JINSEI STORIES
滞仏日記「世界一美味しい父ちゃんのパリ事務所まかないごはん。そこに隠された秘話」 Posted on 2023/04/29 辻 仁成 作家 パリ
某月某日、行きつけの台湾レストランにランチを食べに行ったら、大変なことになっていた。
百席くらいあるホール(満席)をシェフのおかみさんがたった1人でサービスしていたのだ。で、次々やってくるお客をかたっぱしから、断っていた。
「スタッフがみんな一気にやめて、今日は私ひとりだから手が回らないの、ごめんなさい。また次回にお願いします!」
常連さんも追い返されていた。
一時間くらい経って、シェフのみんさんが一息ついたのか、笑顔でやって来た。台湾人は日本が好きな人が多いから、めっちゃ仲良し! あはは。
ぼくは彼にとっておきの日本酒をプレゼントしたことがあるし、彼はとっておきの紹興酒をくれたことがある。誰とでも仲良くなる、父ちゃん。
みんさん、うちの親戚にそっくりなのだ。タレ目だし、頭の骨格とか、死んだおやじにそっくりなのだ。久留米とか、大川の顔なんだよね、ミスターみん。あはは。
「いや、急にやめられちゃったから、人を探しているんだけど、やっぱ、アジア人じゃないとね。差別するわけじゃないけど、台湾料理を出すんだから、アジア顔がいい。それに、宗教上の理由で豚が食えないとか言われても、うち、まかないは豚が多いからさ」
やめた子たちは中国の人たちだった。すっごく性格のいい子たちだったから、残念だ。厳しいおかみさんともめたのかもなァ。めっちゃいい人なんだけど、・・・最初はぼくも怖かった・・・。笑。
「次に雇う子は、住み込みにする。面倒をみてあげる。三食は無理だけど、昼と夜のまかないは出すし、夜食とかもつける」
「すごい待遇だね。それならやめないね」
みんさんの料理はノルマンディ随一のアジア飯で、パリとか、かなり遠方からも来るし、人気店なのだ。でも、さすがにおかみさん一人ではサービスは成り立たない。
「みんさんのまかない料理はどんなもの?」
「その日の気分だけど、今日は、あんたがさっき食べた酢豚とか、卵スープとか、取り分けて食べるんだ、台湾式に」
ひゃあ、それは参加したい!!! みんさんの酢豚は絶品なのであーる。
※ みんさんのところの絶品、酢豚!!!ひゃああああ・・・これ食べられる店員さん、うらやましいね
ところで、パリ辻事務所もぼくがいる時は、まかないを出す。
今、事務所の出入りはけっこう多い。アルバイトの岡っち(新人)、シモン君(テック)、長谷っち、セギュールさん、モーリャックさん、ピエールとか、マントさん、ライブ前だから、ミュージシャンも、マリオもジョルジュも来るので、パリにいる時は、もちろん、ランチだけど、よくフライパンを振り回している。
父ちゃん、みんなが美味しいと言ってくれることを生き甲斐にしている、みんなの父ちゃんみたいな存在なのであーる。父ちゃんのまかないも、人気がある。
フランス人にはから揚げとか和風カレーが喜ばれるし、日本人スタッフさんには、欧風料理的なものが受ける。サラダをどかんと作って、真ん中に置き、みんなで分け合うスタイルだ。台湾と一緒やん!
