JINSEI STORIES
滞仏日記「息子が今の大学が面白くない、と言い出し、アッと驚く辻ごろう!」 Posted on 2023/05/20 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、行きつけのパトリシアのレストランで、息子と昼に待ち合わせた。
めっちゃ痩せていて、髪の毛も韓国アイドルみたいで、ホー、と思った父ちゃん。
で、なんでレストランで会ったかというと、ライブが近いので、もし、十斗がコロナとかに感染していたら、今はよくない、と思って・・・。
「ごめん、だから一度、マスクをとりに帰ろうと思ったんだけど、携帯の充電がなくなりそうだったから、そのまま来ちゃった」
「大丈夫、飛沫が飛ばないように話をすればいいよ」
と気遣ってもらえてちょっと嬉しかった。あは。で、最近、どうなの、と切り出したら、
「大学がつまらなくて」
と言い出した息子であった。
「ぬぁにー!?」
「うん、なんか、なんかちょっと違うんだよね。思っていた大学とは」
おいおいおい、と思ったが頭から否定はできない。
「だから、いろいろと今後のことを考えている」
おいおいおい、と思ったが、とりあえず、19歳の意見をちゃんと聞く必要があった。
※ 息子撮影による父ちゃん。え? ちゃんと聞いているように見えないってぇ??? これが辻家のならわしなのじゃ。ピースしながら、暗い話をするんじゃあ。そうすると人生も楽しいのだ。
※ 息子の手に奇妙な指輪が、ネットで買ったらしい・・・。こういうところが今時の子だ。
「パパ、訊いてもいい? いったいどういう人生がいい人生だと思うの?」
「え? そこか」
「いい大学だと思って入ったんだけど、生き甲斐を感じない場合どうしたらいい?」
「それは、・・・よくないね」
「でしょ?」
「ま、勉強っていうのは、就職のためにするものでもあるけれど、モチベーションがあってこそ、のびるものだから、楽しくないと頭に入らないものではあるね」
「でしょ?」
「君は、お金持ちになりたいか、好きなことをやりたいか?」
「そりゃあ、好きなことをやりたい。生活できるお金は必要だけれど、ぼくは大金持ちになることが成功だとは思ってない」
「そうか、ならば、結論は簡単だよ。モチベーションのないものをやっても身にはならない。好きなことをやれば、君はトップになることが出来る能力を持っている。君の場合は、好きなことをやって、そこでとことん楽しんで、頑張った方が伸びるタイプだと思う。お金にならなくても、高い場所を目指す方がいいんじゃないかな」
おいおいおい、何を言い出すんだ、自分、と思ったけれど、本心だったので、様子を見ることにした。
「ありがとう。じゃあ、あとはぼくが決める」
※ ぼぶん~。下は、もち米。
ドキ、マジか・・・。
そんなに思い詰めていたのか、き、決めるって、どうするつもりだ?
でも、父ちゃんは聞かないことにした。
成人をしたのだ。大人なんだから、自分で決めて、自分の道を進んで行くのがいい。
「やっぱ、音楽をやりたいのか?」
「いや、ちゃんと勉強をして、やりたいことを見つけて、楽しんで働いて一番になる。音楽は趣味程度でいいかな」
あはは。
「でもね、パパは音楽が好きだな。音楽は楽しいよ」
おいおいおい、・・・火に油を注ぐな。
先のライブの写真をいくつか見せてくれた。
おお、ECHOES時代の父ちゃんをほうふつとさせる佇まいじゃないか。あはは。
「アルバム、二週間で10万再生回突破して、有名なレコード会社から誘いが来た」
「え??? なんだとー」
「でも、ちょっと悩んでいる」
「はぁ、どういうこと?」
「ぼくは30歳まで大学で勉強をして、その道のスペシャリストになりたい。音楽は楽しいけれど、趣味は趣味で続けて、社会人として世に出るつもり」
「もったいない」
「え? なんで?」
「いや、10万再生回、たった2週間って、結構すごいなって(父ちゃんより聞かれてるじゃん。父ちゃん、おわこん説・・・)」
「うん。でも、現実をとりたい。でも、お金じゃない」
「音楽、すでに現実じゃん。すごいじゃん」
「パパ、普通、親って、現実を見ろっていうものだよ。音楽なんかで食えるかって言わないと・・・」
あはは。
「じゃあ、現実を見ろ。音楽なんかじゃ食えないぞ」
「うん。オランピアのライブのあと、6月の頭に、もう一度、相談に乗って貰える?」
「もちろんだよ」
「それまでに、きちんと考えておくから、自分のこれからのこと」
「わ、わかりました」
頭を下げた父ちゃんであった。(どっちが親やねん、と思いますよね?)
でも、よく考えろ、とだけは父親らしく、威厳をもって、言っておいてやったった。
「人生の入り口も出口も、悩んで迷って考えて行動したその先にこそある。行け~十斗、どこまでも~」
※ 帰り道、携帯見ていたら、鳩さんにふんをかけられました~。え? これって、運が付いてきたってことか。☜どこまでもポジティブな辻仁成なり!らっきー。オランピアへまっしぐらじゃあ。
つづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
いやあ、息子のなみなみならぬ決意に圧倒されて、何を食べたのか、思い出せないのだけれど、父ちゃんはボブンを、息子は牛肉のステーキを食べたのでありました。この夏は、息子と三四郎と三人で旅に出ようかな、という話もちょっとあったりして・・・さて、どうなることやら。人生はつづく、ですね。いいなぁ、人生は続くんですよ。だから、楽しんで悩みましょ~、熱血~。
在仏日本人の皆さん、まだ悩んでいるなら、もう、悩まないで!5月29日、ぜひ、オランピア劇場、父ちゃんのライブにご参加ください。当日券もあります。
そして、日本の皆さん、6月18日に、父ちゃんがパリのガイドをする、オンラインツアーのお知らせです。詳しくは下の地球カレッジのバナーをクリックね。めるしー。