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退屈日記「6月1日に、息子が自分の将来について相談したい、と言い出した」 Posted on 2023/05/24 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、ぼくはサダハルアオキにケーキを買いに行った。
ここで売っている抹茶のロールケーキが好きなので、これをバンドメンバーに食べさせてやりたかった。
他にも美味しそうなケーキやチョコを選んで、レジで、お金を払おうとしたら、
「辻さん、これはアオキからバンドの皆さんへ」
と言われた。
「オランピア劇場ライブがんばってください」
「え? そんな~」
と言いながら、すっかり財布をポケットに戻している図々しい父ちゃんであった。
自分で、財布をひっこめているのがわかるのだから、お店の方はもっとわかっているはずだ。
ふふふ、辻さんったら、お財布、引き下げてるわ、とか思われているはずであった。この辺のやりとり、困るんだ。実に困る。
かっこわるい人になるわけにいかないし、でも、人の好意は快くさばさばと受け取るのが大事だし、で、受け取った~。
アオキさん、ごっつあんです。
明日の練習にケーキを持っていこう、と思う。みんな日本の味にびっくりするだろう。
さて、三四郎はどうしているのか・・・・。
あはは。

退屈日記「6月1日に、息子が自分の将来について相談したい、と言い出した」

退屈日記「6月1日に、息子が自分の将来について相談したい、と言い出した」



ドッグトレーナーのジュリアは犬の調教がメインの仕事だけれど、アルバイト的に家族で犬の預かり業(ポンション)をやっている。
犬を一泊預けると、日本の安いビジネスホテルに一泊出来るくらいの費用がかかる。
1, 2泊なら高いと感じないが、2週間となると、相当な金額だ。
しかし、彼らドッグトレーナーの仕事はほぼほぼボランティアに近いので、こうやってバランスをとっているのだと思う。(一度入会すると、毎週、訓練に行っても無料になる。これでは彼らもやっていけないので、ポンション業は大事な生きる道なのだ)
ぼくにとっては助かるので、それなりに高いけれどしょうがない。
常にジュリアの家には数匹の犬がいる。安心できるからみんなジュリアに預ける。
三四郎もその中の一匹だが、彼は特別に過保護にされているのだ。
何せ、ジュリアのご両親はミニチュアダックスフンドが大好きなのである。お父さんとお母さんで三四郎を奪い合っているのだとか・・・。
で、結局、お母さんが最後は勝って、三四郎と一緒に寝ているらしい。あはは。
三四郎にとってジュリアの家で寝泊りすることは、ある意味バカンスみたいなものかもしれない。
逃げられる場所があることは、人間も犬も一緒で、大事なことである。

退屈日記「6月1日に、息子が自分の将来について相談したい、と言い出した」

退屈日記「6月1日に、息子が自分の将来について相談したい、と言い出した」



ところで、一番重要な登場人物である息子だが、彼が6月1日にぼくに将来について、新たな提案をしたい、と言い出した。
親として、ある種の覚悟はしているが、どういう提案なのか、ぼくなりに毎日、たとえば、バンドの練習の最中とかに、可能性を想像してみたりしている。
他方、息子との関係は物凄くいい。
彼も音楽をやっているので、先輩としてぼくの背中を見ている。
毎日、音楽や表現について、いろんなメールが、届く。
友だちみたいな感じ。いい親子関係だと思う。
だからこそ、ぼくは、ぼくなりに息子の未来を考えて悩んでいる。ひょっとすると彼は大学を辞めたいのではないか、とぼくは想像をしているのである。
今の大学じゃなかった、と思っている気がする。
大学生になってもうすぐ一年になる。
この一年、彼は一生懸命大学で勉強をしてきた。でも、大学側も学生に評価を下される時期なのである。息子は自分の将来を設計しはじめた。
音楽は趣味でやる、と宣言をしているので、具体的なビジョンがあるようだ。
もう成人しているのだから、どういう人生を選んでも、自分でやるしかない。
学生を続けるならば父ちゃんが支援をするが、社会に出るならば自分で生活費を稼ぐ方法を考えないとならない。
十斗は三四郎じゃないので、自分で生きていかないといけない、ということだ。
6月1日になったら結論を出す、と息子からメッセージが届いた。
オランピア劇場ライブの3日後である。
ぼくはうすうすだけれど、なんとなく、感づいている。彼が何をやろうとしているのか・・・。

退屈日記「6月1日に、息子が自分の将来について相談したい、と言い出した」



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
手を離れたのに、息子は息子なんですよ。やはり、心配なんです。一人立ちを完全にするまでに、まだ、数年かかるわけです。大学院博士課程まで進むとなると、30歳まで学生ということも考えられます。その時、わしは何歳じゃあ・・・、あはは。
さて、6月18日、父ちゃんと歩くサンジェルマン・デ・プレ界隈を散策するオンラインツアー、告知です。詳しくは下の地球カレッジのバナーをクリックしてみてくださいね。

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