JINSEI STORIES
滞仏日記「ぼくが死んだ後、息子はオランピアの前を歩くたび、ぼくを思い出す」 Posted on 2023/06/02 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、日本からライブを観に、十斗の日本の母親代わりを長年つとめてくれている親戚のミナがやってきていた。(今日、帰るのである)
実はずっと滞在期間中、息子のアパルトマンのすぐ傍に宿泊していたのだ。
そして、息子が彼女のためにご飯を作っていたのだった。
日本に行った時は、ずっとミナの家にいてお世話になっているので、その恩返しであーる。
ミナは3人のお子さんを育てあげた、ビッグママなのだった。
で、こっそり、ミナがぼくに送りつけて来た十斗の料理している後ろ姿、・・・おお、エコーズのつじじんせいにそっくり。似ている。親子だからな、あはは・・・。
ということで、今日は、オランピア劇場関連の仕事も一段落したので、一緒に食事をすることになったのだった。
ぼくがよく行くレストランにご招待をしたのである。(リクエストは息子だった。その店で、彼の同級生ポリンヌが働いている)
で、ミナちゃんは、理学療法士で、関東県内には数人しかいない側弯症のスペシャリストなのだった。
ドイツの独特の治療法を取得、シュロス法の認定療法士というのだそうだ、その専門家なのである。
難しくて、よくわからないのだけれど、ともかく、子供たちに多い側弯症などを診ているのだって。
「じゃあ、ぼくの背中も、診てもらえる?」
「もちろんよ」
ぼくも作家生活が長かったので、腰が痛く、音楽活動にも多少の影響があるので、背骨が曲がっていることには自信があった。あはは。めっちゃ自信があった。
すると、予想通り、
「ひとちゃんは胸椎下部から腰痛にかけて右側弯があるわね」
とあっさりと宣告されてしまったのであーる。
「それは生活習慣(姿勢)の問題だと思う」
「そりゃあ、作家だもん」
なんの自信? 自信満々に答えた父ちゃんであった。
「病名は?」
「脊柱側弯症かな。左の腸腰筋をトレーニングするといいよ」
と言われた。どうやって? それは今後の課題だ。
なんでも腰の周辺はガタガタなのだとか・・・。どおりで痛いはずだ。これはもはや職業病なのであーる。
※ 背骨の触診中・・・。ううう、重症ではないので、ご安心を。
※ パパしゃん、ぼくも家族だよー、byサンシー。あはは。すまん、すまん。
ということで、今日は十斗の日本の代理母さんを交えてのなかなか楽しいひと時であった。なんども「家族」という言葉が飛び出した。
「家族だからね」
とミナが言った。
ちらっと息子の顔を覗いた。嬉しそうにしていた。
「十斗はね、パパのこと大好きなのよ。ね、十斗」
いきなり、ふられて、十斗は困っていた。
「え? う、うん」
「安心してね、この子はお父さん思いのいい子なんだから」
「え? あ、うん」
困ってるのが分かったけれど、家族というのはこういう風に気恥ずかしいものなのかもしれない。
※ ブイヤベース!!!
十斗の同級生たちが、みんなぼくのファンになってくれたのだ、と少しして、十斗が言い出した。
手伝ってくれたユゴーやルイ君だけじゃなく、他にも、ネモ君、トマ君、ロマン君、アレクサンドル君、などなど、大勢観に来ていた。
ほとんどが十斗の同級生たちである。
この日記にも何度か登場している子供たちだった。
もちろん、チケットは学生にとっては高額なので、親御さんがチケットを買ってくれたりしている。
とくに、ママ友のオディールは旦那さんも誘って、家族全員で観に来てくれた。
このレストランにつとめるポリンヌちゃんも、十斗の小学校からの同級生なのだった。
「自慢のパパだね」とミナ。
「ええ、あ、まあね」と十斗。
ミナははっきりと物を言う人なので、恐れるものがない。
そういう人だから、日本滞在期間、十斗はしっかりと育ったのであった。
ぼくも安心をして、預けられたのだった。
お酒が解禁されたので、ぼくらは泡で乾杯をした。
この泡は、お店のオーナーからのプレゼントだった。なんと、店員さんたちがライブを観に来てくれていたのである・・・感謝。
ということで、久しぶりに長閑なひと時を過ごすことが出来た。
ぼくら父子は、45歳の年の差がある。
だから、ぼくがこの世を去った後、欧州で血のつながったものがいなくなった時、彼がこの国で生きていくための地盤をいろいろと整備しないとならない、と思ってこの10年頑張って来た。
オランピアでライブをやろうと思いつくのも、彼の目に、焼きつけておいてもらいたかったからだ。
ぼくがステージに立つ姿を、ぼくが仲間たちに囲まれている姿を、・・・。
この記憶が、彼を励ます、大きな原動力になるはずだ、と思いついたのだった。
オランピア劇場でやろうと思った、一つの、動機だった。
その通り、息子にはなにがしかの影響を与えることが出来たようだ。
彼の記憶の中に、オランピア劇場で歌っている父ちゃんの姿が焼き付くことだろう。
息子の親友のルイ君がぼくのステージの写真を撮影してくれた。その写真が息子から送られてきた。
「みんなが一列になって、観客の皆さんの声援を受けている時、ぼくは嬉しかった」
ルイ君がその決定的な写真を撮影していたのだ。サンクス。
歴史的文化遺産であるオランピア劇場がなくなることはないだろう。いつか、彼がそこで歌うかもしれない。
歌わなくても、息子がその前を歩く時、必ず、2023年5月29日のことを思い出してくれるだろう。あの日は親子を繋いだ。
ぼくは天国から笑顔で見つめていることだろう。
その天国とは、息子の心の中にこそ、ある。
※ この二枚、撮影はlouis君です。いい写真だねー。
人生はつづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
さて、この後は、日本公演が待ち受けています。
「辻󠄀仁成 アコースティック セレナーデ フロム パリ 2023」
Tsuji Acoustic Serenade From Paris 2023
現時点で決定している出演アーティスト:
辻仁成(Vo・Ag)/Dr.kyOn(Piano・Chorus)/ユン ファソン(Flugelhorn・Trumpet・Chorus)
各会場:
8/29(火)愛知・名古屋DIAMOND HALL
open18:00/19:00
8/30(水)東京・EX THEATER ROPPONGI
open18:00/19:00
9/3(日)京都・京都劇場
open17:30/18:00
さて、デザインストーリーズから、一般発売に先立ち、オフィシャル最速先行、のお知らせを行いします。特別に、「ぴあ」内に、このミニツアーの先行窓口が6月11日まで設置されています。
チケット購入を希望される皆さんは、下のURLをクリックお願いいたします。
https://w.pia.jp/t/tsujihitonari-k/
最速先行発売期間、5/30(火)09:00~6/11(日)23:59/日本時間
※ 6月18日は、サンジェルマン・デ・プレ界隈を散策するオンライン・ツアーです。ご興味のある皆さん、上の地球カレッジのバナーをクリックください。