で、気恥ずかしいけれど、数少ない日本人との出会いに嬉しくもあった。
「さんちゃんですね」
おお、三四郎は有名犬なのであーる。
「はい、三四郎です」
三四郎も喜んでいたが、その二匹のわんちゃん、ベルちゃんとキナコちゃんは三四郎以上に喜んでおり、めっちゃ可愛かった。
犬たちのこの嬉しい感情の表し方がぼくは大好きなのだ。癒される。
日本人に飼われている犬同士の波動みたいなものがあるのだろうか。あはは。
「辻さんのライブに行きたかったのですけど、都合がつかず行けませんでした」
「あ、いいえ、また、いつか、やりますので、あはは」
あはは、ばっかりな、変な父ちゃんであーる。
でも、和んだ。悩みがいっぱいあったが、その瞬間は忘れることが出来た。ありがとうございます。
ところで、パリ在住の日本人が少なくなっているし、昔はすぐに日本人だと見分けがついたのだが、最近、日本人か韓国人か中国人か、パっと見だけでは見分けが付かなくなってきつつある。
ネット・ドラマなどの普及でファッションやヘアスタイルにあまり差がなくなってきたからかもしれない。
その一方で男性はまだなんとなくだが、区別がつく。
骨格、歩き方、服装の色味、頭髪、とくに側頭部や後頭部のカットの仕方などなどで・・・。笑。(それでもひと頃よりはわからなくなってきたかなぁ)
2匹の小犬のマダムも、日本語で挨拶されるまでは、わからなかった。
言葉が通じると、逆にその人の背景が見えてくるから不思議である。発音や、声の震え、態度、アクセント、などなどで、生きてきたこれまでの道を作家的に想像することが出来た。☜職業病ですね・・・。
ほんの少しの会話でも、日本語を通して、親密感、というか近い感じが届けられた。
そんな風に、2時間くらい、パリ市内をひたすら歩いた父ちゃんとさんちゃんであった。
人々を眺め、街に降り注ぐ光りを見つめ、この世界の今を凝視した。
警察の車両がもの凄く多かった。いたるところで警官が道を封鎖していた。
「すいません。あの、何かあるんですか?」
若い警官に訊いてみた。
「今日は、午後から左岸いったいでかつてないほど大規模なデモがあるから、それに備えているんですよ」
あ、そうなのだ。そうか、それは、大変だ。
「三四郎、じゃあ、田舎に行こうか」
三四郎がぼくを見上げていた。
「ライブも終わったし、これからどうするか、考えるために、海を見に行こう」
ぼくらは、荷物をまとめるため、一度、家路につくのだった。
人生はつづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
ライブが終わって、禁酒を解禁したところ、あんなに引き締まっていた身体がぐんぐんたるみ始めているから不思議ですねー。半年で、4~5キロは落としたのだけれど、一気に戻りそうな勢いで、飲んでおります。あはは。毎晩、ワイン一本~。でも、日本公演が近づくので、セトリも決まったし、今月末からまた酒の量を減らそうかな。減らしますね。はい。ということで日本公演のご案内です。
「辻󠄀仁成 アコースティック セレナーデ フロム パリ 2023」
Tsuji Acoustic Serenade From Paris 2023
現時点で決定している出演アーティスト:
辻仁成(Vo・Ag)/Dr.kyOn(Piano・Chorus)/ユン ファソン(Flugelhorn・Trumpet・Chorus)
各会場:
8/29(火)愛知・名古屋DIAMOND HALL
open18:00/19:00
8/30(水)東京・EX THEATER ROPPONGI
open18:00/19:00
9/3(日)京都・京都劇場
open17:30/18:00
さて、ただいま、オフィシャル最速先行中です。「ぴあ」内に、このミニツアーの先行窓口が6月11日まで設置されています。
チケット購入を希望される皆さんは、下のURLをクリックお願いいたします。
https://w.pia.jp/t/tsujihitonari-k/
最速先行発売期間、5/30(火)09:00~6/11(日)23:59/日本時間
そして、6月18日は地球カレッジ、サンジェルマン・デ・プレ界隈を散策するオンライン・ツアーです。詳細は下の地球カレッジバナーをクリックください。