「とんかつソースは二度漬け禁止やで」と大阪弁で言う。
大阪のスタッフさんが多いのだ。(なぜか、パリは大阪人だらけ)
スパゲッティも喜ばれる。作るの簡単だから、から揚げよりは楽かな。あはは。あ、お握りとか、お稲荷さんもよく出ます。
なんで、父ちゃんが「まかない」にこだわるのか、というと、そこにはある想い出が関係している。
父ちゃんがECHOESを結成する前夜、まだ「クオーク」というバンドをやっていた頃、父ちゃんは新宿にある「ジーンズのサンパーク」で働いていた。
そこは新宿界隈では有名な、今もあるのかわからないけれど、三平グループという飲食を手広くやっているチェーン店の傘下だった。
そのジーンズ部門でぼくはアルバイトしていたのだけど、ありがたいことに、ジーンズ屋なのに、まかない料理が出たのだ。
グループのビルの最上階に、まかない食堂があって、そこはグループのアルバイトさんならだれでも食べることが出来た。
腹いっぱい食べさせてもらっていたのだ。もちろん、まかないだから、たいしたものはなかったけれど、青春の味だった。
ずんぐりとした社長さんがたまにやって来て、笑顔で、うまいか、と言った。
一宿一飯の恩義という言葉があるが、宿はなかったが、毎日、食べ物にありつけたことは、お金のないミュージシャンにとっては何物にも替えられないご馳走であった。
カツカレーの日が一番うれしかったかな。
ぼくはそこで働かせてもらい、そこで食べて、バンド活動に専念することができ、結果、今がある。ベーシストのハルキや、ドラムのツトムともそこで知り合った。のちのECHOESへとつながるのだ。
三平食堂のまかないのおかげである。愛をくださーい♪
※ なんとノルマンディの自宅にやっとCDが届いたのであーる。みんさんとチャールズにあげた。オランピア劇場で販売しますね、サイン入り?記念アルバムとして。
だから、ぼくはスタッフさんに、美味しいものを食べて貰いたい、と思うのだ。
うちに遊びに来る子供たち、ニコラやマノン、そういう子たちにも美味しいものを作って、食べさせる。
そうすると、その子たちの記憶の中に、ぼくが三平社長のように、残るという寸法。
そういう大人がいた、という想い出が次へつながるよね。それがあるとないじゃ、ぜんぜん違うと思うのだ。
みんさんが、新しいスタッフさんに宿を与え、食事をちゃんと食べさせる、と言った時、ぼくは自分の若い頃のことを思い出した。
まかないの味、これこそ、人間を育てる味なのである。
※ オペラのホテルにもポスターが!!!
人生はつづく。
今日も読んでくれてありがとうございます。
ノルマンディにいると、まかないを作ってあげられないから、申し訳ないけれど、来週からいよいよ、オランピア劇場のライブリハーサルが始まるので、パリに戻ります。ぼくはメンバーに差し入れを作って持っていきますね。おにぎりとか、サンドイッチとか。そして、なんと、今日は4月29日、一月後、5月29日は、いよいよ辻歴史に残る、オランピア・ライブなのである。一月後へ向けて、もちろん、最大値の熱血で乗り切っていくのだ! えいえいおー! 熱血~!!!!!!!!!!
その前に、5月7日は、作家の父ちゃんが講師をつとめる「敷居のめっちゃ低い小説教室」が開催されます。ご興味ある皆さんは、下の地球カレッジのバナーをクリックしてみてください。あ、それから、再放送のお知らせ。
NHKBSプレミアム 「チョイ住み in ロンドン」 (2015年6月27日初回放送)
◆再放送日時:2023年4月30日(土) 10:30~12:00
5月29日、フランスは連休中ですけど、祭日の月曜日、オランピアのライブです。ぜひ、お時間のある皆さん、お越しください。
フランス国内、もしくは周辺国にお住まいの皆さん、ぜひ、遊びに来てください。日本からは遠いですから、来ていただきたいですが、時間がせまってきましたから、ご無理はさせられません・・・。無理のない範囲でお願いします。あ、席は絶対売り切れませんので、当日券山ほどあり、ご心配なく・・・。
席のご予約はオランピア劇場のサイトから、どうぞ。
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https://www.olympiahall.com/evenements/tsuji/
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もしも、日本から行きたいけど、不安という皆さんには、JALパック・パリさんが協力いたしますので、こちらをクリックください。現在、日本から50名くらいの方が来るだろうという予測です。本当に、大変なところありがとう。必ず、いいステージにしますね。約束!!!
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ついでに、父ちゃんのニューアルバム「ジャパニーズソウルマン」、お好きな音楽プラットホームから選ぶことが出来ますので、聞いてみてくださいね。
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