JINSEI STORIES

滞仏日記「ランチを食べていたら、フランスの国営放送がやって来て、初ラジオ出演!」 Posted on 2023/05/24 辻 仁成 作家 パリ

某月某日、ひどく疲れてはいるけれど、達成感のある日というのがある。今日はそんな日だった。ジョルジュがちょっと怪我をしたし、まだまだ大変忙しい最中なのだけれど。
まず、朝、トランペットのユン・ファソンがCDG空港に到着した。
英語も仏語も喋ることが出来ないらしい(韓国語と日本語は喋る)。タクシーの乗り方などを説明した。
はじめてのフランスなんだとか・・・。かなり、びびっていた。(サインを求めに来る若い女の子の二人組とかは、スリなので、注意してください)
うまいトランペッターなのだ。来るか、と言ったら、行きます、というので、ほんとうかなぁ、と半信半疑だったが、1万キロの距離を飛び越えて、着きました~、と朝Lineメッセージが・・・。あはは、来やがった。
とにかく、これで全員が揃った。
みんなにユンを紹介した。言語はバラバラだけれど、ミュージシャンには音楽という言語があるので、意思の疎通は問題なく・・・。
彼がソロを吹いた途端、みんなの顔が緩んで、一瞬で、いいムードになった。
韓国、フランス、メキシコ、ブラジル、イタリア、日本という混合チームなのだ。
ロック、ソウル、ブルーズ、ジャズ、スパニッシュ、すべての要素を持った、父ちゃん流ジャパニーズ・ソウルミュージックだ。
一緒に、食堂でランチを食べながら、知っている言語で、交流を深め合った。
ユンは韓国語をマリオに教えていた。マリオが目を丸くしていた。
「なんだ、それ。はじめて聞く発音だ、どうやって発音してるんだぁ?」
マリオは10か国語くらい喋る言語のスペシャリストなのである。
すると、エリックが笑いながら韓国語を口にした。ユンが、それは酷い日本語の5倍くらい汚い言葉なので、辻さんの前で使っちゃいけません、と言ってみんなを笑わせた。
韓国ドラマで、流行っている、単語らしい。エリックが知らずに覚えた。

滞仏日記「ランチを食べていたら、フランスの国営放送がやって来て、初ラジオ出演!」



ともかく、オーナーのピエロが作った美味しいスタジオごはんを食べて、交友を深めていったのである。
今日、スタジオで出された食事は「カレーライス」だった。
スタジオのオーナー、ピエロさん自ら作ってくれたカレーライス。
「アジアの人にこれを作るのはちょっと恥ずかしいけれど、カレーライスだよ」
でも、これが、カレーライスじゃなくて、もち米だし、日本人的には、スパイシーな鶏の生姜焼きだったのである。タイ風カレーに近い、・・・生姜焼き?
フランス人がカレーを作ると、こういうことがよく起こる。いい結果だった。
カレー粉を入れるだけだからだ。でも、そのエスニック感が素晴らしかった。
「うまい!!!」

滞仏日記「ランチを食べていたら、フランスの国営放送がやって来て、初ラジオ出演!」



そこに、マネージャーMMが飛び込んで来た。
「国営放送のフランス・アンテールが明日放送用にインタビューしたいと、来ました?」
「は? 来た? ここにいるの?」
「今朝、編成会議を通過したばかりということで、で、今、下にセバスチャンが来ています」
「セバスチャン、だれ?」
「ジャーナリストです。今、玄関に」
「ええ、いきなり?」
ということで、練習を中断し、スタジオで、ラジオ収録が始まったのである。15分と言われたのに、セバスチャンが真剣で30分を超えるインタビューになった。

ちょっと喋ったくらいで、集客につながるとは思わないが、でも、宣伝マンが介在したお仕事つながりの宣伝ではなく、真剣にぼくの音楽を聴いて、みんなで会議をして、ぼくに取材をしようということになったというのだから、これは受けなきゃならない。
これは宣伝ではなく、向こう側からやって来たはじめての取材なのだからだ。
セバスチャンは最高級のナグラという録音機でぼくらの演奏を収録しはじめた。
「なんで、オランピアでやろうと思ったの?」
セバスチャンが執拗に聞いてきた。そこが知りたい、というのである。無名なのにポスターがパリ中に貼られてある。でも、ぼくが誰か、誰も知らない。あはは。
「あなたは日本で有名なんですよね?」
えええ~、そういう直截な質問に、はい、とは言える人いるの? セバスチャン、何を聞きたいの? いいえ、そうじゃないと思いますよ、と返事しておいた。ドギマギ。
「みんな、いろいろ、知りたいんですよ」
しかし、物事に、理由がないこともある。
「めっちゃ製作費がかかる会場だし、フランス人でもここに立つのは難しいのに。なんで? あなたはここでライブをやるんですか?」
「子供の頃の夢だったからですかね」
そう答えた。小さく、熱血で、と付け加えておいた。
そこは通訳されなかった。

滞仏日記「ランチを食べていたら、フランスの国営放送がやって来て、初ラジオ出演!」

滞仏日記「ランチを食べていたら、フランスの国営放送がやって来て、初ラジオ出演!」

滞仏日記「ランチを食べていたら、フランスの国営放送がやって来て、初ラジオ出演!」

※ いきなり出現した新たな登場人物、セバスチャン。ぼくの中ではこういう彼が一番、ある意味、フランス人らしい、と思うのであーる。控えめだけれど、言うべきことは言う、みたいな。ジェントルマンなのだけど、隠された不思議な個性がある、みたいな。ううむ。でも、どうやって、ぼくのことをこの人は知ったのだろう???



つづく。

今日も読んでくれてありがとうございます。
一時、デザインストーリーズのサイトが見られなくなっていたんですが、復旧しました。皆さんに、ご迷惑をおかけしました。原因を今、調べています。運営会社が東京にあるので、時差があって、フランスチームはやきもきしました。笑。
さて、オランピアライブは5月29日ですが、がんばっています。そのあと、6月18日にはパリ、サンジェルマン・デ・プレ界隈を散策するオンラインツアーをやります。詳しくは下の地球カレッジのバナーをクリックしてみてね。

地球カレッジ



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